Entry

神保哲生×永江朗 対談 広告に依存しない「ビデオニュース・ドットコム」激闘の軌跡

  • MediaSabor 編集部

メディアサボールのビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」 第13回目の対談企画。
■ゲスト:神保哲生  インタビュアー:永江朗(ライター)
テーマ: 広告に依存しない「ビデオニュース・ドットコム」激闘の軌跡
        (放送時間:86分)  
       

2010年現在いまだ、オンラインの有料課金メディアビジネスの困難さが喧伝される状況であるにもかかわらず、2000年のニュース専門インターネット放送局開始の2年後には、課金モデルの情報サービスをスタートさせた「ビデオニュース・ドットコム」。日本のオルタナティブ・メディアの代表格といっていいでしょう。欧米社会においてはマスメディアを代替するオルタナティブ・メディアの層が厚く、市民オリエンテッドな情報が豊富に提供されています。日本ではオルタナティブ・メディアが育ちにくく未発達な環境ですが、障壁が高い日本において気を吐いている独立系メディアです。

広告や外部資本に依存せずにビジネスとして成立している稀有なネットメディアとして存在感を増していますが、既存メディアの多くがスポンサータブーなどにより扱えないテーマがある中で、視聴者側に立ったテーマ設定をし、独自の視点から議論を展開する番組づくりに特徴があります。ここに至るまでの軌跡は、先駆者としての激烈な戦いの歴史であり、組織を率いる神保氏のメディアビジネスに賭ける思いの強さが結実したものです。対峙するインタビュアーは、メディア関係者への豊富な取材経験を持ち、情報ビジネスに関する幅広い知見を有する永江朗氏です。世界的に伝統的なメディア経営が大きく揺らいでいる現在、メディア関係者はもちろんのこと、情報を受け取る側にとっても、今後のメディアの行方と影響、メディアビジネスのあり方を考察する上で必聴の対談です。

jinbou1.JPG


----------------------------------------------------------
<神保哲生>プロフィール
1961年 東京生まれ。 15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。 クリスチャンサイエンス・モニター紙、AP通信など米国の報道機関の記者を経て 1994年独立。1996年4月、ビデオニュース・ネットワークを設立し代表に就任。 以来、テレビ朝日『ニュースステーション』、TBS『筑紫哲也ニュー ス23』、 NHK『ETV』、米ABC、PBSテレビなどに向けて100本を超えるリポートや ドキュメンタリーを提供。 2000年に日本初のニュース専門インターネット放送局 「ビデオニュース・ドットコム」を設立し、代表に就任。 現在も第一線で取材を続ける。著書に「ビデオジャーナリストの挑戦」 「漂流するメディア政治」 「ツバル 地球温暖化に沈む国」など。
----------------------------------------------------------

----------------------------------------------------------
<永江 朗>プロフィール
1958年5月9日生まれ。北海道旭川市出身。
法政大学文学部哲学科卒業後、洋書輸入販売会社に勤務したのち、
『宝島』、『別冊宝島』などの編集、ライターを経て、
フリーランスのライター兼編集者に。
一般誌から出版・メディア業界など幅広い媒体で取材・執筆活動を
行なっている。

主な著書に『批評の事情 不良のための論壇案内』(原書房)、
『ベストセラーだけが本である』(筑摩書房)、
『インタビュー術!』(講談社現代新書)、
『アダルト系』、『不良のための読書術』(ちくま文庫)、
『消える本、残る本』(編書房)、
『平らな時代 おたくな日本のスーパーフラット』(原書房)、
『〈不良〉のための文章術』(NHKブックス)、
『メディア異人列伝』(晶文社)、
『話を聞く技術』(新潮社)などがある。
----------------------------------------------------------

3月はキャンペーンにつき、月額料金980円を580円に値下げしています!
ほぼ、ノーカットのスリリングな対話を、今月分と過去3か月分お聴きいただけます。
混迷を深める社会において、ビジネスパーソンの羅針盤となる本質情報が
得られます。
 

◆音源サンプル、会員登録など、番組の詳細な案内は下記ページをご覧ください。
  ⇒  http://mediasabor.jp/interview.html



音源本編から、その一部を切り取った記事を下記に掲載いたします。


(永江)
───衛星放送やケーブルテレビなどの有料放送ビジネスの黎明期には、運営事業者への取材時、全然うまくいかないというグチをさんざん聞かされました。そこにインターネットが登場し、メディアの状況が変わるかもしれないという、ある種の期待感はあったものの、まだまだその行方は見えていない2000年当時に、ネット上で映像放送のビジネスを立ち上げたのは、振り返ると大変な決断だったのではないでしょうか。

(神保)
時間はかかると思っていましたよ。私たちは、インターネット放送をいきなり始めたわけではなく、まず、ビデオジャーナリズムとして地上波に出たのですが、全然真価を発揮できない状態でした。それで、地上波をやりつつも、別のところに活路を見出さなければならないということで、まず、ケーブルテレビをネットワークすることを考えました。しかし、90年代には、なかなかそれを広げていくことができませんでした。

それで、うちは、放送免許を取りまして2年間CS(Communication Satellite: 通信衛星。またそれを使用したテレビ・ラジオ放送のこと)をやったんです。今、日経CNBCというチャネルがあるんですけど、あれは、私たちが始めたCNBCと日経が合併してできた会社です。そのときに株式を売り抜けて、端的にいえば、その原資でインターネット放送を始めたんです。

97年から99年の2年間、アメリカのCNBCを日本に持ってきて、主に翻訳、プラス独自制作番組を昼間マーケットが開いている時間に流してCNBCビジネスニュースというチャンネルを運営していました。ブルームバーグさんと当時の日経サテライトニュースとCNBCと、三つも経済ニュースを発信しているメディアがあり、若干、共倒れの可能性があるみたいなことで、日経と合併したらどうかという打診がありまして、当初、出資した分、たいした金額じゃないですけれど売り抜けて、それを原資にして2000年の1月に、試験放送を経て、ニュースカテゴリーのインターネット放送局を立ち上げました。

いろいろやってきましたが、やはり、CSに関していうと配信コストが高すぎるんですね。衛星の使用料が年間1億円以上かかります。それでいて、CSを見るための端末を持っている人の数が、現在はどうなのかわかりませんが、当時ではとてもペイしない規模でした。だから、そもそもビジネスモデル的に無理だったんです。他にも、いろいろ問題はあったんですが、ケーブル、CSとやってきて、ある種、行き着く先がインターネットということでした。


それから、一つ話しておきたいことがあります。たとえば、新聞社が今、「紙の新聞では経営が立ち行かなくなっているので、そろそろネット配信で収益を上げる方策を真剣に考えなければ」、といっているのを聞いたときに、じっと、その話を注意深く聞いていると、途中から、これはダメだというパターンと、これは期待できるかなというパターンがはっきり分かれるんですね。ダメなパターンというのは、紙で売れなかったものでもネットで売れると思っている人たちが話しているケースです。それに対して期待できるパターンというのは、これまでと全く違うものを作らなければならないんだということを理解している場合です。ここが大きな分かれ目です。今までのものよりも、より付加価値の高いものを、新聞の場合だと現状の10分の1くらいのコスト、テレビだと50分の1くらいのコストで作らないとネット上では戦えません。

(永江)
───今回、米有力紙ニューヨーク・タイムズがインターネット上の記事を2011年初めから一部有料化する、と発表したことについてはどのようにみていますか。

(神保)
ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルほどのプレミアムがついているコンテンツであれば、有料になっても通用する可能性はあるかもしれない、ただ、やはり、ネットは参入障壁が全くない舞台だということを認識しておく必要があります。一方、紙媒体を出せる事業体というのは、参入障壁の大きさから限られてくるわけです。紙を購入して、インクを載せ、輪転機にかけて印刷し、広く流通させることは、ものすごいリソースを要します。そうした競合が少ない紙媒体同士の戦いとオンラインの情報サービスとしての戦いでは、性質が相当異なります。ネットの世界では、多種多様な人たちが、寝ても冷めても、差別化や付加価値をどのようにするかについて考えています。私自身も、ここ10年、ほとんどそのことに腐心してきたわけです。しかも、制作コストを極限まで圧縮しなければペイしません。そうしたことから判断すると、温室育ちの人たちが、そろそろネットに本腰を入れようと参戦したとしても、かなり難しいといわざるを得ません。

(永江)
───発表された書籍のあとがきに、「マル激トーク・オン・ディマンド」の放送時間は2時間ほどあり長いけれども、それだけの価値があるんだということを力説されている箇所があります。そこの部分につながることといっていいんでしょうね

(神保)
確かに放送時間は長いです。長いから見ないという人もいます。だから短くしようとするじゃないですか。そうしたら、「長い」といった人が、短くすることでカネを払って見るかというと、そうじゃないんです。すごい無理な要求をしているんです。というのは、「今と同等の付加価値のあるものを短い時間でやれ」、ということなんです。実際には、それは無理なんです。短くすれば、それだけ確実に内容が薄くなります。それは、テレビのように、取材したものを部分的にパーツのように切り取って短く再構築するといったような作業になりますが、そうすると今のマル激を視聴していただいている根幹の顧客層を維持できないということがわかっているんですね。だから、我々は決して安易な短縮編集はやりません。

何の商売でもそうだと思いますが、たとえば、寿司屋をやるにしても大将が、うまい寿司の何たるかをわかっていなかったら、絶対、うまい寿司をにぎることはできない、というのがあって、そこの目利きだけはネット上でのニュース番組をやる前から、それに関連した仕事をやってきているわけですけれども、サラリーマン記者を9年くらいやって、その後、10年近くフリーランスのジャーナリストをやって、そのあと、ネット上のニュース放送局を10年ほどやってきたという計算になります。

特に、組織ジャーナリズムから離れてフリーランスとして苦労して活動したことが、今ここにきてプラスになっているんだと自分では思います。つまり、ジャーナリズムの分野において、どういうものであれば人々は見るのか、という視点が養われたのです。多くの人が、「もうちょっとソフトに作ったほうが売れるよ」とか、「短くしたほうが売れるよ」とか、いろんなアドバイスをいただき、もちろん、取り入れるべきことがあるかどうかは吟味しますが、そうした方向性にした場合、有料コンテンツとしては売れないものになっていくというのが現実です。

(永江)
───そこは、神保さんのジャーナリストとしての感覚による結論ですか。

(神保)
感覚だけじゃなくて、多少、試行錯誤しているところから得られた考え方です。ちょっと短くしてみようとか、ちょっと編集してみようとかいった試みをした場合、明らかに何かが欠ける、欠けた結果、それが売上に響くんです。それから、もう一つは、話題性を追うと、その話題の人が出たときは一時的に売上は増えるんです。けれども、その人目当てでボーンと増えた会員の多くは、向こう三ヶ月くらいで退会してしまうんですね。だから、逆にいうとビジネスモデルとして話題性を呼ぶことに留意するのであれば、毎回、話題性のある人を呼び続けないと、それが維持できないというモデルに入っていくので、それもすべきではないという考えです。それゆえ、多くの人が「なんでこんな地味なことを、固く長くやるの?」という疑問を抱くことになるのですが、「それが成功の秘訣なんですよ」という話をしても、皆さん、釈然としない反応を示します。でも、今の状態では、うちの持っているリソースでペイする手段は、それ以外にないというのが、会社経営を20年やってきて、かなり精査し突き詰めた結論なんです。

(永江)
───1万人という会員数は、順調に右肩上がりで達成されたものなのでしょうか。それとも凸凹があったんですか。

(神保)
10年やってきて、実は現在の有料課金制になってからは8年なんですが、誇れるのは一度も前月割れをしたことがないということです。一番少ないときは14人しか増えなかった月もありましたが、そうした凸凹はあったにせよ、概ねコンスタントに増えていきました。あまり、レバレッジが利いた増え方ではなかったのが問題ではありますけれど、逆にいうと着実に会員数を獲得していったということになります。

ただ、ここにきて、たとえば、ここ数ヶ月、私がtwitterを多用するようになってから、一段、加速した感じです。というのは、twitterを通じてビデオニュース・ドットコムの存在を知る人が増えて、「こんなのがあったんだと」いうことで、中には会員になってくれる人もいるんです。当社の決定的な弱さは宣伝費を投入する余裕がないことですが、こうした新たなツールの登場はPR面での武器になります。

当社は、どこかに出資してもらって、そこに配当をしなければならないとか、株式上場をいつまでにしなければいけないとかいった縛りはないんですね。すると、先ほど永江さんの言葉に「ビデオニュース・ドットコムが成功している理由」というのがありましたが、この分野で食えているメディアというのは、ほとんどないわけだから、食えているという意味での成功ということであれば、私は誇っていいことだと思っています。但し、問題は食うためだけに事業をやっているのではなく、もうちょっと本当は意味のあることを実現するために事業をやっていて、その意味あることというのは、大きくいえば、形のうえではビデオジャーナリズムを実践できる場所ということになるんですけど、もう少しいえば、メディアの大きな機能というのは、世論形成と権力チェックだと思うんですね。じゃあ、それができているかといえば、まあ、食うにせいいっぱいの会社にそこまでいうのは酷ですけど、成功というには程遠い状態です。それが私の偽らざる気持ちです。


<全体の対話項目>
◎ 米国留学の経緯
◎ 日米でのジャーナリズム教育の違い
◎ ビデオジャーナリズムへの目覚め
◎ 映像ジャーナリズムとしてのCNNの台頭
◎ 日本に活動の拠点を移すことになった理由
◎ チーム分業制のマスメディア映像制作とビデオジャーナリスト の映像制作の違い
◎ ビデオジャーナリズムの要諦
◎ 2008年秋葉原殺傷事件において、通行人撮影映像をマスメディアが
    採用したことを「報道機関の自殺行為」と発言した真意
◎ ネット時代における情報ビジネスの行方
◎ 「ビデオニュース・ドットコム」前身時代のビジネス形態
◎ 2000年頃の有料放送ビジネスの状況
◎ 「ビデオニュース・ドットコム」立ち上げにあたってニュースという
    情報ジャンルを選択した理由
◎ ビジネスの観点から考えるマスメディアとネットメディア
◎ 「ビデオニュース・ドットコム」の番組づくりの特徴と差別化戦略
◎ 有料会員獲得の推移とPR、広告の手法
◎ メディアの変遷から考えるオルタナティヴ・メディア台頭の可能性
◎ 公共的ジャーナリズム衰退で懸念されること
◎ これからの「ビデオニュース・ドットコム」が目指す方向性

 (2010/01/21収録)


3月はキャンペーンにつき、月額料金980円を580円に値下げしています!
ほぼ、ノーカットのスリリングな対話を、今月分と過去3か月分お聴きいただけます。
混迷を深める社会において、ビジネスパーソンの羅針盤となる本質情報が
得られます。
 

◆音源サンプル、会員登録など、番組の詳細な案内は下記ページをご覧ください。
  ⇒  http://mediasabor.jp/interview.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/1238