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拡大する米国オーディオブック市場。格安自費出版支援の動きも要注目

米国のオーディオ・ブック市場は、iPodやMP3プレーヤーの技術的発達と、市場への普及に応じて急激に伸びている。ここで注目したいのが、大手出版社やオーディオ・ブックメーカーから、著名人の小説やノンフィクション作品が発売されている一方で、宗教関係者や自費出版を試みる作家たちの様々なオーディオ・ブックも作られている点だ。特に自費出版を望む人にとって、書籍を出版するよりも安く、それでいてネット配信を通じて、マーケットを世界にターゲットすることができることが、こうした作品発表が大きく伸びている理由だ。

イノヴォ・パブリッシング(http://www.innovopublishing.com/)は、カトリック並びに健全な本(ホールサムブック)の自費出版を手がける、テネシーの小さな出版社だ。これまで主に自費出版の印刷物の発行を行なってきたが、昨今のオーディオ・ブック市場の伸びから、今年2月、オーディオ・ ブック出版部門を設立。5月にはInnovo Audioというレーベルをリリースするに至った。

イノヴォの特徴は、「VoiceBank」グループと名付けられた、オーディオ・ブックのための声優たちを多数抱えているところ。さらに最短45日で納品という点も、魅力の一つだ。自費出版の費用は、これまで主流だった出版物が、$700(約7万円)からというのに対して、オーディオ・ブックは$150(約1万5千円)、さらに徐々に一般的になってきたeブック(オンライン本)に限って、$120(約1万2千円)から可能だという。

またロイヤリティーについては、これまで自費出版の場合でも出版元となった会社が取ることがほとんどだったが、イノヴォにいたっては、100%著者にロイヤリティーが支払われる仕組みだ。また流通についても、イノヴォを介してアマゾンや、バーンズ&ノベルズといった、大手のオンライン流通経路に乗せることが可能で、オーディオ・ブックやeブックについては、iTunesやemusicといったサイトでの販売も可能になった。

自費出版に限らず、マーケットの伸張とともに絶対母数が増長する中で、レンタル業界も動き出した。SimplyAudiobooks.comは、2003年から北米でオーディオ・ブックのレンタルを開始。現在では30カテゴリー、2万2千以上のオーディオ・ブックのレンタルを可能にしている。米国のDVDレンタル会社Netflix社と同様、月額$17.98のフラットレートで、返却さえすれば、月に何枚でもレンタルが可能。なおダウンロード会員になれば、毎月定額で、オーディオ・ブックのMP3データのダウンロードが可能。通常、作品によって価格のばらつきがあるオーディオ・ブックだが、SimplyAudiobooks.comのダウンロード会員になれば、$14.95で毎月1作、ダウンロードが可能となる。

ところで、ボランティアによって運営される米国のNPO団体、LivriVox(リブリヴォックス http://librivox.org/)は、サイト上でパブリックドメイン(知的財産権が誰にも帰属しない作品)を朗読した音声を収録し、配布している。例えば、日本の百人一首や、松尾芭蕉の「奥の細道」、ヴィクター・ヒューゴの「レ・ミゼラブル」、米国の歴史などが現在ライブラリーに保管されており、こうしたサービスがあることによって、オーディオ・ブックに馴染みのない人の導入に結びついている。また一方で、<オーディオ・ブック俳優>を目指す声優たちにとっては、素晴らしい発表の場となっている。こうした状況は、ロサンゼルスタイムズをはじめとした、米国地元メディアでも取りあげられている。http://articles.latimes.com/2006/jan/15/business/fi-technopolis15

このような動きを総合的に捉えてみると、オーディオ・ブックという市場は、忙しい現代人にとってぴったりのメディアといえよう。と同時に、文字離れが心配される若者世代に対して、耳からとはいえ、マンガやアニメとは異なるストーリーに触れる機会を増やす可能性が秘められている媒体になるともいえるのではないか。これからの業界の動きには注目したい。


【編集部ピックアップ関連情報】

○メディアサボール 2008/10/01
 「米ソフトウェア会社がポッドキャストのポテンシャルを徹底追求」
http://mediasabor.jp/2008/10/post_493.html


○メディアサボール 2008/05/21
 「同性愛本から児童書まで。ネット配信で活気づく米オーディオブック市場と火種」
http://mediasabor.jp/2008/05/post_391.html


○しみじみと朗読に聴き入りたい  2009/05/04
 「注目したいアマゾンのオーディオブック展開--朗読愛好家にとって朗報?」
 これらの一連のニュースをみると、オーディオブックの流通の世界に
 大きな変動が起きるような予感がしてきます。それは、ダウンロード販売
 とCD販売の両方についてです。
http://blogs.yahoo.co.jp/teabreakt/52563926.html

 

 


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