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米国新鋭格安エアラインがYouTubeで”ごめんなさい”

(記事要約)
2007年2月14日アメリカ東海岸を襲った大雪は、史上まれに見るフライト遅延およびキャンセルを引き起こし、多くの旅客が足止めをくらった。

中でも米国最大手の格安エアラインで知られるジェットブルー航空は、その後一週間に渡っておよそ1200のフライトをキャンセル。あるフライトでは乗客を11時間機内に閉じ込めたまま立ち往生したため、とりわけメディアの集中砲火をあびた。
 
この非常事態に応じて同社は19日、「利用客権利規定(Customer Bill of Rights)」を発表。デイヴィッド・ニールマンCEOがYouTubeで謝罪のメッセージを伝えるとともに、遅延、キャンセルの際の返金規定を明言した。

同社の迅速な対応はカスタマー・サービスのハードルを上げ、競合する航空会社に追随のプレッシャーとコスト増の懸念を与えたと見られている。
(2007/3/2/ロイター通信ほか複数のニュース参照)


●デイヴィッド・ニールマンCEOの謝罪のメッセージ

(解説)

「イラクからの撤兵が遅れるって?きっとジェットブルーで飛んでくるんだろう」。バラエティ番組では、しばらくそんなジョークが飛びかった。

バレンタイン・デイの寒波に伴う運航の麻痺は、すべてのエアラインに共通した問題だった。しかし、フライト中止の数の多さや長時間閉じ込められた乗客の姿を全米で報道されたジェットブルーは、あたかも乱れたフライトの象徴となってしまったのだ。
 
ジェットブルーは2000年より就航を開始した新鋭の格安エアライン。ニューヨークJFK空港を拠点に主要都市を結び、シカゴへ49ドル、ロサンゼルスへ159ドルなどの他社を上回る低価格フライトを提供する。

「いつでもファーストクラス」をスローガンに、国内線でも各座席に衛星テレビ、無料スナック、従業員の丁寧な対応など、カスタマー・サービスのレベルの高さにも定評がある。
 
加えて同社はオンライン・ブッキングとEチケット(搭乗券はスーパーのレシート並)を徹底。フライトは利用客の多い主要都市間に絞りつつも、混雑した空港を避け第二の空港をハブにする(ロサンゼルスはロングビーチ、マイアミはフォート・ローダーデール)など、経営効率化もあって、就航2年目で黒字を記録。

とりわけ同時多発テロ以降、軒並み他航空会社が経営不振に陥る中、順調に売り上げを伸ばし、2004年には年商10億ドル(1200億円)を突破してメジャー・エアラインの仲間入りを果たした。

そんな明るいジェットブルーに、2月14日だけで279件のフライト・キャンセルが集中する。行き先を失った乗客が溢れる同社ターミナルのニュース映像が流れる。「効率経営ついに破たん?」と疑いの声が高まる。

デイヴィッド・ニールマンCEOはYouTubeのメッセージに加え、朝のワイドショー、夜のトーク・ショーにもゲスト出演し、謝罪を繰り返した。そのコメントが潔かった。

素直にオペレーションのミスを認め、大雪の経験不足など原因を明示、今後の企業努力を誓い、無料のフライト変更もしくは返金を約束した。また「本件は経営側の責任、従業員の解雇は一切しない」とブルーカラーを気遣うようなコメントもした。
 
日本航空や全日空なら同じ謝罪をしたかもしれない。しかしアメリカのエアラインはもっとドライだ。フライトの遅延、キャンセルは日常茶飯事。まともに返金などしていたら大変なロスになる。

ちなみにニールマンCEOは、NBC局のインタビュアーに詰問され、今回の運航麻痺で2000?3000万ドルの損失を見込んでいるとほのめかした。
 
ジェットブルーの株価(ナスダックJBLU)は2月14日13.23ドルから3月2日には11.91ドルまで落ち込むが、アナリストは「運航混乱の余波は短期間で終息する」と楽観視しているようだ。

Business Week(1929年創刊ビジネス誌)のオンライン投票では、約80%が「それでもジェットブルーをカスタマー・サービスの王者と認める」に投票している。これは同社の謝罪が好意的に受け取られた結果といえる。
 
ジェットブルー航空、過去の事件では、2005年9月21日の「ロサンゼルス空港緊急着陸事件」が記憶に新しい。バーバンクを離陸したエアバスA320型機の前輪に異常が発生。3時間ロス上空を旋回した後、後部車輪のみでの着陸を敢行。破損した前輪が炎上するも乗客は全員無事。その模様は全米で生中継された。

メインテナンスの不備を責めるべきか、見事着陸させたパイロットのテクニックを褒めるべきか微妙なケースだったが、その後同社に目立ったダメージを与えることはなかった。
 
なにを隠そう私はバレンタイン・デイの夜JFK空港に足止めをくらったその一人。夜9時25分発ピッツバーグ行きのフライトは直前になってキャンセル。その後チェックインした荷物がベルトコンベアーに戻って来たのは、あろうことか朝の4時だった。さすがにこのときばかりはジェットブルーを選んだことを後悔した。

しかし、従業員は声をからして怒り狂う利用客をなだめていた。特に横柄な開き直りもなく、むしろ「不測の事態に彼らもきっと大変なのだ」という印象を覚えた。

ファーストクラスを廃し、すべての乗客に平等な対応、多チャンネルの衛星テレビ、それに機内で配られる紫色のポテトチップスは捨てがたい。マーケティング上手のジェットブルーをまた懲りずに利用するつもりだ。


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