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痛みの性質を知って病気を予防する

「痛み」を克服することは医療のみならず、われわれ人類が抱えてきた大きな課題だろう。「痛み」は生命の危機を知らせてくれる大事な感覚でもあるし、痛みを感じることが出来なければ人間は生きてはいけない。

先ごろ京都で開かれた第36回慢性疼痛学会(北出利勝会長・明治鍼灸大学教授)では、痛みに対する基礎医学の研究者や第一線の臨床医たちが大勢集まり数々の報告がなされたが、「痛み」にはまだまだ解明できていないことがたくさんある事を印象づける結果となった。

慢性疼痛とは、怪我や病気の痛みが半年以上も続いたり悪化したりするなどして、「痛み」そのものが病的な症状に発展したものを指す専門用語である。今回はこの「痛み感覚」の意味を掘り下げることで、私たちの健康維持に役立つ情報を探してみたいと思う。


■痛みは目に見えず、他人にはわからない

ズキズキする、ピリピリする、ジンジンする、あるいはうずくような痛み、突き刺すような痛み、焼けるような痛み…と、痛みの感覚をさまざまな言葉で表現することがある。ひと口に痛みと言っても感じ方や強さは人によって多種多様だ。痛みは主観的な感覚だから自分自身にしかわからないし、他人に伝えることも難しい。実のところ患者の痛みは医者にもわからないのである。

骨折ならばレントゲン写真を見ればわかるし、心電図をみれば不整脈かどうかくらいは素人でも判断がつく。だが、痛みは本人にしかわからない。人間の心の中が他人には見えないのと同様である。だから「心の中」に関係する病気は医者の努力だけではなかなか治らないことが多い。これは心因性の慢性疼痛にも同じ様なことが言える。


■必要な痛みと不必要な痛み

ここで少し痛みの基礎的な話をしておきたいと思う。ちょっと退屈かも知れないが、痛みの性質を知っていれば痛みに襲われたときに少し役立つと思うからだ。重大な病気も早期に発見できるかも知れない。あなたの痛みは「あなたにしかわからない」ということ、そしてあなたの痛みは誰よりも早くあなたを襲うということを忘れないでほしい。

痛みは大きく分けて1)生理的な侵害性の痛み、2)炎症性の痛み、3)神経因性の痛みの3つに大別される。

1)と2)は怪我や病気の場所、進行度を知らせる生体防御のための警告反応として無くてはならないものだ。

たとえば、机の角に足をぶつけた時や虫歯などで化膿した歯が痛むのは1)と2)の部類に入る。

ところが、生まれつき痛みを感じることの出来ない先天性無痛症という病気があって、この病気になった子どもはヤケドや打撲の跡が絶えない。痛みを感じることが出来ないために危険から身を守る反応が起こらないのである。

周りの人が常に気を付けていないと怪我をしたまま遊んでいる。外的な危険から守られたとしても病気などによる痛みを感じることが出来ないのでどうしても手当が遅れてしまう。だからこの病気の子は成人まで生き延びることがとても難しい。

このことからもわかるように1)と2)の「痛み」は悪者どころかとても重要で、人生に意味のある感覚ともいえる。

一方、3)の神経因性疼痛は、神経そのものが傷害されて起こる痛みで1)、2)とはちょっと性格が違ってくる。神経因性疼痛とは中枢神経や末梢神経が傷害されることが原因で起こる痛みをいう。

たとえば、帯状疱疹後の神経痛などがこれだ。ちょっと触ったくらいで飛び上がるほどの痛みを感じてしまう。ふつうは痛みを感じない程度の触覚刺激なのに神経が冒されて過敏に反応してしまうのだ。

コマーシャルなどで「痛覚過敏」という言葉をよく耳にするが、健康な歯がしみるというのもこの神経因性疼痛の仲間に入る症状の一つである。


■身近な痛みの伝わり方

では、「痛み」はどこで感じているのだろうか。その答えは「脳」である。人間の場合、手や足に怪我をしても最終的な痛みのイメージは脳の大脳新皮質で完成される。だから発達した脳を持つ生物ほど痛みを感じる仕組みは複雑で、人間はその頂点にいると言っていい。

先ほど触れた中枢神経というのは脳と脊髄のことである。それに対して末梢神経とは脊髄から外に出て体中に張り巡らされた神経を指す。運動神経や自律神経などはこの末梢神経に分類される。

そこで、より日常的な末梢神経の痛みについて話を進めていこうと思う。

ムコウズネのことを“弁慶の泣き所”というが、いかに屈強な武蔵坊弁慶でもココをぶつけてしまっては泣かずにはおれない場所…という意味からこの名がある。触ってみるとわかるようにお尻と違って衝撃を吸収してくれる肉がほとんど無く骨に皮が被っているだけで痛みには特に敏感なところである。「親の臑(すね)かじり」とはよく言ったもので、かじられる方はたまったものではない。

さて、不意にこのスネをイスの角などにぶつけたとしよう。たいてい誰でも「アッ、痛ッ」と思わず手で押さえたり、さすったりする。この時、私たちの体の中では実にみごとなネットワークが働き出す。残念だが、その話は長くなるので次回にまわしたいと思う。


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