Entry

消える年金--見直し迫られる米国の401(k)制度

(記事要約)

住宅バブルの崩壊と金融危機により、米国の投資市場は軒並み急降下した。ベビーブーマーが退職時期を迎える米国だが、株式暴落により老後の資金が大幅に目減りし、不安感が広がっている。1月8日付けのウォールストリート・ジャーナルによれば、米国の株価がピークを迎えた2007年10月からの1年間で、401(k)をはじめとする個人年金プランに組み込まれた株式評価額の約2兆ドル分が消失したという。60代半ばにして、年金用貯蓄額の2割、3割を失ったという人も多く、401(k)という名の素人投資家による年金運用への疑問の声が高まっている。

記事リンク:
http://online.wsj.com/article/SB123137714796462913.html

(ウォールストリート・ジャーナル、1月8日掲載、「401(k)、評価額の大幅低下で見直し求める声が高まる」英語


(解説)

米国にも公的老齢年金があるが、支給額は退職後の生活に必要な資金の3分の1程度しかカバーしないと言われている。企業年金や個人の貯蓄で補わない限り、生活費用が確保できないのが現実だ。しかし深刻な経済危機を背景に、その企業年金の大きな柱である401(k)制度に対する不信感が高まっている。

米国企業は日本と違い、役員以外に退職一時金を支払う慣習はないが、企業年金制度はある。昔は米国企業でも、従業員の勤務年数に応じて、退職後に一定金額を支給する確定給付年金制度が主流で、1978年に401(k)(確定拠出型年金)制度が導入された時は、企業側も企業年金に追加的に使う制度という受け止めだった。

しかし企業にとっては、401(k)制度の方が従来の確定給付型年金よりも安上がりなことから、401(k)が企業年金の主流として活用されるようになった。米国の401(k)制度は、従業員が年間16,500ドル(2009年)を上限に非課税の積み立てをし、雇用主が提供する401(k)プランの中で、株式や債券の投資信託、マネーマーケットなど自由に投資先を決めるものだ。個人の責任で積極的な運用を図ることができるのが魅力の一つである。また従業員の貯蓄を促すために、企業側が上乗せ拠出する場合もある。

歴史的にみればインフレは年率3%。それ以上の運用率でまわしていかなければ、貯蓄額の購買力は実質目減りしていくという理由で、401(k)による積極的運用がもてはやされてきた。特に2003年から2008年までの株式市場は5年間連続で毎年2桁代のリターンを生み出しており、ある程度保守的に運用しても年間8%程度で回してくことは十分に可能だった。

ただし401(k)は任意の貯蓄制度であり、
雇用先が401(k)制度を持っていても貯蓄しない人が多い
貯蓄額が少なく退職時期までに十分な資金が貯まらない
401(k)プランに含まれる投資選択肢に対する不満が高い
手数料が不明瞭で割高な場合が多い

といった問題がこれまでも指摘されてきた。


投資会社のバンガード・グループの調べによれば、2007年の55歳から64歳の401(k)残高の中間値は、わずか$60,740にとどまったと1月8日付けのウォールストリート・ジャーナルは伝えている。しかし今回の経済危機で、401(k)の問題は低貯蓄額にとどまらないことがわかった。

従業員ベネフィット・リサーチの調べによると、55歳から64歳の401(k)積み立て残高は、株式下落に伴いこの1年で20%減少したという。たとえ政府の勧め通り、積極的に401(k)で貯蓄してきた人でも、タイミングによっては投資市場の下落で退職間際にかなりの額を失い、景気低迷が続けば貯蓄額を回復させる望みも薄いのである。

ボストン大学のリタイアメント・リサーチセンターのアリシア・マニュエル所長は、「退職直前に貯蓄額の半分を失うような制度は、根本的な欠陥だ」と、ウォールストリート・ジャーナルの記事で発言している。また多くの専門家も401(k)制度の大きな欠点は、訓練も受けておらず、時間も技術もないアマチュア投資家に、退職後のプランニング責任を負わせていることだと指摘している。

今や401(k)の残高だけでなく、持ち家の価値も下がり、ローン借入れも非常に厳しくなっている。その反面でヘルスケア経費は上昇を続け、平均寿命も延びている。さらには、この不況下でゼネラル・モーターズ、FedExなどの大手企業でも、従業員の401(k)積み立てへの上乗せ拠出を停止する例が増えている。

ブッシュ大統領時代は「オーナーシップ社会」の合言葉のもと、公的年金をも個人が運用できるように民営化を進めようという動きさえあったが、はるか昔の話だ。米国の経済回復はL字型で、2011年までかかるという見方もある。貯蓄の目減りで退職できないベビーブーマー達や、年金生活者の受難の日々は当分続きそうだ。

関連リンク

じわじわ目減り「日本版401k」(読売ウィークリー)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yw/yw08032301.htm

株安のおかげで改善する日本版401k (ダイヤモンド・オンライン)
http://diamond.jp/series/yamazaki/10063/

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/977