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命を救い、死を見つめ続ける医療現場

■生きるための一呼吸

健康に良いと言えば何でも売れてしまいそうな昨今、サプリメントから食品、温泉、エクササイズとどこへ行っても「健康」という言葉が付いてまわる。ついにはそれを裏付けるデータのねつ造まで飛び出した。かつてこれほどの「健康」ブームはなかった。裏を返せばそれほど今の世の中が不健康になっている証拠だろう。

アルコールや薬物などに対する病的依存(addiction)にはセロトニン系の神経が関与していて、それを鍛えるのが良いという話をある医師から聞いた。それには座禅、ヨガ、気功、太極拳などで使われる意識的な呼吸法が効果的なのだそうである。なかでも座禅は古くから日本人にはなじみが深いし、その気にさえなれば格好だけは誰にでも出来そうだ。とにかく気持ちを静かに保って、吸った息をゆっくりと長く吐くだけでも自律神経に作用するという。

■意識呼吸法

そこで必ず出てくるのが「気(QI)」であるが、気の正体はまだまったく分かっていない。しかし、元気、病気、空気、天気…と、ひとつの漢字がこれほどよく使われるのも例をみない。それほど昔から私たちの生活に溶け込んでいるわけだ。

広辞苑によれば、「気」とは「天地間を満たし、宇宙を構成する基本と考えられるもの」とある。なのに、そんな大事なものの割にはほとんど意識されていない。だから気なのだ、と言われてしまえばそれまでだが、近年「気」は医療の中でも注目されるようになってきた。なにしろ天地間を満たし…であるから当然のごとく私たちの体の中にも存在して当然といえば当然である。

アメリカ・ミシガン州在住の新倉勝美さん(元・空手世界チャンピオン)は、脳腫瘍で余命わずかと告げられたご自身の娘さんを、自ら会得した気功法で見事に完治させた。医師らは首を傾げるばかりだったという。

東洋医学では「気」は生命エネルギーそのものであるとされ、気を満たすための呼吸法が数多く存在する。

言うまでもなく、酸素がなければ人間は一時も生きていけない。どんなに丈夫な躰を持ち屈強な精神力に支えられた人間であっても、酸素を絶たれては手も足も出ない。1分後には確実に生と死の岐路に立たされてしまう。こうなると金や名誉など何の役にも立たない。当事者はたった一呼吸のためにすべてを投げ出すだろう。

ところが私たちは息ができることの有難みなど、普段の生活の中ではまったく考えもしない。自分が呼吸していることすら忘れて動き回っているのだ。武道をはじめ、今日ではあらゆるスポーツに呼吸の大切さが語られている。このことからも意識呼吸法がとても大事なことがわかる。

■人工呼吸器

ところで、呼吸をつかさどる中枢は大脳の下に続く延髄というところにあって、呼吸のリズムをコントロールする神経と、呼吸に必要な筋肉をコントロールする二つの神経系をうまく働かせている。それで運動している時も、眠っている無意識の時も、ちゃんと呼吸することを忘れないでいるのだが、時には深呼吸のように意識的に呼吸する事もできるように管理してくれている。

ところが、事故や脳出血などでこの呼吸中枢が傷害されると、もはや自分の力では呼吸する事が出来なくなってしまう。もう少し詳しく言うと、体温や血圧といった人間が生きるために必要な最低限の機能は、延髄を含む脳幹という場所でコントロールされていて、大脳がその機能を失ったあとも条件さえ整っていればある程度、生き続けることができる。

事故などにあった患者に自発呼吸(自分で呼吸できる状態)があっても人工呼吸器をつけることがある。これは確実な救命を図るためで救命医療の現場ではよくあることだ。

全身麻酔をして手術する場合にも確実な呼吸管理をするため同じように人工呼吸器を取り付ける。非常にデリケートな問題ではあるが、人工呼吸器を付けた状態で、もし手術や治療の甲斐なく脳の機能が失われた時、呼吸だけは器械が肺に酸素を送り込むので心臓は動き続ける。このことが脳死状態をつくることにつながっていくことも事実である。

いうなれば脳死は近代医学がつくりだした人間のもう一つの「死」のカタチといえる。
医療の目的は「命」を救うことに他ならない。と同時に「死」を見つめ続けねばならない厳しい現場なのである。


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