Entry

地盤沈下しつつある米国メディア

  • 米国在住ビジネス・コンサルタント

  • 鶴亀 彰

米国最大の地元邦字新聞の編集者に会った。会社の将来を心配していた。購読者の数も広告主の数も確実な減少傾向にあると嘆く。それに対する明確な対処策も今のところ見つからないらしい。

彼の心配はロサンゼルス・タイムズなど大手の米国の新聞社でも共有されている。収益確保のために経費削減に努める余り、専従記者や編集スタッフの数もカットされ、それに抵抗した編集長が解雇されるということがあった。

新聞や雑誌などの活字メディアの苦境が続いている。メディアとして大きな力を持つテレビ局も広告収入の先行きが厳しくなり始めている。企業からの広告が減れば、番組制作経費も削らなければならず、その結果、品質維持が難しくなる。

日本でも番組制作での下請けへのコスト削減から捏造騒ぎまで起きたが、同様な傾向は世界のテレビ局共通の問題である。企業からの広告収入がテレビからインターネットに着実に移動し始めている。

メディア先進国の米国では、インターネットへ流れた広告費用は2006年には2005年から34パーセント増加し、168億ドルになったと推定されている。ドットコム・バブルの絶頂期だった2000年には82億ドルだった。

しかし、ネット広告は2001年、2002年と減少した時期もあった。2003年になってやっと増加し始め、2004年には96億ドルと戻ってきた。それから着実に上昇を続け、168億ドルとなった。これからもこの傾向はますます強くなるだろう。

活字メディアやテレビなど色々な媒体がある中で、現在米国人がインターネットに費やす時間は、メディア全体の20パーセントであると言われているが、現時点でのインターネットに向けられている広告費用は、まだ全体の5パーセントである。

YouTubeに引き続き、コンテンツ・オーナーの権利を尊重するJoost(Skypeの創業者らが起業した新しいインターネットテレビ企業)の動きもこの分野の成長に寄与するだろう。

Joostは、先進的なP2Pストリーミング技術を使ってインターネットでテレビ番組を見られるサービスを提供している。海賊版制作行為を防ぐための著作権保護機能を備えており、Joostにコンテンツを提供する企業に配慮している。

MTVチャンネルやComedy Central、更にはパラマウント映画、Dreamworksなどを傘下に保有する米国最大手のエンターテインメント企業Viacom(バイアコム)はJoostとの提携を発表した。

Viacom(バイアコム)がJoostへコンテンツを提供する代わりに、得られる広告収入を折半する形である。合意金額の正式な発表はされていないが、Viacom(バイアコム)が65パーセント、Joostが35パーセントと噂されている。

これらの動きを支えているのは米国でのブロードバンドの広がりであり、オンラインでビデオを見る人の数の増加である。2003年に5230万人だったのが、昨年は1億770万人に伸びた。2010年には1億5700万人になるらしい。

若者を中心に、いつでも、どこでも、自分の好きな時間に映像を楽しむ動きは着実に増大し、そのために企業の広告費用がインターネットに流れ、その結果として、既存メディアの収益基盤が揺らいでいる。

新聞社も雑誌社もテレビ局も、この地盤沈下に対してどのように対処し、生き残っていくか、これからの大きな課題である。新聞社がGoogle(グーグル)とタイアップしたり、Viacom(バイアコム)がJoostとタイアップしたりする動きは業界の変化を物語っている。


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/99