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YouTube時代における危機管理。風評被害をチャンスに変えたドミノズピザ

オンライン・ブランドバッシング、企業のイメージを損なう情報や映像のネット上での公開は、現代企業の最大の懸案事項の一つである。オンラインの場合、一般メディアによるバッシングとは異なり、厄介な点がふたつある。サイバースペースは巨大な海だ。企業に対するよからぬ噂がどこで立てられるか、皆目検討がつかないため、発生後すばやく対応することが難しい。YouTube やメジャーなブログスフィアは代理店や専門会社がウオッチしているが、それでも発見が遅れることがある。もう一つは、オンライン時代の特性で、企業バッシングにつながる噂や映像があっという間にネットを駆け巡ってしまい、現実的な対処のしようがないことだ。今月、米国の宅配ピザ大手、ドミノズを襲ったのはこうしたケースの典型的なものだった。

4月15日、ドミノズ・ピザの従業員二人が、面白半分にキッチンで行なった“不適切な行為”のビデオをYouTubeにアップした。ピザに唾を吐く、鼻くそを擦り付ける等、関係者でなくても目を覆いたくなるようなシーンのオンパレードであるこのビデオは、YouTube に投稿されるやあっという間に数万のビューを記録、テレビニュースでも放映された。

まさにコブラの毒が全身に回るがごとくの早さだが、広告代理店のウェバー・シャンドウィックのリサーチャーによれば、これには最近のソーシャルメディアサービス、Twitterなどのインスタントメッセージの影響が大きいという。Twitterは複数の友人や知人に短いメッセージを送ると、それがコンピュータのスクリーンに即時に表示されるサービスで、仕事中でも常にメッセージのやり取りが行なえる。殆どニュース速報のノリで、コンピュータの前にいる不特定多数の仲間に即時にメッセージを送ることができるのだ。仕事中のリフレッシュメントに最適なツールであるTwitterは今や大人気で、学生やホワイトカラーまで、コンピュータの前に縛り付けられている人々の間にかなり普及している。“ドミノズのひどいビデオ見た?”こんなメッセージが全米中を飛び交ったに違いない。多くの人が仕事を中断してYouTube のページを開き、ビデオを見る。これはひどい、と思った人々が再びTwitterでニュースを広め… 企業や代理店にとってはまさに悪夢である。

話が面白くなるのはここからである。ドミノズUSAはこの悪夢を逆手にとり、状況を見事に乗り切ったのだ。ドミノズ社長のパトリック・ドイルは自らカメラの前に立ち、深く謝罪した映像を作成し、全米に発表した。これは企業スキャンダルの場合ごく一般的な対処だが、従来のケースと大きく異なる点があった。ドイル社長の謝罪映像はYouTubeを使って流されたのである。

「こんにちは。ドミノズUSA社長のパトリック・ドイルです。このたびの弊社の従業員の行動を深くお詫びします。(中略)二人の従業員は解雇され、現在刑事責任を追及されています。店舗は閉鎖され、完全な消毒を行ないました。我々は従業員の採用基準を見直し、こうした輩を二度と我々の店舗にいれません。同時に第三者による衛生面での監視を徹底して行い、皆さんの信頼を取り戻すために最大限の努力を図ります…」約二分間のこのビデオは事件後ただちにアップされ、1週間経過の現在63万ビューを記録している。

YouTubeによって引き起こされた事件の火消しをYouTubeを使って行う─ この意表をついた対応は、かなりの効果を発揮した。まず話題の中心が、従業員によるビデオからドイル社長の真摯なお詫びビデオにすっかり移ってしまった。人々の声が“ドミノズのひどいビデオ見た?”から、“社長のビデオ見た?”に切り替わったのである。また、これは意図したものかどうかわからないが、現在事件の発端になったビデオを探そうとしてDominosで検索をかけても、問題の映像はすでに削除され、代わりにリストされるのはドイル社長のビデオだ。もし意図的ならば天才的な戦略である。見事な対応が功を奏したのか、事件後に急落した同社の株価は上昇に転じ、事件前より高値を記録している。

今回の事件はマスコミ・広告関係者に大きな衝撃を与えた。既存のメディアが広告効果の面でYouTubeにその座を奪われて久しいが、こうした企業スキャンダルの対応でさえ、新聞やテレビなどを使用するよりも、YouTubeの方がはるかに効果的だということが明らかになったのだ。今後、企業スキャンダルの対処にYouTubeを使うことはごく一般的になっていくだろう。既存メディアは、企業の公式発表という役割さえネットに奪われてしまったのである。

最後に米国の広告業界誌が発表した、企業がネット上のブランドバッシングの影響を最小限にとどめるために日常的にできること、のリストをお届けしよう。

▼ネット上の警戒を怠るな。企業に対する悪評が立ったらすぐに対応せよ。
  (ドイル社長は直ちにビデオを作成、公表した)

▼非がある場合は迅速に謝罪せよ。事態は一刻を争う。逡巡や責任回避は事態を
 悪くするだけだ。(ネット時代、現在調査中でコメントできない、などという
 日本でよくある時間稼ぎは命取り)

▼いざという時のために、ソーシャルネットワークサービスに自社のチャネルを
 作っておけ。(ドイル社長のビデオはYouTubeの同社の専門チャネルから流された)

▼隠し事をするな。透明性こそ信頼を取り戻す道である。
  
▼ピンチをチャンスに変えろ。緊急時の対応次第では、評価を上げることさえ可能だ。
  (まさに今回のドミノズのケースである)


もうひとつ最後に提案したい。SMAPの草なぎくん、しばらくしたらファンと世間に謝罪する映像をYouTubeにアップしてみてはどうか。これはジョークではない。私は真剣に言っている。歴史に残る空前のヒットになることは間違いないし、うまくすればドミノズのような逆転劇さえあるかもしれないのだ。

http://www.YouTube.com/watch?v=7l6AJ49xNSQ&feature=related
(ドイル社長謝罪ビデオ)

http://www.YouTube.com/watch?v=OhBmWxQpedI 
(事件を伝えるニュース番組)

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○アゴラ 2009/04/25
 「Twitterとケータイメールの親和性 - 小川浩」
 いまどきの十代から二十代の若者は、メールと言えば携帯電話のそれであり、
 彼らのほとんどはタイトルを書かず、非常に短い文章しか書きません。
 そうした短文を、短い間隔(尺が短い)でやりとりしています。これは
 Twitterの感覚に非常に近いと言えます。もともとTwitterが携帯電話のSMSを
 模して設計されたこともあるのですが、PCのメールが従来のBlogとすれば、
 ケータイのメールはTwitter的であるといって過言ではないと思います。
http://agora-web.jp/archives/585449.html#more

 

 


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