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「小さな会社こそブランド戦略が必要な時代」加藤洋一氏に聞く

  • MediaSabor 編集部

メディアサボール制作 「ロングインタヴューズ」 第22回目の企画。
テーマ: 「小さな会社こそブランド戦略が必要な時代」
■ゲスト:加藤洋一 (株式会社U.S.P 代表取締役) 

「ブランド」というと、イメージされるキーワードとしては高級、リッチ、富裕層、伝統、ファッションなどで、これまではどちらかというと資金力の潤沢な有名企業の商品戦略として語られることが多かった言葉です。「USP」を軸に企業のマーケティング支援を行っているゲストの加藤さんは、企業を取り巻く社会環境の変化から、小さな会社こそブランド戦略が必要な状況だと説いています。その理由は何か、大企業と中小企業のブランド戦略の相違点は何か、中小企業がブランド戦略を採るメリットは何か、それを実現するための手順は、いかにすべきかなどについて成功事例とともに語っていただきました。

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■加藤洋一(かとう よういち)氏プロフィール
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小さな会社の「USP(独自のウリ):Unique Selling Propositionの略」や「社長のコア」を見つけ、短期間で地域、業界のトップブランドにするコンサルタント。

ブランドを築くための施策のアドバイス範囲は、リアルからインターネット、映像までと幅広い。徹底した現場主義で、企業の持っている潜在的な技術や手順を、現場から汲み取り、社長、会社のコアに沿って、マーケティング施策に落としこむことを得意としている。その手法は、短期的な悩み(売上、集客、価格競争からの脱出)解決はもちろんのこと、長期的な経営戦略(ブランド価値の最大化)まで沿っている手腕が評価されている。過去、様々な業種・規模のマーケティング支援をしており、300社以上の小さな会社のブランドを築くお手伝いをしてきた。 
コンサルタント業以外にも、自らが経営に関わっている店舗を地域No.1ブランドに育てている。

主な著作に「小さな会社がNo.1になれるコア・ブランド戦略」(PHP研究所)、
「御社の売上を増大させるUSPマーケティング ──ウリ力(りょく)を強化する差別化戦略──」(明日香出版)がある。
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────現在の企業を取り巻く環境変化についてお聞きします。今の時代は、経済や社会、産業構造が大きく転換しつつあるといわれています。グローバル経済とか少子高齢化といったキーワードで企業経営の逆風がメディアを通じて報道されることが多いですが、加藤さんが活動の中心拠点としている愛知県において、実際に多くの中小企業の経営者や現場の方々と接する中で、肌で感じる経営環境の変化、厳しさは、どのようなものでしょうか。

(加藤)
従来の成功モデルとか成功体験が全く通用しなくなっていますので、変化できない企業は非常に厳しい情勢です。具体的にいいますと、愛知県はトヨタのお膝元ですが、トヨタの二次下請け、三次下請けにあたる製造企業は、ほとんどトヨタ任せの体質です。自らがクリエイトするメーカーになろうという意識の弱い会社は危険です。日本全体でみても、従来の製造加工型のビジネスは逼迫しています。状況変化を感じ取って行動したり、新たなビジネススタイルを模索しない企業は、立ち行かなくなるということです。裏を返しますと、環境変化に対応した行動をとれる企業にとっては、ものすごいチャンスが潜んでいる時代であるともいえます。


────日本の製造業は、海外企業が容易に真似できないような付加価値の高い製品に絞り込んで活路を見出すべきなのでしょうか。

(加藤)
何々屋という枠組みにこだわらないほうがいいです。自社が持っているコア・テクノロジー、コア・プロセスを活かして、他業界に参入するぐらいの気構えを持つべきです。


────次に、加藤さんが提唱されている「小さな会社のコア・ブランド戦略」についてお聞きします。「ブランド」といいますと、イメージされるキーワードとしては、「高級」「リッチ」「富裕層」「伝統」「ファッション」などで、どちらかというと資金力の潤沢な有名企業の商品戦略として語られることが多かった言葉です。加藤さんは、小さな会社にもブランド戦略が必要だと説いていらっしゃいますが、それは、先ほどの話にもあった、社会情勢の変化とも関連性がありますか。

(加藤)
あります。すでにモノは有り余っているじゃないですか。日本は、どのマーケットも成熟あるいは衰退の様相を呈しています。成熟してきますと、従来の機能面での差別化では通用しないため、感情、情緒を刺激することも含めたブランドづくりをしていかないと、消費者から選ばれない時代になっています。


────小さな会社がブランド戦略を実施するメリットは、どこにありますか。

(加藤)
消費者から選ばれやすくなり、顧客生涯価値(Life Time Value・ライフタイムバリュー)を高めることができます。私がよくいっているのは、「広く浅く」というアプローチよりも、ターゲットを絞り込み、高付加価値の商品、サービスを提供しないと利益が出せなくなっているということです。けれども、安易に安売りに走るとか無思考で商売をしているところが多いです。わかりやすい事例でいいますと、楽天ショップなどに出店していて売上は上がっているんだけれども、全然儲けが出ていないということがありがちです。反面、ネットショップには出店してないけれども、付加価値の高い商品、サービスを提供することで、しっかりと利益を出している会社を、いくつも見てきています。そういう意味では、小さな会社であればあるほど、ブランドの確立が重要性を帯びている時代だと認識しています。


────安売り競争に巻き込まれてしまうと、中小企業は資金力に勝る大企業に勝てないんだということを強く意識しておく必要がありますね。

(加藤)
そうです。


────大企業が行っているブランド戦略と小さな企業が行うブランド戦略について、考え方や実際の施策面で大きく異なる点はどんなことですか。

(加藤)
大企業はテレビCMなどに高額な費用を投じてイメージづくりを行っていますが、小さな会社は逆立ちしても、そのようなことはできません。率直にいいますと、社長のコア(核)をどう表現するかです。社長のコア(核)そのものがブランドなんです。社長の生き方や美学、哲学といったものです。変えてはいけないところと変化させてもいい部分の整理だと思っています。それが、市場に「○○だったら▲▲だよね」と認知させる近道だと考えています。


────小さな企業のブランドというのは社長自身であり、生き方や美学、価値観が仕事と結びついていることが望ましいわけですね。

(加藤)
社長の考え方、価値観のなかで変えてはいけないところが整理されていると、お客様に一貫性がある主張として伝わります。もちろん、こうしたことを無意識のうちに実践している企業はあるのですが、それを意識して展開することによってマーケティングの観点からみますと営業コスト、広告コストの削減に繋がったりします。成熟化社会における顧客獲得コストはどんどん高くなっていきます。コア・ブランド戦略を打ち出すことによって、そのコストを低減化させることができるのです。


────ここで、加藤さんが直接関わっていたり、あるいは見聞きしてきた企業の中で、ブランド戦略が功を奏している事例をいくつか挙げてもらえますか。

(加藤)
はい。飲食店に携わっている方が聞いたら、びっくりしますが、改装などを行わずに平均単価が4倍になったカジュアルフレンチレストランがあります。「デラセラ」という愛知県一宮市にあるお店ですが、誕生日、記念日のお店というブランドが浸透することで来客が増え、客単価もアップしました。アンケートを繰り返していくうちに、メニュー化していないのにもかかわらず、オーナーシェフがやっていた誕生日をお祝いするサービスが強く支持されていることに気がつき、お誕生日祝いをパッケージしたメニューを開発し、お客様にDMを出したり、フリーペーパーなどに広告を掲載し出した途端、目覚しい勢いで来客が増えたんです。

次に、作業用工具のメーカーでヒットブランドを育てた会社を紹介します。頭がつぶれたネジを外せるプライヤーという工具「ネジザウルス」が大ブレイクしたメーカー 株式会社エンジニア(大阪市)です。「ネジに食いついて回す」というところから、商品を恐竜のイメージにすることにし、ネーミングを「ネジザウルス」とし、パッケージにも恐竜の絵を入れました。それだけに留まらず、工具に化粧をしたり、キャラクターの設定に時間を費やしたりしました。工具という商品は典型的なコモディティで、差別化がしにくい商品であり、機能面だけで勝負しても、なかなかヒットには繋がりません。「ネジザウルス」の場合は、情緒面に訴えたこと、遊び心がある点が市場浸透に結びつきました。所ジョージさんのテレビ番組など、メディアにも何度も取り上げられました。


────地域、業界No.1になるための8ステップとして加藤さんが提唱されている事項を紹介します。

(1) 社長のコアを見つける、伝える(ブランディングのためにブレない軸をつくっておく)
(2) コア・テクノロジー/コア・プロセスの明確化
          (ブランディングするための商品・サービスの隠し味を見つける)
(3) ブランディングする商品・サービスの選定
     (突破口を開くために強い商品を見つける)
(4) 商品・サービスのシュガー・コート
     (「おいしそう」と思われるようにお客様目線で思考する)
(5) ライバルの商品・サービス調査(業界でのポジショニングを確認する)
(6) マーケティング施策の見直し(マーケティング活動をお客様目線で見直す)
(7) ブランド浸透度リサーチ(「●●だったら▲▲だよね」が出来ているか調査する)
(8) ブランドの維持および他展開(ブランドの維持と展開の方針を決める)

この一連の流れについて解説していただけますか。

(加藤)
コア・ブランド戦略の肝は、社長自身の価値観を言語化できるレベルまで明確にし、自分の棚卸をしておくことです。ブランドを築くために変えてはいけない軸をつくっておくのです。これを行わないと、経営がいきあたりばったりになり、社員の行動や考え方を同じベクトルに持っていくことができません。お客様にも商品やサービス内容の特徴が伝わりにくくなります。

次の「コア・テクノロジー/コア・プロセスの明確化」というのは、ビジネスモデルを支えている会社内部のプロセス(手順、工程)や核となる技術を洗い出しておくことですが、意外と会社内部の人たちは、これに気がついていないことが多いです。これは、競争優位の源泉になるものなので、マーケティング戦略上、重要な事項になりますし、新たな商品開発や新規事業を考える上でも、拠り所になります。

ステップ3は、「ブランディングする商品・サービスの選定」になります。経営者と話していて、ありがちなケースとしては、「うまくいってない弱い商品」をなんとかしたいと希望されることがあります。私は、それは逆だと思っていて、強い商品、エース候補の商品をブランディングしていくべきだと主張しています。強い商品をより強くするためのブランディングをしていったほうが、小さな会社のブランドを築くための突破口になり、すべてが好循環になる可能性が高いからです。モノが飽和状態になっている成熟社会においては、平均的なレベルを目指すのではなく、独自のウリを持っている尖った会社にならなければなりません。

以上のことが整ったら、「商品・サービスのシュガー・コート」の段階に入ります。これは、プロモーションを打ち出す作業ですが、お客様の購買意欲を刺激するべく、ネーミングやキャッチコピー、パッケージ、販促ツールなどによって、ベネフィットをお客様目線でアピールしていくことになります。ベネフィットには商品・サービスの性能面を表す「機能的ベネフィット」と商品・サービスによってもたらされる感情面の「情緒的ベネフィット」の二つがあります。

ここまでは自社の掘り下げです。次のステップは、「ライバルの商品・サービス調査」になります。おうおうにして、これを最初の段階で施行しがちなのですが、他社ブランドに引っ張られてしまい、独自のブランドを築きにくくなるため、順番を後に持ってきています。孫子の兵法に「彼を知り己れを知らば、百戦して殆(あやう)からず」という言葉がありますが、コア・ブランド戦略においては、この言葉を逆にして、まずは自社を掘り下げることを優先する必要があります。

ステップ6は、「マーケティング施策の見直し」です。「●●だったら▲▲だよね」という自社のUSP((Unique Selling Proposition:独自のウリ)を市場に浸透させるべく、インターネットを含めた、あらゆるマーケティング施策において、これを念頭に入れた表現に変えていきます。


────これまでの売り手目線のマーケティングとしては、よく「4P」という言葉が使われてきました。製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の四つですが、ステップ6で実施するお客様目線のマーケティングという概念は、どのようなものなのでしょうか。

(加藤)
売り手目線で考えられた「4P」に対して、もっとお客様目線で考えようということで、「4C」という概念が注目されるようになってきました。製品(Product)に対して「お客様にとっての価値(Customer Value)」、価格(Price)に対して「お客様にとってのコスト(Customer Cost)」、流通(Place)に対して「お客様にとっての利便性(Convenience)」、プロモーション(Promotion)に対して「お客様とのコミュニケーション(Communication)」という視点です。この視点で思考しつつマーケティング施策を実施していかないと、小さな会社のブランディングは、うまくいかないことを覚えておいてください。


────小さな会社のコア・ブランド戦略について一連の流れを解説していただきましたが、これを成功させるために特に重要なことがらは何になりますか。

(加藤)
それは、迷わずに「社長のコアを見つける、伝える」ことだと断言できます。それが全ての根源になります。社長の価値観を棚卸しして明確化したら、理念やクレドとして文章化し、社員に伝わるように徹底的に浸透させていきます。そして、ブレない価値観を共有しあうのです。私は、仕事柄多くの小さな会社の社長にお会いしますが、成功している社長ほど、ご自身の価値観が言語化されています。

 

 

 


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