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長谷川和廣×本田雅一 対談 「不況下の企業再生と個人の生き残り」

  • MediaSabor 編集部

メディアサボールのビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」 第18回目の対談企画。
テーマ: 不況下の企業再生と個人の生き残り(放送時間:98分)
■ゲスト:長谷川和廣   インタビュアー:本田雅一(ジャーナリスト)

金融経済ショックやグローバル化、市場縮小、消費者心理の変化などの要因により、多くの企業が存続の岐路に立たされています。いわば、「倒産時代」という状況であり、これは一時的なものではなく、根深い冬の時代が続くことが予測されています。今回のゲストは、2000社を超える再生事業に参画し、多くの企業を甦らせてきた企業再生のプロフェッショナル 長谷川和廣氏です。「利益を生み出す組織、仕組みの作り方」のセオリー、原理原則とは何なのか、様々な角度からインタビュアーが迫ります。豊富な経験に基づく方法論を知り、自ら実践していくことが機能する組織づくりの第一歩になります。企業再生と個人の生き残りは表裏一体であり、個を活かしながら意味のあるコミュニケーション戦略を実現することの重要性に気づかされます。

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<長谷川和廣(はせがわ かずひろ)氏プロフィール>

1939年千葉県生まれ。中央大学経済学部を卒業後、マルチナショナル企業である十條キンバリー、ゼネラルフーズ、ジョンソン等で、マーケティング、プロダクトマネジメントを担当。その後、ケロッグジャパン、バイエルジャパン、バリラックスジャパンなどで代表取締役社長などの要職を歴任。
2000年、株式会社ニコンと仏エシロール社の合弁会社 株式会社ニコン・エシロールの代表取締役に就任。50億円もの赤字を抱えていた同社を1年目で黒字へ、2年目で無借金経営に変貌させた経営手腕は高く評価されている。

現在は会社力研究所を設立し、国際ビジネスコンサルタントとして活躍する一方、これまで2000社を超える再生事業に参画した実績や、数々の商品企画を成功に導いてきた経験をもとに、「利益を生み出す組織、仕組みの作り方」をはじめ様々な分野で多くの企業を指導している。
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  (月額780円)  ⇒  http://mediasabor.jp/interview.html


音源本編から、その一部を切り取った対話を下記に掲載いたします。

 

(本田)
───2009年に出版された著書「社長のノート」のもとになったのが、長谷川さんが27歳のときから書き始めた200冊を超える「仕事のノート」だということですが、きっかけを教えていただけますか。

(長谷川)
若い頃は知識不足です。キャッチアップしていくためには、模倣、真似る、という行為が大きな力になっていきます。それで、仕事を通じて、「おやっ?」と感じたことなどを書き留めていったことがバックグラウンドになっています。

(本田)
───27歳のときというのは、何かターニングポイントがあったのでしょうか。

(長谷川)
外資系の会社へ転職した時期になります。戦後、日本が疲弊状態にあったときに、これから日本をよくしていくために、何か指針となる経営手法がないだろうかということで、日本生産性本部がアメリカに密使を送ったんですね。そのときに持ち帰ったのが、実は「マーケティング」という概念だったんです。そのマーケティングを日本に進出してきている外資、特に米国系の企業から学べるのではないかという思いがありました。27歳のときに、日本の十條製紙と米国のキンバリー・クラーク社が合弁し、十條キンバリー株式会社ができまして、日本に「クリネックス」というティッシュペーパーを導入しようとするスタッフとして参画できることになったのです。いわば、日本のマーケティングの夜明けだったわけですが、その現場で毎日のように「おやっ?」と思う事柄があったんです。新鮮な知識として、それをノートに記録していったんですね。

(本田)
───当時、日本企業にはマーケティングという考え方は、ほとんど存在していなかったんでしょうか。

(長谷川)
そうです。早期にマーケティング戦略を導入した企業は、ライオン、花王といったところです。米国の同業種としてはP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)がありましたが、そういった海外企業が実践していたマネジメントノウハウを日本の企業も取り入れていったんです。

(本田)
───長谷川さんの「仕事のノート」は、最初は、外資の企業からマーケティングを学ぶために、色々と気づいたことをメモしていくというものだったわけですが、その後、だんだん、内容や書き方が変わっていったのでしょうか。

(長谷川)
人間の成長にはロードマップがあると思っているんですね。年齢や経験に応じて、関心を持たなければならない分野あるいは理解が得られる分野があります。その長年に渡って蓄積してきた記録を集約し、「社長のノート」という書籍として発表しました。

(本田)
───昨今、サブプライムローン問題やリーマンショックなどの金融危機により、市場経済が混乱している状態ですが、今後の経済情勢、市場動向、消費者心理の変化をどのように予測されていますか。

(長谷川)
企業を取り巻く環境変化は、大きく二つの軸で考えることができます。その一つが「グローバル化」です。金融危機が局所的なものに止まらず、世界に連鎖していく現象がみられますが、本当の意味での回復に至るには相当長期の期間を要すると思われます。

もう一つは、日本固有の問題です。それは、突き詰めていくと人口問題になります。人口と需要には強い相関関係があります。10年先の日本の人口は、恐らく、現在より1割程度の減少になります。どの分野にせよ、マーケットの大きさが1割減るというのは甚大な影響を及ぼすことになります。私は、今回の金融危機が起こる数年以上前から、日本企業が深刻な問題に直面するであろうことを予測していました。それは、私がつきあっている外資のトップの意思決定からも感じていました。数年前から、日本市場に対する興味が薄れてしまったんです。年間に3から4回、来日していたのが1回に減り、あとは、私からのリポートで済ませようという態度でした。昨今、日本から外資が撤退するという報道がありますが、マーケットとしての魅力が薄れていることの表れです。

このような大きな二つの環境変化から、どのように企業および個人が活路を見出していくのかが問われています。

(本田)
───日本のバブル経済真っ只中の頃は、日本企業の海外進出の意欲が高かったのですが、バブルがはじけた後は、内向きになってしまい、海外市場開拓の積極性が低下していったように思えますが、今後も、その傾向が継続するようであれば、ますます厳しい状況に陥ってしまうのでしょうか。

(長谷川)
誤解を受けるかもしれませんが、私は、日本は貧乏な国になると思っているんです。企業経営の観点から申しますと「業績悪化の時代」といっているのですが、本音は「倒産時代」といいたいところなんです。今、私が相談を受けている、ほとんどの企業がこれから10年先まで、どのように生き延びるかという深刻な問題に直面しています。

(本田)
───経営側もそうですけれど、労働者側も意識をどんどん変えていかないといけませんね。

(長谷川)
ここにきて新興国の台頭がみられますが、グローバル経済下における仕事の奪い合い、労働者の賃金推移が、賃金の高い日本の労働者にとって、ひいては日本経済に大きな影響を及ぼすものになると考えています。今年の春闘を見てもわかるように、ほとんどの労働者の収入は少なくなっているはずです。金融危機などを踏まえた経営改革の断行により収益を回復させた企業もありますが、その恩恵が労働者の懐までには回ってこないという様相です。

(本田)
───それは、かつてバブルがはじけて市場が収縮したにもかかわらず、一部の大手企業においては、何年か労働者の賃金は上がり続けました。そのツケが現在、回ってきているとみていいのでしょうか。

(長谷川)
特にグローバル市場で勝負している日本企業にとっては、高コスト体質のままでは世界の中で競争優位に立てない、という結果になっています。内需拡大が叫ばれることもありますが、成熟化、飽和化の現在に至っては、それはかなり困難といわざるを得ません。輸出企業の今後の建て直しが、日本経済全体の中でも大きな意味を持つことになります。

(本田)
───最近の傾向として、一部の好調企業による市場の寡占化が進んでいますが、不況下において今後ますます、その様相は色濃くなるのでしょうか。

(長谷川)
それは否めません。どういうことかといいますと、市場が縮小傾向にある場合、取れる手段としては自社商品のシェアを高め、他社から顧客を奪わなければなりません。そうなると必然的に一部の強者が残り、弱者は淘汰されることになります。

(本田)
───著書「社長のノート」に、赤字の再生企業に出向いた際、長谷川さんがまず味方につけたいと思う人材は「変化することができる人」という記述があります。この意味合いを教えていただけますか。

(長谷川)
赤字企業の再生に着手したときには、まず、どんな状況なのかを見極めることが重要になります。その見極めが間違っていると正しい対応策が打てません。そして、会社を変えることができる人材がいるかどうか、それを見つけることができるかどうかが成否を分けることになります。赤字会社の特徴として、社員が誇りを失っていることが挙げられます。

(本田)
───有り体の言い方かもしれませんが、負け犬根性が蔓延しているということでしょうか。

(長谷川)
そうです。そういう会社は、まず誇りを取り戻すことから始めなければなりません。もちろん、全社にそれを短期間で浸透させることは難しいので、会社をよくしていこうとする意識の高い人を見つけて、その人を三ヶ月で戦力として仕上げることをします。

(本田)
───そうした人材の発掘は、現場で働いている人を中心にみるのでしょうか。それとも、あらゆる階層が対象になるのでしょうか。

(長谷川)
私は、規模が大きい会社であっても、できる限り従業員一人一人に一時間かけて、インタビューを実行します。そうすることで、会社の人的能力がどの程度であるか、おおよそ把握できます。その中から見つけるんです。

(本田)
───とすると、最初から階層や部門、職種を限定して発掘するわけではないんですね。

(長谷川)
そうです。たとえば、マーケティング強化のための人材を発掘しようと意識している場合、それ以外の部署に思わぬ好人材が潜んでいるといったことがあります。技術者であってもマーケティングセンスがあり、商売人の気質を併せ持っているような人がいます。そのような人を見出し、鍛え直して三ヶ月で戦力化するのです。

(本田)
───以前、この番組のインタヴューで、ゲストの方が、「マーケティング」「技術」「マネジメント」のそれぞれの立場の人が、互いのことを理解しあいながらプロジェクトを推進していかないと、なかなか企業力が高まっていかない時代になっているという話をされていたことがありました。まさに、その考え方に通じるものがあります。

(長谷川)
日本でマーケティングといいますと、広告宣伝や市場リサーチのことを思い浮かべる人が多いと思いますが、それはマーケティングの本質ではありません。1929年、アメリカが大恐慌に見舞われたときに、市場はどんどん小さくなりました。そのときに、企業が生き残りを賭けて編み出した方策が、マーケティングというものの考え方だったのです。


<全体の対話項目>
◎27歳のときから書き始めた200冊を超える「仕事のノート」について
◎今後の経済情勢、市場動向が企業経営に与える影響
◎一部の企業による市場寡占化は、今後も進むか。好調企業の特徴は何か
◎赤字企業再生における「変化することができる人材」の発掘
◎マーケティングの本質
◎冬の時代が予測される今後の市場における企業の生き残り戦略
◎企業再生の軋轢、抵抗、障害などの困難をどのような思いで乗り越えてきたか
◎衰退企業の組織に見られがちな特徴や傾向
◎企業再生に臨むときに最初に着手すること
◎コストカットの手法と哲学
◎機能する組織づくりの方法
◎「業務チェックリスト計画書」作成の効用
◎組織活性化のために部署を問わず個人個人が留意、実践すべきこと

 (2010年4月20日収録)


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