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木村勝己×永江朗 対談「ビッグビジネスを生む発明のメソッド」

  • MediaSabor 編集部

メディアサボール制作 ビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」 第21回目の対談企画。
テーマ: 「ビッグビジネスを生む発明のメソッド」(放送時間:109分)
■ゲスト:木村勝己   インタビュアー:永江朗

ソニーでの放送業務用映像機器開発、設計、企画などのキャリアを経て、独立後、発明プロデューサーとして活躍するゲストの木村氏。数々の実績に裏打ちされた、優れたアイデアを生むためのプロセスには説得力があります。木村氏は常識破りの閃きを得るアプローチを「ブラボー思考」と名づけました。モノ余りの時代における商品開発は、消費者に感動を与えたり、ライフスタイルを豊かにするような視点を持たなければならないと説きます。従来の機能、性能重視の商品開発から、異次元のステージにいざなう鍵が「ブラボー思考」というキーワードに隠されているようです。

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 <木村勝己(きむら かつみ)>プロフィール
ドイツ・ゲーテインスティチュート校留学の後、東京理科大学・物理学科を卒業。ソニー株式会社にて映像機器の商品企画・開発・設計、ビジネス戦略、社内ベンチャーでアライアンス戦略・推進を行う。放送業務用映像機器開発の発明80件、個人特許出願10件。特許実施商品の総売上が1兆1千億円を超える。

独立後、発明プロデューサーとして、大手企業研究所のビジネス戦略コンサルティングを行う。また特許技術移転、産学連携をコーディネータとして推進。ビジネスコンサルタントとして新技術の事業化を推進。

さらにヒット商品開発・知的財産戦略・アイデア発想・カイゼン提案・マーケティング戦略・ロジカルシンキング等のカテゴリで講演・執筆を行っている。

主な著書に“1兆円ビジネスを生むブラボー思考”(ごま書房新社)、
“磨け!閃き力”(まどか出版)がある。
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音源本編から、その一部を切り取った対話を下記に掲載いたします。

 

(永江)
───木村さんはソニーに1977年入社され、2004年まで27年の長きに渡って在籍していたということで、多くの人がうらやむようなビジネスマン生活を送っていたと思われますが、その身分を投げ打って独立したというのは、どういう経緯だったのでしょうか。

(木村)
商品開発をやっていたときに途中からデジタルの流れが入ってきました。そのときに感じたのが、今まで私たちがアナログで蓄積してきたノウハウが通用しなくなるという危機感でした。IC(Integrated Circuit:集積回路)化が進み、商品のコアを占める心臓部分が新しいデバイスによって置き換えられてしまう流れです。そうすると、今まで私たちが蓄積したものが、だんだん価値を失うようになるという恐れがありました。

(永江)
───でも、電気は電気じゃないですか。

(木村)
もちろん、今までのノウハウが残る部分はあります。しかし、大きな流れとしてデジタル化によりデバイスの構造コンセプトが様変わりしたことで、米国をはじめとしたベンチャー企業が参入できるようになったのです。たとえばビデオテープレコーダーの変遷としてテープが不要なハードディスク化、半導体化しますと、それまでのアナログ方式でのデバイス内部の高度な技術がいらなくなります。そうしたことが色々な商品で起こるわけです。つまり、アナログでのコアな技術が否定され、組み立て技術だけで製品が造れるような趨勢になりました。そうした時代を迎えたことで、電機製品のものづくりは大きなターニングポイントに至ったと判断しました。

そこで自分の生きる道は何だろうと考え、ものづくりよりもモノやシステムを組み合わせることで新たな事業を起こすためのビジネスモデルが重要になるだろうと予測しました。ちょうどwindows95が出てきてインターネットが一般消費者にとっても身近なものになっていった頃です。特にインターネットが社会にもたらす可能性の大きさを強く感じ、自身がこのままの延長線上で仕事を続けるだけでは取り残されてしまうという危機意識を持ちました。けれども、そのときに、すぐ独立したわけではなく、40歳前後で危機感を持ち始めてから、実際に退職に至るまでには10年ほどの期間がありました。その間、退職せずに社内ベンチャーを立ち上げることを模索した時期もありました。独立のリスクを考えれば、社内で新規事業を立ち上げたほうが、自己の裁量は減るかもしれませんが安全です。会社側としても新規事業を公募する動きがあり、それに対して色々とビジネスモデルを提案したりしました。それが、商品開発からビジネス戦略の部署に移るきっかけとなったのです。

(永江)
───ジタバタせずに、じっと定年を待つという生き方も選択としてはできたはずですし、恐らくそういう保守的なサラリーマンが9割方だと思いますが、その後、独立の意向をご家族に話されたときには、どういう反応だったのでしょうか。

(木村)
大反対です。ですが、今後の社会情勢や市場環境の変化を説明し、このままサラリーマンとして定年を迎える生き方よりも、60歳を超えてもなお活動できる素地を今のうちから作っておくほうがベターなんだということを力説しました。

(永江)
───現在は発明プロデューサーという肩書きで活動されていらっしゃいますが、具体的にはどういう仕事をなさっているんですか。

(木村)
発明をもとにした知的財産に関わっているのですが、一つは産学連携の仲介役です。大学における発明について、特許性があるかどうかを審査して特許庁に出願するかどうかを判断したり、出願された特許の活用方法として、どういう企業のどういう事業で使えば価値が認められるかを考え、民間企業に紹介したりします。うまくいけば、特許を買ってもらったり、ライセンス提供を行うことになります。あるいは、その発明や特許をもとに共同で研究を進める場合もあります。そうした特許の活用を目的としたマッチング業務を担当しています。

(永江)
───20世紀後半、特にその終わりの20年間は世界でも誇るべき技術力を日本が持っていたにも関わらず、様々な理由によって現状は苦しんでいる状況にある、それは知財の活用の仕方、守り方などが下手だったという思いが、現在の仕事に携わる動機にも繋がっていますか。

(木村)
特許というのは、単に保持しているというだけでは収益に貢献しません。バブル崩壊後、2002年に小泉内閣のもと、知的財産戦略大綱がまとめられました。これからの日本は技術立国ではなくて知的財産立国によって世界と戦っていきましょうという指針が打ち立てられ、そのための産学連携が進められ、私たちのような者が活動する場が与えられました。この流れの中で、今まで企業内に埋もれていた特許、使用していなかった特許を公開し(小冊子にまとめたものを展示会などで配布したり、ネット上で公開)、他社、他業界にライセンス提供するといったケースが増えていきました。

(永江)
───それ以前は、基本的に特許というのは他社に使用させないための排他的な色彩が濃かったのでしょうか。

(木村)
確かに競合他社に使わせない防衛目的の意味合いもあります。

(永江)
───国内だけで考えたら、それでよかったのかもしれませんが、海外企業が別の技術を開発したり、デジタル化の潮流の中で、水平統合といわれるグローバルな企業連携によるものづくりに対する対抗策に遅れをとったことが、日本の電機業界衰退の一因になったんでしょうね。

話は変わりますが、発明といいますとエジソン以来の発明家を連想しますが、優れた発明家の資質というのはあるんでしょうか。

(木村)
観察眼といいますか、問題意識を持つことが大事です。出発点はそこになります。同じことを見ていても、それを問題だと捉えて改善しようとするかどうかです。アイデアの基本は不の解消です。不便、不満、不安に感じたことを流さずに解決しようとする意識を持つことです。自分のことだけではなく、世の中を見渡したときに、困っている人を助けてあげたいという思いやりの心を持つことも関係してきます。そこにアイデアの種が潜んでいるんです。

(永江)
───自分は不便を感じていないけれども、たとえば、おばあさんが荷物を持ちながら歩道橋を上り下りしているのを見て、大変そうだなあ、何とかしてあげたいなあ、という視点を持てるかどうかですね。

(木村)
発明家のドクター中松氏の考案品の中に「醤油チュルチュル」というポンプがあります。灯油をストーブに給油するための灯油ポンプをイメージしていただければわかりやすいです。なぜ、それを思いついたかといいますと、彼が子供のときには醤油が大きなビンで配給されていました。台所で彼のお母さんが大ビンから小ビンに醤油を移しかえるのをたびたび見ていて、重そうで大変だろうなと思っていました。そこで、もっと簡単に醤油を移しかえる方法がないものだろうかと考えたんです。そして「醤油チュルチュル」と命名されたポンプが発案されました。発明は愛情といわれる所以です。

(永江)
───著書の中に、アイデアを生むには6段階のプロセスがあると説明されています。第一段階:課題を明確にすること、第二段階:資料を収集すること、第三段階:集めた資料を咀嚼する、心の中で資料に手を加えること、第四段階:孵化段階といわれるもの、第五段階:アイデアの出現を待つということ、第六段階:アイデアを具体化するということ、の六つのプロセスですが、第一段階の「課題を明確にすること」というのは、先ほどの話で出てきた、自分あるいは他者が不便、不満、不安に感じていることについて問題意識を持つことですね。

(木村)
まず課題が明確になっていなければ、その後、資料を収集するにしてもターゲットが絞り込めず時間の浪費になってしまいます。最終的には集めた情報を色々と組み合わせてアイデアを見出すわけですが、その元になるのは課題です。課題のテーマ設定が始まりになります。

(永江)
───ある一つの課題があったとして、その改善策が様々な方向性で考えられる場合がありますが、最適な改善策の方向性をどのように絞り込んだらいいのでしょうか。

(木村)
不便、不満の根本原因を突き詰めて考えることです。病気の治療にしても対症療法だけでは不十分で、症状が起こっている真因をつきとめて、それに対する原因療法を施さなければ、かえって病状が悪化してしまうことさえあります。発明に関しても、表面的な改善策だけでは本質的な問題解決にはならないことがあります。

(永江)
───真因を探ることを方法化することは可能ですか。

(木村)
やりやすいのはKJ法のようにカードを使うことです。カードに一つ一つ考えられる問題の原因を記載していきます。次に、列挙された同じような原因をグルーピングしていきます。次にグループごとにタイトルをつけてグループ間の関連性などについて考えます。そうすることで全体を俯瞰することができ、的確な改善策の方向性を導きやすくなります。ほかには、マトリックス法といって縦軸と横軸で考察していく手法もあります。

(永江)
───ビジネスマン向けの仕事術関連の書籍には色んなノウハウが語られていますが、木村さん自身が気に入っているアイデア生成法はどんなものですか。

(木村)
難しいことを学ばなくても比較的使いやすい手法として、「オズボーンのチェックリスト」があります。これは、1.他に使い道はないか 2.アイデアを借りたらどうか 3.大きくしたらどうか 4.小さくしたらどうか 5.変更したらどうか 6.代用したらどうか 7.入れ換えたらどうか 8.逆にしたらどうか 9.結合したらどうか という九つのチェック項目があり、これにしたがってアイデアを膨らましていくんです。この手法がなぜいいかといいますと、アイデア発想の訓練にも使えますし、特許出願時の特許明細に実施例を記入する際に利用することができるからです。これらを網羅した実施例を列挙することで外堀を埋め、他者が類似商品を考案することを防ぐことで強い特許を形成するのです。

(永江)
───オズボーンという人があみ出した手法なんですね。

(木村)
そうです。ブレーンストーミング(集団でアイデアを出し合うことによって相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法)もオズボーンが発案したものです。

 

<全体の対話項目>
◎ドイツ留学時代
◎ソニー在籍時の商品開発
◎なぜ、ソニーはiPodを作れなかったのか
◎独立の経緯
◎発明プロデューサーとしての活動
◎知的財産の有効活用
◎優れた発明家の資質
◎アイデアを生む6段階のプロセス
◎アイデアをどんどん拡大する便利な発想法
◎常識破りの閃きを得る「ブラボー思考の5ステージ」
◎モノ余りの時代における商品開発、サービス開発を考える

 (2010年5月25日収録)


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