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ハローキティに見るキャラクタービジネスの極意---多様なコラボと柔軟なデザイン戦略で新市場を開拓

 「ハローキティ(Hello Kitty)」が11月1日、35歳の誕生日を迎えた。日本オリジナルのキャラクターとしては、世界トップクラスの知名度の高さと言っても過言ではないだろう。5万種類にも及ぶ関連グッズはビジネス面でもサンリオの看板キャラとして経営を支える。浮き沈みの激しいキャラクタービジネスで35年も衰えないその成功の理由を探った。

 通称は「キティちゃん」だが、本名は「キティ・ホワイト」。最初はなかったラストネームが後から命名された。この事からも分かるように、キティのキャラクター設定は最初からすべてが定まっていたわけではなく、徐々に整えられていった。しかし、場当たり的な決め方を避け、時間をかけて丁寧に世界観を作り込んでいった選択は、結果的にキティの性格が段々とはっきり像を結ぶ展開を生んだ。ちなみに、血液型はA型、得意なことはクッキー作り、双子の妹はミミィというように、家族構成や得意科目、好きな言葉なども設定されていて入念に作り込まれている。

 1975年に第1号商品の「プチパース」(ビニール製小銭入れ)が発売されて以来、約70カ国・地域で約5万種類の商品が販売されるまでにキティビジネスは広がった。市販の商品以外にも、サンリオピューロランド(東京都多摩市)、ハーモニーランド(大分県)の両テーマパークを運営している。みずほ銀行やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のイメージキャラクターも務める。

 類を見ない関連グッズの商品化は、サンリオにキャラクター料収入をもたらし続けている。関連商品の数は5万種類にのぼるともいわれる。部屋にある物すべてをキティグッズで統一した「キティ部屋」を持つ人が何人もいるという事実は、コラボレート商品の厚みを証明して余りある。

 国際的にもキティはスーパースターだ。キャラクター商品の展開は約70カ国・地域にも広がっている。女優・黒柳徹子さんに続いて(国連児童基金)ユニセフの親善大使に選ばれた上、国土交通省の中国・香港観光親善大使にも2008年から任命された。「ウルトラマン」「ドラゴンボール」などの日本発キャラクターも海外で人気を博しているが、性別・年齢を問わない支持層の広さはキティならではだ。

 最初にキティをデザインした初代の清水侑子さん以来、歴代3人のデザイナーがキティを任されてきた。80年以降、担当している現在の山口裕子さんはキティ人気を不動にした立て役者でもある。固定の頭身を崩し、ファッションに合わせて頭身を変化させる手法を取り入れて、キティの装いに幅を持たせたのは画期的と言える冒険だったが、結果は大成功だった。セーラー服を着せ、ボーイフレンドを作り、ペットを飼わせるなど、キティのキャラを広げる工夫も親近感を生んだ。創業当初を除いて、外部デザイナーに頼らず、自社デザイナーにキャラクター開発を任せ、自社で著作権を持つハンドリングはサンリオに安定的な利益をもたらしてきた。同社は2010年に創業50年の大きな節目を迎える。

 「ミッキーマウス」「スヌーピー」などの米国発キャラクターにも根強いファンが多い。しかし、キティのコレクション熱は群を抜いている。2008年に実施された調査によると、「どんなキャラクターのグッズを集めているか」という質問の回答結果で、トップは「ハローキティ」266票だった。2位以下は「リラックマ」「スヌーピー(ピーナッツ)」「くまのプーさん」「ディズニー」と続いた(ネットリサーチDIMSDRIVE調べ)。

 日本各地の観光地で地域限定の「ご当地キティ」が数多く商品化されている。「ご当地キティ」のコレクターも存在していて、コレクター同士の交流も盛んだ。地域の持ち味とクロスオーバーして、さらにキティのキャラは奥行きを増している。

 本来のキティのイメージを大切にしながらも、コラボ商品に関しては、コラボ先のセンスやテイストを生かして、適度に揺らしてみせるのも、キティの可能性を広げるアプローチだ。例えば、「CRASH HELLO KITTY」(2008から09年に実施)は、キティをカスタマイズしたファッションプロジェクト。顔の輪郭線をなくしたキティを商品化したり、メンズアイテムにキティを持ち込んだりした。放送作家のおちまさと氏がプロデュースし、販売チャネルを丸井に絞ったのも、興味深い取り組みだった。

 しかも、一部の商品でデザインを公募した点は画期的だった。口がないことや、鼻と目の位置を固定したことなど、一定のルールを設けながらも、プロではない一般人にデザインを認め、新しいキティを引き出そうとした手法は、キャラクタービジネスでは異例と言える。キャラクターイメージを頑固に守ろうとするブランド企業が少なくない中、キャラの固定化を防ぎつつ、デザインの「開放」を通して、ファンとの結び付きを深めようとするサンリオの取り組みは際立ってチャレンジングだ。

 「ファッションの民主化」が進んでいることからも分かるように、消費者は一方的に押し付けられるのを嫌い、そのブランドやキャラの存在に自分たちが主体的に関われるような、開かれたつながりを求め始めている。妙に取り澄ましたポジションを狙わないサンリオのキティ戦略は時代のニーズに合致していると見える。

 デザイナーの山口さんは自らブログを開き、ファンとのつながりを深めている。日々の出来事をほぼ毎日更新でつづるブログは、ファンがキティを身近に感じる上で効果を上げている。山口さんはサイン会で直接、ファンと交流し、ファンの声を聞く取り組みを現在も続けている。

 「リーボック×ハローキティ」の新コラボブランドも35周年を記念して立ち上がった。「英国生まれ(キティは1974年ロンドン郊外生まれの設定)」という共通点に着目したプロジェクトだ。商品はパーカ、ワンピース、Tシャツなどで、シューズにはキティの姿はなく、リボンだけが足の甲にあしらわれている。「人々の心と心を結ぶ」という意味が込められたリボンモチーフを生かしたデザインだ。

 35年を経て、キティのファン層も年齢面で分厚くなった。発売当時に10歳だった人も45歳になった計算だ。親子2代でのキティファンも珍しくない。サンリオは親子で共有できる商品シリーズや、母親が娘に買ってやりたくなるようなアイテムを相次いで投入し、家族内コミュニケーションツールとしての役割も担わせている。

 年齢層の広がりを受けてデザインにも大人向けが増えた。大人の女性を狙った、イラストを入れずに「HELLO KITTY」のロゴだけでキュートさを表現するシリーズも発売された。エレコムはパソコンやデジカメアクセサリーなどデジタルグッズ27アイテムを売り出した。

 キティには口が描かれていない。口は「ない」のではなく、意図的に「描かれていない」。その理由は「見る人と感情を共有できるように」。口がなければ、表情が限定されにくく、見ている人の気持ち次第で、笑っているようにも、さびしげにも見える。気持ちを分かち合うという発想は、表情やポーズをあらかじめお仕着せで決めてかかる外国キャラとは全く異なる発想だ。自在に空気を読んでくれて、どんなムードにもなじむキティの「無口」は、言葉抜きで私たちに語りかける。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○むーと鳴いています 「どこでもハローするキャラクター キティちゃん」 2008/05/24
  キティちゃん。
 その活動領域を広げ続けるチャレンジャー。
 「Hello Kitty!」これは、きっとキティちゃんのプロジェクト名だ。
 みんなが、「ハローキティ!」と迎え入れ、
 キティちゃんの方も、あらゆる所にハローする。
 「ブランド管理的に大丈夫かな…?」
 と、見ているこちらが心配になってしまうようなハローも多いから、気になる。
 キティちゃんがハローした分野は、次の3つ。
 1.地方 2.有名ブランド 3.時代
http://muuuuu.net/2008/05/273.php



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今月(2009年11月)は、通常月よりも配信数が多く、下記4本の対談を980円で聴くことができます。合わせて10月配信分の対談も聴くことができます。
12月以降配信予定の対談ラインナップも記載しましたので参照してください。
 

▼ 小林弘人(インフォバーン 代表取締役CEO)─井上トシユキ
  少数精鋭、コストダウンを余儀なくされる出版、新聞の近未来

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
  ビジネスで成果を上げるための「濃いしゃべり」の本質

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
  「インテグレーテッドキャンペーン」で「グルーヴ」を起こす

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
  創造と依存のバランスが「仕組み」を活かす


※12月以降配信予定の対談ラインナップ
▼中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗
▼森谷正規(技術評論家)─永江朗
▼三浦展(カルチャースタディーズ研究所 代表、マーケティング・プランナー)─河尻亨一
▼夏野剛(株式会社ドワンゴ 取締役、慶應義塾大学  政策・メディア研究科特別招聘教授)
   ─本田雅一(テクニカルジャーナリスト)
▼宮永博史(東京理科大学MOT大学院 教授)─本田雅一


配信先:株式会社オトバンク「FeBe」
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html


<2009年10月配信分の参考記事>

▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (一部を抜粋のテキスト記事リンク: 変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

▼ 神林広恵(ライター)─永江朗
 (一部を抜粋のテキスト記事リンク: スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

 

 

 


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