Entry

メソッドか、根強い伝統か? フィンランドでボードゲームが売れる理由

 フィンランドでは、ボードゲームが健在だ。その存在を意識したのは、長男の保育園の先生から「おうちに何かゲームはありますか?」と聞かれた時。「はい? ゲーム?」 長男はまだ3歳だった。3歳児が遊ぶゲームって? とあんぐりしていると先生はなおも、「メモリーゲーム(神経衰弱)だったらもう遊べるはずです。おうちの人と順番にカードをめくれば、社交性やコミュニケーション能力が高められ、ルールを守る練習にもなります」と、ガンガンに勧めてくる。


3歳以上の幼児向けのメモリーゲーム。ハートの形のもの、道路標識や
アルファベットが描かれているものなどと種類が豊富。



 園でもそんな高度なことをやっているのかと、教室の中を見渡すと、おもちゃの棚の一番上に、ゲームと思しきものの箱が10個ほど積み重なっている。園児の一人が早速、先生にとってもらって机の上で箱を開いた。一人でボードゲーム? と思って見ていると、園児は箱の中に手を突っ込んでサイコロや色とりどりのコマを手に、その感触を楽しんでいる。やがて箱を手に机を囲む園児が二人、三人と増え、登園直後の喧騒がゲームをいじる音に切り替わった。ゲームによる早期教育? フィンランド・メソッド?!(注1)と思い、先生に聞くと、これは単に細かいものを与えておくと園児が静かになるからであり、特に意味はないとのこと。少々、ずっこけたが――上記の理由により、フィンランドの保育園ではボードゲームが盛んに遊ばれている。


保育園でも大人気のムーミペリ。60年に渡って子ども達に親しまれている。



 さて、早速地元のスーパーやおもちゃ専門店に足を運んでみると、ボードゲームはおもちゃ売り場の約2割を占め、幼児用のメモリーゲームは、色柄違いで5種類も見つかった。それ以外にも、サイコロを使ってチョコレートを集めるゲーム、厚紙でできたパンにハムやレタスをのせてサンドイッチを作るゲームなど、幼児向けのゲームは多種多様にある。統計には無いが、これまで訪問してきたフィンランド人家庭で見てきた限りでは、ボードゲームの数は、一家庭に平均して7台ほど。欧州最大のボードゲーム市場はドイツだが、フィンランドも相当なものだ。


国内外でのベストセラー、アリアス。言葉を説明する、知能エンターテイメント
ゲームだ。写真のオリジナル版以外に、ジュニア・アリアス、ムーミン・アリアス、
パーティー・アリアスなどもある。



 では、フィンランドでは何故ボードゲームが盛んなのか。周りのフィンランド人に聞くと、先の保育園の先生同様に、子どもに良いからだと皆口を揃えて言う。さらに、既に6月から始まっている、10週間にも及ぶ学校の夏休み中、家で、サマーコテージで、家族でテーブルを囲んでボードゲームを遊ぶのは大の定番だ。同じ理由で、クリスマス休暇もサンタさんから贈られた新しいボードゲームは重宝する。子どもだけでなく、大人用にバーやカフェにも置いてあり、大人だって真面目に遊ぶ。しかし、PSやニンテンドーに市場を圧迫されているのでは? と心配すると、確かに子ども達と一緒にテーブルに座る時間が減少傾向にある忙しい現代人の間では、子どもの相手もしてくれるビデオゲームに流れる傾向は止められないだろうとのことだった。


サイコロの6が出たらスタート!食うか食われるかのスリリングなゲーム、
キンプレ。ゴール目前のところで、手持ちのコマを食べられると大泣きして
へそを曲げる子どもも。負けても泣かない、怒らない。家での情操教育
にも一役買っている。



 一方、国内のボードゲームメーカー、Tictac(注2)とPelikoに話を聞いてみると、ビデオゲームとボードゲームではそれぞれの用途も持ち味も違うので競争相手ではないと、強気な姿勢を見せる。実際にフィンランドでは、一家庭につき年に2から4台は売れるというように、ボードゲームは安定したマーケットである。その理由の一つは、価格の安さ。ボードゲームの平均価格は15から25ユーロとお手頃だ。二つ目は、ビデオゲームには無い特性である社交性が挙げられる。若年層では、パーティーゲームの市場がこれまでになく拡大傾向にあるという。また、三つ目には、これらのゲームが伝統的要素を持っているということが言えるだろう。


「アフリカンタハティ(アフリカの星)」という名のダイアモンドを探して、
盗賊にあったり、飛行機で逃げたり。このスリル満点の冒険ゲームは、
アフリカの地図が描かれた紙の上で遊ぶ。



 実際に、Pelikoの「アフリカン・タハティ」は1951年に製造されて以来、販売台数が約200万台以上も売れ続け、Tictacの「キンプレ」は1967年に発売されて以来、一家庭に一台というぐらいに定着している。日本でウルトラマンやガンダムを二世代で見るような感覚で、フィンランドでは、子どものころ熱中したボードゲームの数々を、懐かしみながら親が子どもに伝えているのである。ちなみに、フィンランド国内における一番のヒット商品はTictacの「アリアス」シリーズ。バルト海の近隣諸国でも大変な人気で、リトアニアでは、リトアニア版が「モノポリ」を抜いて3年連続一位の売上に輝いている。ボードゲーム、元気一杯! である。

(注1)
「フィンランド・メソッド」とは、フィンランドの教育現場で使われている教授法を日本でまとめて体系化されたものに対してつけられた名称であり、地元フィンランドではそのように呼ばれることはない。

(注2)
Tictac社 : 国内シェア36%を誇るフィンランド最大のボードゲームメーカー。スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、オランダ、フランスとイギリスにも代理店を構える。インタビューの際に、「日本のビジネスパートナーを募集中」と熱いメッセージをいただいた。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Nariの書斎から「フィンランドメソッドとフラッシュ」2008/11/28
http://sugc.cocolog-nifty.com/nari/2008/11/post-b7d0.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/1085