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2018年に電子出版物売上げが紙書籍を上回る?フランクフルト書籍見本市2009

今年もまた「世界出版業界のオリンピック」と言われるフランクフルト書籍見本市が10月中旬に開催された。出版業界におけるデジタル化の進行をとめることの出来ない昨今、見本市CEO(最高経営責任者)ユルゲン・ボス氏は開会にあたり「今後のビジネスモデルを模索する実験的姿勢の場」を約束した。


開会式にて・見本市CEOユルゲン・ボス氏 (Copyright)Frankfurter Buchmesse

同見本市でも話題を集めた書籍のデジタル化展開とドイツではまだまだなじみの薄い電子書籍は、国内の読者に一体どう受け止められているのだろうか?


■経済危機もなんのその・順調な伸びを続けるドイツ出版業界

フランクフルト書籍見本市は、毎年10月に5日間(うち一般公開は2日間)開催される。今年は、10月14日から18日の間に100カ国から約7300の展示業者が集まり、3000以上に及ぶイベントが催された。中国をゲスト国に迎えて、「世界最大のメディア・ビジネス見本市」として開会前より大きな注目を集めた。

入場客は、前年より2,9%減少したものの(290,469人、2008年は過去最高299,112人)、業界関係者にとってはネットワークを作り取引を行うことができる重要なミーティングポイントである。世界の書籍の版権に関する販売交渉が行われる文学エージェントセンターでは、出展申し込みが前年度に比べ11%増加した。 

今年の見本市は、世界の経済危機による影響で出展者や入場客の減少など大きな痛手を負うのでは? と言う関係者の懸念をよそに、紙の書籍と電子書籍を交え大成功のうち幕を閉じた。


15年間に渡り交渉し続けた今年のゲスト国・中国 
(Copyright) Frankfurter Buchmesse

フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)によると、今年1月から9月までの国内書籍総売上高は、およそ100億ユーロ(1兆3600億円・1ユーロ=136円)と昨年同時期と比べて2,8%増の伸びを見せた。ドイツ図書流通連盟(Börsenverein des Deutschen Buchhandels)CEOゴットフリード・ホーネフェルダー氏は、今回の見本市で「ドイツ出版業界は、経済危機の影響もなく今年も落ち込みは見られない」と見解を語った。

書店の売り上げも好調だ。2008年度を見ると、国内大手のタリア、8億5500万ユーロ(前年比6,7%増)、DBH7億5500万ユーロ(6,2%増)、Mayersche1億6000万ユーロ(10,3%増)と年々右肩上がりの売上高を達成している。


入場客を惹きつけた今年度ノーベル文学賞受賞者ヘルタ・ミュラー女史。
受賞のニュースから数時間後、彼女の作品「Atemschaukel(息のブランコ)」は
ベストセラーランキング11,012位から一挙に15位に躍り上がった.。
書籍見本市時は1位となった。
(Copyright)Frankfurter Buchmesse

 

■デジタル化の波に飲まれるか?

紙の書籍は売上高を着実に伸ばし続けている。

とは言うものの、デジタルネットワーク化による影響はここドイツでも顕著だ。特に、インターネット通販分野では昨年度総売上高の10%以上を占めるまでになった(2006年は7,6%)。ネットの利便さにより店じまいを迫られた書店や職を失った店員も数知れない。

また、インターネットの普及は、分野別の書籍売り上げにも表れ始めた。昨年は、大衆文学6,7%増、実用・解説書0,8%増、専門書・教科書や学習用0,9%増に対し、児童・青少年文学4,8%減、旅行ガイド15,2%減である。

さらに、電子書籍の到来だ。ドイツでは、今年3月ソニーの「リーダーPRS505」がまず市場にお目見えした。当時約2百万人の読者が購入したいと興味を示した。続いて10月19日にはアマゾンの「キンドル」が上陸した。

ちなみに、電子書籍についてはドイツ人のわずか4分の1が知っているのみで、国内ではまだまだ知名度が低い。電子書籍を所有しているのは国民の2%にも及ばない。20%は、値段のいかんで購入してみたいという。大多数は、200ユーロ以上は投資したくないという結果が出た。(Pricewaterhouse Coopers 社による調査 )


ドイツではまだまだ馴染みの薄いE-book   
(Copyright) Frankfurter Buchmesse

話はさかのぼるが、今年のフランクフルト書籍見本市開催前に見本市事務局とドイツ語書籍販売者向け専門誌「書籍レポート・buchreport」による世界の出版業界関係者840社を対象としたアンケート調査「デジタル化展開は出版業界紙媒体をどう変えるのか」が行われた。

その結果、回答者の約50%が2018年には、電子出版物の売り上げが紙の書籍を上回るだろうという未来予想図を提示した。回答者の多くが、2011年ごろには電子部門の売り上げが全体の10%を越すと予想した。また、電子書籍の価格は、紙の書籍の30%ほどを下回るのが好ましいと思われている。主な回答者は74%がヨーロッパから、11%が米国から、4%が英国からであった。


■著作権、価格拘束の保護を強化

今後、ドイツ企業も自社製の電子書籍を発売するようだが、連邦政府としては、著作権と書籍価格拘束の保護を強化する意向だ。電子書籍端末利用においても著作権の保護をするべきだとの態度を示している。

統計によると、ドイツ人1人当たり読む書籍の年間平均は8,9冊、書籍投資額は1人平均およそ400ユーロ(54000円)とのこと。電子書籍は、すばやくダウンロードできる、読者の必要な時にいつでも書籍を購入できる、選択肢に幅が出来た、などなどメリットも多く魅力的だ。しかし、「本の虫・Bücherwurm」はまだまだ紙の書籍を手にしたいと言うのが今のところのドイツ人の本音なのかもしれない。

ドイツでは書店に購入したい本がなければ注文した翌日には手に入るシステムが整っている。注文した本を手に入れるまで待つことも楽しみの一つなのではないだろうか。


<参考文献>
Wirtschafts Woche Nr.42, 12.10.09
Frankfurter Allgemeine Zeitung Nr. 239, 15.10.09
Börsenverein des Deutschen Buchhandels.http://www.boersenverein.de/ 
Frankfurter Buchmesse   http://www.book-fair.com/de/
Buchreport http://www.buchreport.de
Stern   http://www.stern.de  

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○CNET  2009-10-16
 「グーグル、オンライン書籍販売を2010年前半に開始か--海外報道」
 Amazonは気をつけたほうがいいだろう。Googleが、オンラインで
 書籍販売事業へと乗り出してくるからだ。Googleは現地時間10月15日、
 フランクフルト国際ブックフェアにおいて、ウェブブラウザがあれば
 だれでも購読できる電子書籍販売の新サービス「Google Editions」を
 2010年前半に立ち上げると発表したという。
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20401717,00.htm



【新番組プロジェクトPR】

<オンライン音声対談番組「ロングインタヴューズ」キャンペーンのお知らせ>

ビジネス分野を中心に月に2から3名の専門家や経営者、クリエイターなどの先達をゲストに迎え、経験豊富なインタビュアーが時代の潮流、智恵、ノウハウに迫る対談を2009年10月からネット上で配信開始いたしました。放送時間は1本あたり60から90分程度です。音声コンテンツなので、忙しい方でも通勤時間や移動時間に聴くことができ、海外に住んでいる方でも聴取可能です。インタビュアーが本音、本質に迫るべく大胆に斬りこみますので、思いがけない話、秘匿性の高い情報も飛び出します。ウェブ検索や書籍などのテキスト情報からは得られない刺激的な語りをお楽しみください。

今月(11月)は、通常月よりも配信数が多く、下記4本の対談を破格の980円で聴くことができます。
12月以降配信予定の対談ラインナップも記載しましたので参照してください。
 

▼ 小林弘人(インフォバーン 代表取締役CEO)─井上トシユキ
  少数精鋭、コストダウンを余儀なくされる出版、新聞の近未来

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
  ビジネスで成果を上げるための「濃いしゃべり」の本質

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
  「インテグレーテッドキャンペーン」で「グルーヴ」を起こす

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
  創造と依存のバランスが「仕組み」を活かす


※12月以降配信予定の対談ラインナップ
▼中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗
▼森谷正規(技術評論家)─永江朗
▼三浦展(カルチャースタディーズ研究所 代表、マーケティング・プランナー)─河尻亨一
▼夏野剛(株式会社ドワンゴ 取締役、慶應義塾大学 SFC 政策・メディア研究科特別招聘教授)
   ─本田雅一(テクニカルジャーナリスト)
▼宮永博史(東京理科大学MOT大学院 教授)─本田雅一


配信先:株式会社オトバンク「FeBe」
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html


<2009年10月配信分の参考記事>

▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (一部を抜粋のテキスト記事リンク: 変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

▼ 神林広恵(ライター)─永江朗
 (一部を抜粋のテキスト記事リンク: スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

 

 


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