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吉田就彦×神田敏晶 対談 時代が要請する人財「ビジネス・プロデューサー」の奥義

  • MediaSabor 編集部

メディアサボールのビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」 第17回目の対談企画。
テーマ: 時代が要請する人財「ビジネス・プロデューサー」の奥義(放送時間:107分)
■ゲスト:吉田就彦   インタビュアー:神田敏晶(ジャーナリスト)

「プロデュース」という仕事のやり方は、これまでは映画や音楽などのコンテンツ業界における役割として語られることが多い言葉でした。この「プロデュース」というビジネス手法の概念は、曖昧で多種多様であることから、一般のビジネスパーソンにとっては、なかなかわかりにくいものです。コンテンツ業界で二十年、インターネット・ベンチャーで十年を経て、現在、プロデューサー人材教育にもたずさわっている今回のゲスト 吉田就彦氏は、「デジタル化」「フラット化」「グローバル化」というインターネット革命以降の新しい時代に、コンテンツ業界のみならず、あらゆる産業のビジネス手法として「プロデュース」が有効なのではないかということを提唱されています。その意味するところをご自身の経験とともに語っていただきました。

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 <吉田就彦(よしだ なりひこ)>プロフィール
1957年生まれ。早稲田大學理工学部機械工学科卒。1979年、キャニオンレコード(現ポニーキャニオン)入社。音楽、映像、ゲーム、マルチメディア等の制作、宣伝業務に20年間従事する。 制作ディレクターや宣伝プロデューサーとして「チェッカーズ」や「おニャン子クラブ」、「中島みゆき」等の数々のヒットを手がける。映画プロデューサーとしても「ビートたけし」主演の「教祖誕生」等の制作をおこなう。また、邦画・洋画の映画、テレビドラマ、アニメ、ビジュアルアイドル、スポーツ、ラーニング、ハウツー、キッズ等のビデオビジネスやGAME、マルチメディア商品のビジネス・マネージメントにもたずさわる。ポニーキャニオンでの最後の仕事は国民的なヒットとなった「だんご3兄弟」。

1999年、ポニーキャニオン退社後、デジタルガレージに取締役副社長として入社。EC事業、オークションエスクロウ事業の立ち上げやCCO(Chief Content Officer)として、国内大手通信事業会社に対し、インターネットにおけるコンテンツ・ビジネスのコンサルティング業務等をおこなう。

現在は、コンテンツ・アナリストを標榜して、公開会社を含む数社の取締役、顧問業務などを中心に、デジタルコンテンツ関連事業のコンサルティングを行なっている傍ら、デジタルハリウッド大学大学院ヒットコンテンツ研究室を中心に、コンテンツ・ビジネス関連の研究・人材教育にもたずさわっている。

著書に「ヒット学---コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則」
「アイデアを形にする仕事術━━ビジネス・プロデューサーの七つの能力」
がある。
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音源本編から、その一部を切り取った対話を下記に掲載いたします。



(神田)
───デジタルネットワーク社会において、あらゆる産業のビジネス手法として「ビジネス・プロデューサー」という仕事のスタイルが有効性を発揮するであろうということを提唱されていますが、吉田さんの考えるビジネス・プロデューサー像を教えてください。

(吉田)
プロデュースとかプロデューサーという言葉は、アニメとか映画、音楽などのコンテンツ制作に関することだと思われがちですが、実は世の中が直面している「デジタル化」「フラット化」「グローバル化」などの大きなパラダイムシフトの中における仕事の手法として、必要なやり方だと思っているんです。

プロデュースとは、どういうことかといいますと、あるビジョンを自ら持って、自分が独立していて、必要ならば色々な人たちとネットワークを作りながら、ある意味ではプロジェクト単位で物事を進めることで成果を上げ、さらに、それを次のプロジェクトに還元させていくような仕事のスタイルです。上司に命令されたことを忠実に実行するといった一般的なビジネススタイルとは異なるものです。社員自らが主体者となり、実現させたいことに向かって経営資源を集めながら実行に移していくようなベンチャー的な動きを、多くの企業が内包しなければならない時代だと思っています。

そのような「ビジネス・プロデューサー」達が活躍するためには、様々な能力が必要になりますが、私はそれを七つの能力といっています。一つは、ヒットの芽や、それに関わっている人材の可能性を見出す「発見力」です。二つ目は、世の中の動きや物事の本質がわかる「理解力」です。三つ目は、ビジョンを描いてゴールイメージをプロジェクトに関わる人たち全体に情報共有させる「目標力」です。四つ目は、様々な資源を有効に活用できる「組織力」。そして、その組織を構成する人たちを励まして、力を発揮させる「働きかけ力」。それから、プロジェクトの推進には、トラブルや環境変化はつきものですので、それに対応するための「柔軟力」。最後の七つ目が、ビジョンを達成して、そのノウハウを蓄積し、それを次に活かす「完結力」です。これらの七つの能力が一連のプロデュース力だと定義しています。

(神田)
───今、挙げていただいた能力を全て兼ね備えるというのは、かなり難しいことのように思えますが

(吉田)
当然のことながら、優れたプロデューサーのタイプというのは様々で、ある部分は弱いけれども、この部分は突出していているというそれぞれの特徴があります。たとえば、リクルートで「R25」というフリーペーパー事業を大成功させた藤井大輔さんですが、彼は、ああいう情報媒体のニーズがあるということを発見したんですね。仮説をたて、定量調査やインタビューなどの定性調査を実施し、これまでのフリーペーパーの内容とは異なるコンセプトを見つけたんです。それで、書籍の中では、藤井さんのことを「発見力の達人」として紹介しました。七つの能力といっても、人間ですのでデコボコがありますが、それらの能力を連続的に使って仕事を進めていると考えています。

(神田)
───そういう意味では、人って面白いですよね。それぞれにキャラクターがあり、魅力があります。

(吉田)
先ほど七つの能力と言いましたが、それ以外にも色々な能力があるわけで、その総合体が人間じゃないですか。但し、プロデュースという作業を行っていくには、この七つの能力がないと、やりにくい、しづらい、という側面があることを、自身の経験や成功したプロデューサーを見てきて感じたことです。

(神田)
───この七つの能力というのは、生まれもって備わっている天性の部分が大きいのか、それとも、猛烈なしごきの中で鍛えられるものなのか、あるいは、自分で目標を高く設定して階段を一歩一歩上がっていくような人に備わるものなのか、プロデューサーを育てる立場から、どのように捉えていますか。

(吉田)
ポニー・キャニオン時代に、一番多いときで30数名のスタッフのマネジメントをやっていたことがありますが、人を育てるということは容易なことではありません。よくOJTといって現場で人を育てるんだということがいわれ、実際に私自身もそれを実践したのですが、なかなか思うようには、いかなかったというのが振り返っての実感です。それで、一旦、引いてみて、自分でやってきたこととか、成功した人の事例を分析して、どんな能力が必要なのかを著したのが「アイデアを形にする仕事術──ビジネス・プロデューサーの7つの能力」です。

この能力を高めるための研修プログラムも開発しています。プロデュース業務にはEQ(Emotionally Intelligence Quotient)という感情をマネジメントする能力が必要だと考えていまして、今まで私が携わってきた業界の中で、数々の実績を残されている方に、EQについてのテストをやっていただいて、ある能力を割り出したんです。そして、その割り出した能力を高める方法として研修プログラムに落とし込みました。それをデジタルハリウッド大学大学院の講義の中でやっていますし、また、一般企業向けの研修として導入していただいたりしています。これによって自己分析ができ、プロデューサーとして、何が優れていて何が足りないかということがわかってきます。それを意識することで、ヒットを生むチャンス、ビジネスを成功させるチャンスを少しでも上乗せすることができるという思いを込めてやっています。

(神田)
───著書の中にHS(ヒットシグナル)というキーワードが出てきますが、この言葉について掘り下げて説明していただけますか。

(吉田)
HS(ヒットシグナル)というのは、ビジネス・プロデューサーがヒットを生んだり、ビジネスを成功させるための要素となるヒットの兆候のことです。たとえば、噂話でこういう面白いものがあるとか、新発売のお菓子がおいしいらしいとか、単純にマーケティングデータとして、ある特定の地域で良好なパフォーマンスを示している商品があるとか、それから、それらのプロジェクトに関わっている人たちが、すごく主体的に取り組んでいて趣向を凝らしていることが好結果に繋がっているとかといった様々な兆候、POSデータには出てこないような現象などをHS(ヒットシグナル)と呼んでいて、それらを発見することがヒットを生む、もしくはビジネスを成功させるためのスタートになると考えています。

(神田)
───広範囲にアンテナを張り巡らせていなければならないんですね。

(吉田)
そうですね。世の中で何が起こっているのかを覚知する感度を高めるということです。

(神田)
───その感度は、訓練によって高められるものなんでしょうか。

(吉田)
これは見つけようとする意識が大きく影響してくることなので、トレーニングすることによって能力開発することが可能です。そうすることで問題意識が深まり、そこからいいアイデアが浮かんだり、人との出会いがあったりするんです。いわば、求めれば与えられるという表現に近いものです。

(神田)
───確かに、意識しているかいないかで得られるものは変わってきますね。

(吉田)
能力というのは人間、千差万別ですが、意識を高めることによって転機に巡り合いやすくなるのです。皆、誰でもチャンスがあるわけですけれども、そのチャンスを掴むか、掴めないかによって結果は大きく変わってしまうという、まさにそのことです。

ソーシャルメディアは、個人のアンテナ、感度がすごく影響してくる世界だといえます。ソーシャルメディアの利用が盛んになってきた今の時代というのは、感度が問われる時代だといっていいと思うんです。

(神田)
───その辺のことについて、もう少し伺ってみたいのですが、ウィンドウズ95が登場した1995年が日本社会におけるデジタル革命のファーストインパクト(個の受発信の革命)と呼んでいらっしゃいます。

(吉田)
ウィンドウズ95の登場によってパソコンが個人、企業に急速に普及していきました。このデジタルが社会に与えた影響力をファーストインパクトとして捉えています。

(神田)
───また、過去の歴史的な社会事象として、産業革命やルネッサンス(人間復興)とともに、「LOVE&PEACE」を取り上げていたのが面白いなあと思ったのですが。

(吉田)
私は「LOVE&PEACE」が第二のルネッサンスだと思っているんです。

(神田)
───その点をもう少し話していただけますか。

(吉田)
14から16世紀にイタリアで起こったのがルネッサンスです。これは、神の呪縛からの解放として起こったものです。人間の肉体、裸体を芸術表現として取り入れた動きなどがありました。その後、18世紀にイギリスで蒸気機関による産業革命が起こったのですが、ルネッサンスで人間復興がなされたにもかかわらず、今度は人間が機械に支配される時代に突入してしまったわけです。産業革命の非常に不幸な出来事は、原子爆弾の開発とともに大きな戦争を二つ越えて、ベトナム戦争に繋がっていきました。そのときに起こったのが「LOVE&PEACE」というムーブメントです。あの当時、若者達が愛と平和を訴え徴兵や派兵に反発し、また、いいかどうかはわかりませんけれども、宗教、薬物などによって人間の精神を解放しようという動きがありました。これが、もう一度、人間を自由な存在に復興させようとする第二のルネッサンスだったと私は捉えています。

その第二のルネッサンスを経たあとの20世紀末からのデジタル革命が第二の産業革命とするなら、21世紀には、第三のルネッサンスが起こるであろうと踏んでいます。それはデジタルの呪縛からの解放ではなくて、今度は、第二の産業革命であるデジタルの力によって、人間が復興すると思っています。デジタルが人間を規定していくのではなくて、どんどんデジタルが進化していくことで人間と交わるというか、人間にとって味方になると考えているんです。つまり、人間の解放がデジタル技術の進歩によって進んでいくということです。インターネットが世界中をつなげ、情報共有化を実現したことにより、国や人種、宗教、政治思想を越えて人間同士がつながれる可能性があるのです。

デジタル社会の向かう先というのは、より使いやすいとか、便利だとかという方向に進んでいくと思うんですね。それで、私がヒット理論として言っているのは、ヒットを生む要素は二つしかなくて、それは「楽しい」か、「便利」であるかのどちらかだということです。楽しいというのは感情の動きを表現しているので、「悲しい」でもいいんです。この感情の動き、もしくは利便性の追求によってヒットは生まれます。デジタル革命というのは、利便性が高まる方向に進んでいるわけですが、より技術が人間に沿ってくるだろうし、さらに言えば、そのときに人間の真価が問われるようになります。今までだとITリテラシーの高い人が優位に立てるという面があったかもしれませんが、だんだん、敷居が低くなるほど人間性そのものが重要になってきます。だから、逆説的になりますが、デジタル化が進めば進むほどアナログが重要になってくると考えています。アナログの究極は人間なので、人間性が重要になるということです。

twitterの話をするときによく言うのですが、twitterをどのように有効に使うかを考えるときに、大半の人は、何に使えるとかビジネスに使えるとかといった手法に視点が向かいがちです。もちろん、それも大事ですが、本当にtwitterの可能性を広げるためには、「何を書き込むのか」という視点のほうに比重を置くことがポイントだと思っています。そこにこそ人間性が表れるのであり、人間性が表れないものに対しては、だんだん反応は鈍くなります。

先ほど1995年のウィンドウズ95登場がファーストインパクトだといいましたが、セカンドインパクトは2005年、これはmixi(ミクシィ)というコミュニケーション・ツールがブレイクした年です。その次のサードインパクトは2011年に起こると予想しています。これは、地上波テレビがデジタルにシフトすることで起こるメディア資本の最適化、メディアの再編によるものです。そして、フォースインパクトは、恐らく2013年頃と予想していますが、コミュニケーションの革命が起こり、CGMが本格的に社会に影響を与える時代になり、それによって当然ビジネスのあり方が変わり、ヒットづくりも変わり、商品やサービスを受けるコンシューマーという存在の意味も変わっていきます。このような社会変革のパラダイムシフトを無視しては、これからの企業活動、ひいてはビジネスの成功はおぼつきません。


<全体の対話項目>
◎キャニオンレコード(現ポニーキャニオン)勤務時代
 ・原田知世、チェッカーズ、おニャン子クラブ、中島みゆきらのプロデュース
 ・「だんご3兄弟」大ヒットの知られざる裏側
◎IT業界転身後の仕事について
◎「ビジネス・プロデューサー」の仕事のスタイル
◎「ビジネス・プロデュース」に求められる7つの能力
◎ヒット・プロデューサーのEQ能力とEQ行動特性
◎ヒットシグナル(HS)とは
◎第二のルネッサンスとしての“Love & Peace”
◎第三のルネッサンスとしてのデジタル革命による人間解放
◎ヒットが生まれる2つの軸
◎メディア変遷におけるソーシャルメディアの影響力と可能性
◎プロデュースという仕事スタイルの根本である「創造」「融合」「実現」

 (2010年3月31日収録)


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