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徐向東×本田雅一 対談 「増大する中国の消費パワーと巨大市場開拓の方法論」

  • MediaSabor 編集部

メディアサボールのビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」 第15回目の対談企画。
■ゲスト:徐向東   インタビュアー:本田雅一(ジャーナリスト)
テーマ: 「増大する中国の消費パワーと巨大市場開拓の方法論」(放送時間:110分)

日本人の感覚では、まだ生産拠点としての中国というイメージが強い人も多いと思われますが、今や、あらゆる分野で世界最大勢力となり、生産・消費・資源・金融・投資・物流など世界経済を牛耳る存在になっています。グローバル競争に生き残れるのは、中国はじめ新興国市場で勝てる企業だと主張する徐氏。中国市場進出に遅れを取っている日本企業が巻き返すためにはどうするべきなのか。現地人の登用、人事、報酬を含め、課題は山積です。世界有数の消費市場に成長しつつある中国市場開拓にあたっては、中国マーケットの特徴を地域ごとに把握し、中国人特有のライフスタイル、習慣、消費性向を知ることが重要です。これまで断片的に伝えられてきたステレオタイプの中国像を払拭する貴重な対談です。

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 <徐 向東>プロフィール
 北京外国語大学講師の時代、文部省奨学金で立教大学博士課程に留学、博士号取得。日本労働研究機構(現、独立法人労働政策研究・研修機構)研究員、中央大学および専修大学(兼任講師)、日経リサーチ主任研究員、首席研究員、上海事務所総監、キャストコンサルティング株式会社社長を経て、中国市場戦略研究所代表就任。 
 日経リサーチ時代から、中国での調査やコンサルティングに従事。03年2月17日日経新聞経済教室欄に「中国“新中間層”の台頭」を発表。消費市場としての中国新中間層への注目を日本で初めて提起。自動車からIT、飲料、観光、ファッションまで幅広い分野での中国市場戦略サポートの実績を持つ。著作に『中国で売れる会社は世界で売れる』、『中国人に売る時代!』がある。
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音源本編から、その一部を切り取った記事を下記に掲載いたします。

(本田)
───2003年2月、日経新聞経済教室欄に「中国“新中間層”の台頭」を発表。消費市場としての中国新中間層への注目を日本で始めて提起されました。著書に、「中国で売れる会社は世界で売れる」「中国人に売る時代」などがありますが、自動車から飲料、IT、観光、ファッションまで、幅広い分野を紹介しています。それから、私が驚いたのは、中国の広く多様な地域の要所となる市場を数多く把握されているということです。

(徐)
日本にくる前の中国での生活は、子供の頃から親の仕事の関係で、あちこちの地域を転々としていました。だから、生まれたところ、成長したところ、大学で教育を受けたところ、働いたところが、それぞれ全て違うんです。そうした経験があったことと、中国マーケットに関する仕事に携わってからは、沿海部だけでなく内陸部にも足を運んで調査をしていました。

(本田)
───本日の主要テーマは、「増大する中国の消費パワーと巨大市場開拓の方法論」です。今や世界経済を牛耳る存在に成長してきた中国ですが、その内実に迫ってみたいと思います。日経リサーチの研究員時代は、どんなことをされていたんですか。

(徐)
博士号を日本の大学で取得しまして、本来は大学の先生になるはずだったんです。地方大学の内定もいただきました。ただ、当時、中国経済が急速に成長し、ビジネスの現場では色々と面白いことが起きていました。それで、大学で教鞭をとるよりも、ビジネスの熱い現場に触れるような仕事をしたいという思いが大きくなっていきました。かといって、当時、私は30歳を過ぎていて、日本での中途採用による就職はなかなか難しい状況でした。ある日、たまたま新聞で日経リサーチの求人を目にし、応募してみました。応募時は気が付かなかったんですけれど、実際の募集要項としては、私の年齢はオーバーしていました。でも、その頃は、日本の自動車メーカーが中国で現地生産を始めようとする時期で、中国人のライフスタイルや消費嗜好、価値観を調べたいという需要があったのです。日経リサーチにも、中国に詳しい人材はそうそういませんでしたので、年齢制限をオーバーしていたにもかかわらず、私を採用してくれることになりました。そこから、日産などの自動車メーカーの仕事を皮切りに、中国のマーケティング戦略に関わるビジネスをするようになりました。

(本田)
───2003年2月、日経新聞経済教室欄に「中国“新中間層”の台頭」を発表し、消費市場としての中国新中間層への注目を日本で始めて提起されました。この内容について教えていただけますか。

(徐)
日経リサーチに入社後、自動車メーカーの中国マーケティングに携わったのですが、新しい車種を出す5年前くらいから大規模な調査を行っていました。たとえば、人口規模、ターゲットユーザーのボリューム、ライフスタイルの変化などを分析することで、どんなクルマを造っていけばいいのかを検討していたのです。そうした仕事を通じて、今後、中国のミドルクラスが大きく成長し、中国経済、引いては世界経済に多大な影響を及ぼすようになるだろうという予感を持ちました。が、当時の日本のマスメディアの論調は、中国の一握りの富裕層に着目したものがほとんどでした。私は、日本企業が将来の戦略を考えるうえで、もっと注目しなければならないのは、中国の中間層の拡大なんだという思いが強くなり、それを日本企業の方々に伝えたくて日経新聞に執筆のアピールをし、発表に至りました。

(本田)
───ここで言っている中間層というのは、日本でいうところの中流家庭と同義に捉えていいものなのでしょうか。

(徐)
意味合いとして大きな違いはありません。日本は、1960年代以降の高度成長により近代化、工業化が進んでいきました。その中で、企業に所属するサラリーマン階層が中流層として拡大していきました。中国では1990年代の後半から、それと同様のことが起こっていて、経済成長とともに所得がどんどん上がり、消費市場も拡大しているわけですが、日本の10倍程度の人口規模があるわけですから、そのマーケットの大きさ、インパクトを伝えたくて日経新聞に書いたのです。

(本田)
───中国の中間層について、もっと具体的なイメージを教えてほしいのですが、生活のスタイルを象徴するようなことを何か挙げてもらえますか。

(徐)
朱鎔基首相が1990年代の後半に金融改革や国有企業改革、政府機構改革などに着手しました。改革の中には住宅改革もありました。一般の庶民が自分でマンションを買うということは、それまでありませんでしたが、住宅、クルマなどの大型耐久消費財が1990年代後半から普及していきました。日本の高度成長期の様子とよく似ているのです。

(本田)
───中国に行ったことがない日本人の多くは、中国の都市部で働いている方々のイメージとして、もちろん、一部にはすごいお金持ちもいるんだけれども、狭いアパート暮らしで、テレビを買うのも大変だというような何十年か前に植えつけられた情報から、あまり変わっていない人もいるんじゃないかと思います。ですけど、今の話を聞いていると、現状では、日本の不況下にあえいでいる中流層と比較して、もしかしたら中国の中間層のほうが豊かな暮らしを送っているのかもしれないですね。

(徐)
中国は人口13億人の国ですから、平均値でみても正しく把握できないと思っています。元々、日本よりも社会格差が大きい国で、富裕層、中間層、大衆層、貧困層が存在し、それぞれ暮らしぶりは異なります。都市化率は40%程度になっていますが、6割近い人々は農村にいて、西のほう、内陸のほうに行けば行くほど、貧困にあえいでいる人が多くなります。ですので、中国を語るときに、どの部分を取上げるかによって、話がかなり異なったものになります。日本のマスメディアが中国の一部のことを偏った形で報道するために、多くの日本人が抱いている中国像も、どこか偏ったものになってしまうことは否めません。

本田さんが、先ほど言った中国の中間層のほうが豊かな暮らしを送っているのではないかという類推ですが、当たっている面もあります。たとえば、住宅面です。中国の新築マンションで100平方メートル未満のものを探すのは難しく広々しています。スケルトン・インフィルの構造を持ったマンションもあり、自分で高級な建材を導入して内装し、快適な住空間で暮らしている人も多いです。けれども、一歩外に踏み出せば、環境汚染がひどくて空気の悪さや水の問題にぶつかります。発展途上であるがゆえの社会問題からは、富裕層といえども逃れられないのです。

中国を理解したければ、先入観を捨てて実際に訪問し、中国人の友達をつくってみることです。中国のことは関係ないから、深く知る必要はないと思う方もいるかもしれません。けれども、よく日本経済に関して、失われた10年とか失われた20年とかいわれますが、今から振り返って考えますと、ステレオタイプな中国理解が日本企業の中国戦略を誤らせたのではないでしょうか。本来は、日本企業の実力を持ってすれば、もっと中国市場で成功してもいいはずだと思います。

(本田)
───中国は社会主義国家であり、社会主義というと旧ソビエト連邦のようなイメージを抱く方もいると思うのですが、現在の中国の発展ぶりを見ますと、どこが共産主義なんだろうというくらい自由化が進んでいます。

(徐)
今は、日本のほうが社会主義的なのかもしれません。

(本田)
───もはや、中国における社会主義的な経済の手法は、なくなりつつあるんでしょうか。

(徐)
中国の市場メカニズムは、ある面では、日本よりも徹底していると判断しています。但し、通信や交通などの基幹産業においては、巨大な国有企業が大きな力を持っています。それ以外の民間企業については、自由化、市場経済化が進んでいまして、資本主義国家同様に競争原理が働いているといえます。2000年に中国はWTO(世界貿易機関)に加盟しています。この加盟の前には、様々な議論が巻き起こりまして、WTOに加盟したら中国は相当なダメージを蒙るんじゃないかと、ほとんどの人は思っていました。しかし、その後、2008年の北京オリンピックの年まで7年にわたり、中国経済は二桁成長が続きました。世界に対して国を大きく開いていくことが、自国を成長させることにつながると政府および企業は理解しています。

(本田)
───中国は現在、多くの製造業分野で生産量のシェアがトップクラスとなり、このままバイイングパワーとの相乗効果で技術力も高まっていったら、われわれ日本人は生活の基盤を脅かされてしまいますね。

(徐)
必ずしもそうとはいえません。たとえば、上海の女性消費者の動向を観察していますと、驚くほど日本の商品を高く評価しています。日本の商品には独自の価値があります。それは、安全、安心、きめ細かさ、といった面です。こうした強みを持っているのですから、もっと積極的に中国市場を開拓すべきだと思います。

(本田)
───今、いくつかのキーワードを挙げられましたが、もう少し掘り下げて、徐さんからみた日本企業の強みが何であるかをお話していただけますか。

(徐)
現在、中国の市場は量的拡大から品質も問われる段階に転換しつつあると考えています。モノが不足している時代は、行け行けドンドンで商品を供給し、品質管理がきちんと行われてない面もありました。2008年の北京オリンピックの年に、粉ミルクへのメラミン混入の問題が発覚し、非常に大きな社会問題になりました。そのため、消費者は安全、安心で、より上質な生活を求めるようになったのです。そうなったときに、消費者のニーズを満たすのは、やはり日本の商品だと考えます。でも、日本の企業はパイが縮小している国内の過当競争に注力しているだけで、隣国の大きな市場を開拓しようとしません。

(本田)
───日本の企業は、国内のビジネスで成功すればある程度儲かるので、まずは国内市場を優先し、そこで成果を収めると満足してしまう傾向があります。あるいは、国内消費者のレベルの高いニーズへの対応で疲弊してしまい、新興国市場の開拓まで手が回らないという側面もあります。その辺が問題ですね。

(徐)
でも、日本国内での成功というのは、世界市場の視点で考えれば小さな満足に過ぎません。韓国のサムスンは、世界マーケットの観点で考えれば日本の家電メーカーよりも存在感が大きくなっています。なぜ、そうなったかといえば、韓国内の市場は4000から5000万人と規模が小さいため、生き残るために最初から海外マーケットを重視した戦略をとっているからなんですね。中国は確かに日本に比べると大気汚染や水の問題などがあり、商習慣や考え方の違いなども含めるとビジネスを行うには苦労が多いことは間違いありません。誰しも苦労するより楽をしたいと思うのは当然です。日本企業は楽な道を選んだのです。だから、チャンスを逃すことになってしまったんです。

(本田)
───先ほど、中国の市場が量的拡大から品質が問われる局面に転換しつつあるという話がありましたが、中国国内メーカーの製品と他国から入ってくるものの間には、当然のことながら価格差があると思います。質を求めるとしても、どのくらいの価格差であれば許容範囲なんでしょうか。

(徐)
それは、製品のジャンルによって異なります。たとえば、化粧品やファッション分野であれば、同じものが日本よりも高い価格で販売されているケースがあります。化粧品は、日本ではドラッグストアなどで購入する人が多いと思いますが、中国の女性は百貨店で買います。ファッションやクルマを含めこうしたエモーショナル・ベネフィットのある商品群については、日本人以上に高い価格で購入している場合が見られます。

(本田)
───ということは、経済成長期にあるだけに、自分をより良く見せたい心理が強いのでしょうか。

(徐)
日本の高度成長からバブル崩壊までの過程に似ているのではないでしょうか。夢に向かってステイタス、見栄の張り合いをしているようなところがあります。日本以上に若者の消費意欲は旺盛で、上海などに足を運ぶと日本よりも活気があります。中国は成長途上、育ち盛りなんですよ。

(本田)
───バブル時代の日本を彷彿とさせるものがあるということですが、大きな違いは、10倍の人口がいるということですね。

(徐)
そうです。沿海部が豊かになったあとで、クルマがよく売れた地域は内陸部に移りました。昨年、中国では1300万台のクルマが売れ、世界最大の自動車販売大国といわれましたが、販売数量の多かった地域は内陸部であり、50%の大きな伸びを示したんです。西のほうは、まだこれからです。そのようなふところの大きさがあります。


<全体の対話項目>
◎中国中間層購買力拡大の気づき
◎日本における中国市場の誤った見方
◎中国の市場経済化の様相
◎中国から見た日本企業、日本製品の強み
◎商品カテゴリー別の中国人消費性向
◎地域ごとに異なる中国市場の特徴
◎中国人と日本人のビジネススタイルの違い
◎中国の新しい主役層「80後」世代、「90後」世代
◎中国市場開拓の成功事例
 ・サムスン
 ・コカ・コーラ
 ・ダイキン
 ・ワトソンズ(中国版マツキヨ)
◎北京五輪における企業PRの巧拙
◎中国市場で開拓余地の大きい魅力的なカテゴリー
◎日本企業が留意すべき中国市場開拓戦略、現地人の人材活用
◎中国市場進出のリスク
◎日本と中国の今後のパートナーシップ

 (2010年2月26日収録)

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