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吉池理×神田敏晶 対談 「情報波及の大きさで考えるウェブPR攻略の核心」

  • MediaSabor 編集部

メディアサボールのビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」 第16回目の対談企画。
■ゲスト:吉池理   インタビュアー:神田敏晶(ジャーナリスト)
テーマ: 「情報波及の大きさで考えるウェブPR攻略の核心」(放送時間:97分)

マスメディア広告と異なり、次から次と、様々なツール、手法が登場し、変遷してきたウェブ上のプロモーション施策。どこから手をつけていいかわからない、反応が怖い、といった声も多く聞かれます。多様性があり、ゲリラ的なのがウェブPRの特徴であり、今後も創造性溢れるやり方が編み出されることが期待される中、実効性の高さや情報波及の大きさから優先順位を考え、PRの核となる施策をどんなものにするのかという戦略の重要性を再認識しなければなりません。それは、ウェブ上における注目度の高いサイト、情報ソースが何なのか、あるいはウェブ特有の情報連鎖の態様を分析することで、明確に浮かび上がってきます。テクノロジーに依存し過ぎるのは危険であり、マスメディアの効力を意識したうえで、従来型のアナログで人間的な現実路線を踏襲しつつ、ソーシャルツールおよびウェブメディアの活用に広げていくべきと主張する吉池氏。実効性の高いウェブPRを考えるうえで、指針となる対談です。

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<吉池 理>プロフィール
1973年埼玉県生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒。大学在籍中からNHKおよび民放のテレビ制作現場に携わる。卒業後はフリーディレクターとして各放送局にてテレビ番組制作に関わる。その後米国シアトルに留学。留学中は学生兼起業家としてウェブデザイン・ウェブマーケティングコンサルテンング業に従事する。日本帰国後は米国での仕事をそのまま引き継ぐ形で再起業。中小企業診断士資格を取得後、テレビ媒体を中心とするPRコンサルティングファームを創業。一部上場企業から外資系企業、ベンチャー企業まで、テレビ媒体へのPRを希望する企業や団体を多数クライアントとして抱える。著書に「テレビであなたの商品・会社をPRするとっておきの方法」「ウェブPRハンドブック」がある。
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 (月額780円)  ⇒  http://mediasabor.jp/interview.html

音源本編から、その一部を切り取った対話を下記に掲載いたします。

(神田)
───日本におけるPR会社のサービス内容は、メディアにプレスリリースを送信することに終始してしまっているケースも、結構みられます。

(吉池)
そういうのが不満で、何か別のソリューションがないのかという相談は多いです。プレスリリースのメディアへの送信というのは施策としてやるべきだとは思いますが、それ以外の手をうたなければなりません。たとえば、私が著書の中で、ウェブPRに関する内容であるにもかかわらずテレビの活用を挙げているのは、ウェブとテレビの親和性からきています。

よくいわれているように、ネットの話題がテレビで放送された内容で占められているとか、逆に、ネット上で注目が高まったネタの中で、映像的にインパクトのあるものをテレビ側が使ったりすることがあります。たとえば、企業と関係ないですけど、「韓国の整形手術に失敗した風船おばさん」の事例は、ネットでさんざん飛び交った話題がテレビに取り上げられたものです。それから、体じゅうにカビ色のイボが発生し、両手指がまるで木のようになる奇病の“ツリーマン”と呼ばれるインドネシア男性の話題もありました。そうした情報がクルクル、ネットとマス媒体の間で回っていることから見ても、互いに親和性があるんですね。

では、テレビへの露出を狙おうとしたときの手段ですが、プレスリリースを出しただけではほとんど効果は期待できません。見てないんです。私もフリーディレクターの時代がありましたが、見ていませんでした。電話して話したほうが早いんです。プロモーションに関して、ネットへの志向性が強い人とそうではない人とでは、ネットかマス媒体かの二元論に陥りがちですが、両方の活用を考えるべきです。入口はネットでもマス媒体でもかまわないです。ただ、それぞれ攻略方法は異なってきますので媒体特性やビジネスモデルを考慮する必要がでてきます。

たとえば、NHKという放送局の特性ですが、視聴率を気にはしているものの、基本的にはスポンサー圧力はありませんので、民放がやりにくいものを手がけることができます。いくつか例を挙げれば、福祉とか教育とかローカルなどのジャンルです。地方ローカルの会社が、一生懸命、TBSやフジテレビなどに取材要請しても、なかなか来てくれません。はっきりいうと足代がかかるからです。取材にかける潤沢な資金がないんです。

ローカルネタを中央のテレビに取り上げてもらうには、今、二つのやり方しかありません。一つ目は、NHKの地方支局に働きかけて、まずは地元のネタとして取り上げてもらうことです。そこで何回も出ていると、NHK本局のほうに情報が伝播していきます。そうすると、「おはよう日本」のような全国放送の番組で取り上げられる可能性が高まるのです。もう一つの方法は、日本テレビの「ズームイン!! SUPER」で、ローカル情報として取り上げてもらうことです。この二つの番組はローカルネタを吸い上げることが使命でもあり、番組構成上、そのためのルートがあります。だから、パイは小さいかもしれませんが、ローカルビジネスを展開している企業で、全国レベルでの認知を広げたいと考えているところは、そこに対するアプローチを検討すべきです。

(神田)
───「おはよう日本」と「ズームイン!! SUPER」を押さえれば、ローカル企業のマスメディアへの施策としては、3割がた達成に近いものがあるかもしれませんね。

(吉池)
一方、ウェブPRの話になりますが、企業サイドとしては、ネガティブ情報の広がりやネット上の行き過ぎた正義感による批判出現に対する恐怖感から、積極的に取り組みにくい様子が伺えます。経営者の度量が大きくないと担当者レベルの考えではトライしにくいようです。

(神田)
───今まで、出会ったことがないような人種の評価にさらされるわけですからね。マナーや礼儀にうるさい固い会社ほど呪縛があり、思い切った施策ができないと思います。

(吉池)
今までであれば、メーカーなどの場合、クレームの窓口はコールセンターなどに限られていました。それが、たとえば、経営陣や社員がブログで情報を発信していたり、SNSやtwitterを利用していたりしますと、諸刃の剣で、そこが文句をつける入口になってしまうんですね。あるいは直接文句を言えなかったとしても、「2ちゃんねる」のような掲示板に書かれてしまうということもあります。そのような恐怖心がありますから、特に組織が大きく決裁者が多い企業は、なかなか動きません。ことウェブPRに関しては組織が小さい企業や新興企業のほうが積極的です。経営者の強い意志でウェブPRを行う会社が、やはりうまく立ち回っています。

(神田)
───会社のビルの形がみえないような手法がソーシャルメディア活用には適していますね。たとえば、加ト吉さんなんかは、多分、広報担当者が主体的にウェブPRに参戦しているんだと思います。

(吉池)
PR関連の話をすると、ブランディングのことがよく話題にのぼります。それで、固いイメージの会社を軟化させるようなアプローチはウェブで可能だと思います。でも、高尚にみせるとかカッコよくみせようとすると、大体コケます。それは、ウェブでウケやすいネタにあてはまらないからです。ウェブでウケやすいのは、B級ネタ、突っ込みどころのあるネタ、不条理、不合理な要素のあるネタなんです。自動車や建築関係の会社ですと、事業内容からして変なPRはうちにくいので、ネット上のバズ的要素だけで商品の認知を広めようとするのは無理があるのですが、そんなこと友達にいいますか、と思うようなことをウェブ上で広めて欲しいという要望が出たりします。

(神田)
───今の視点は重要ですね、友達にいいたくなるようなネタかどうかということですね。

(吉池)
日常会話にのりやすく、半分揶揄されるようなネタがウェブPRには適しています。但し、その先には商売があるわけで、単にバカにされて終わるということでは意味がありませんから、どうビジネスに結びつけるかについても考慮されたものでなければなりません。このように考えていくと、業種、業態、扱っている商品、サービス内容などによって、ウェブPRが実を結びやすい企業と、それを避けて通常の広告にしたほうがいい企業に分かれると思います。無理矢理、PRに重心を置く必要はありません。「ネット」 vs 「非ネット」、「PR」 vs 「広告」といった二元論で考えるのではなく、企業によって両者のバランスあるいは施策の順序を検討し、ベストな手法を展開すべきなのです。

(神田)
───ポートフォリオといいますか予算配分の最適化ですね。

(吉池)
そうです。資産運用でもそうですが、一極集中は危険であり分散することが大事です。広告は貯蓄型であり、PRは投資型の施策という見方もできます。広告の場合は、枠さえ押さえれば投下した金額分、確実に掲載されますが、反面、情報の連鎖はあまり期待できません。それに対してPRの場合は、記事やニュースとしてメディアが取り上げてくれるかどうかは不確実ですが、少ない投下予算で大きな認知効果、情報連鎖に繋がるケースもあります。もちろん、施策に対する反響が全くないリスクも孕んでいます。そうした点が投資型とされる所以です。だから、予算を全てPR施策につぎ込むのは危険です。

(神田)
───Yahoo!ニュース掲載へのアプローチを試みるのは、貯蓄型、投資型のどちらですか。

(吉池)
投資型ですが、コストが低いのでローリスク・ハイリターンの位置づけになります。なぜ、Yahoo!ニュース重視かといいますと、ネット媒体の数の多さに起因しています。ときに、弊社はメディア・キャラバンといいまして、キャンペーンの一環で、メディアの編集部に対して直接プレゼンテーションすることがあります。でも、数多くある関連のネット媒体全てにそれを実施するのは、物理的に難しい面がありますので、Yahoo!ニュースに的を絞ったほうが効率的です。

さらなる理由としては、ウェブの世界が多様化というよりも一部の強者とその他大勢という構図になっているからです。たとえば、サーチエンジンであれば、グーグルとYahoo!、オンラインショッピングであれば楽天、書籍であればアマゾンといったように1強もしくは2強の様相になっています。はっきりいいますと寡占状態です。

メディアもそれと同様にYahoo!ニュースが突出した存在になっています。Yahoo!ニュースに記事として掲載されれば、露出効果という観点から考えると、ある程度済んだことになります。それだけのアクセスの跳ね返りが期待できるんです。しかも、既存のマスメディアというのは敷居が高くて、記事掲載に関して大企業偏重であったり、広告主偏重の傾向が強かったわけですが、Yahoo!ニュースについては、マスメディアだけの記事を掲載しているわけではなく、カテゴリーを特化している媒体やニッチな情報を発信している媒体の記事も配信している関係で、記事掲載のチャンスがぐっと広がったのです。

Yahoo!ニュース掲載の確率を高めるには、提携している媒体の中でも特に関係の強い媒体、はっきりいうと産経新聞系列と毎日新聞系列、それからソフトバンクの資本が入っている媒体、この三つの系統にある媒体への記事掲載努力をすればいいんです。ソフトバンクの資本が入っている媒体というのは、たとえば芸能関連であればオリコン、スポーツ関連だとスポーツナビがあります。逆にYahoo!ニュースに記事提供していない媒体としては、日経新聞、朝日新聞、読売新聞などがあります。


<全体の対話項目>
◎ 学生時代から携わったテレビ番組制作の仕事
◎ 卒業後のフリーディレクター時代
◎ ディレクターと放送作家の違い
◎ テレビ番組制作の現場
◎ 米国シアトル留学時代の波乱万丈
◎ 金欠状態で立ち上げた米国でのビジネス(ウェブデザイン、ウェブマーケティング)
◎ ウェブPRの重要性が高まっている背景
◎ 消費者の購買行動メカニズムの変化
◎ ウェブPRを成功させるための攻略ポイント
◎ マスメディア発信情報が支配的なウェブ上のニュース
◎ ウェブ上で情報波及しやすいPRネタ
◎ 広告(貯蓄型)とPR(投資型)の違いと予算配分の考え方
◎ Yahoo!ニュース掲載の効果
◎ Yahoo!ニュース攻略のための基本知識と考え方
◎ ウェブPRも根底はアナログでヒューマンタッチな取り組みが肝要
◎ ソーシャルメディアを活用したPRのリスクと取り組み方

 (2010年3月16日収録) 


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