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企業買収に潜むリスク M&A先進国米国での失敗事例(AT&T)

三角合併が解禁された2007年5月。制度的にはクロスボーダーな合併がしやすくなり、時価総額の高い外国企業が、時価総額の低い日本企業を、実質的には株式交換のような形で吸収してしまうことが可能になった。

実際は、会計基準がまだ異なる点や、日本企業の抱えるリスクを完全に洗い出すのが難しいことから、急激に外国企業による敵対的買収が増えることはないと考えられている。

だが、日本経済を取り巻く環境は、グローバリズムの波に飲み込まれようとしているため、早急に、買収防衛策などを講じる必要がある。

懸念されているのが、外国企業と日本企業の株式時価総額の違いだ。日本の商慣行は欧米とは異なるため、企業価値の指標のひとつである時価総額拡大の経営方針をとってきた企業は少なかった。

それゆえに、日本の企業は、少なくとも価値に見合った時価総額拡大を目指す努力が必要となる。そこで、有力な選択肢の1つとなるのが、事業再構築や攻めの経営実現に向けたM&Aの積極的活用だ。

M&Aと聞くと、企業が努力して築き上げてきた事業や技術、業界のノウハウなどを、お金の力で横取りしてしまうようなイメージを抱く方が多いかもしれない。

が、ここ最近はだいぶ見直され、企業が成長していくための効率的な方法として、好意的に受け止められるようになった。理由としては、以下のようなものが挙げられる。

【理由1】
起業したばかりの会社が、既に市場で一定の評価と信頼を得ている企業と合併してしまえば、コアコンピタンス(本来的な業務)に専念できる環境の整備までに短い時間でたどり着ける。

【理由2】
経営リスクを分散させるために、事業の多角化を図る目的で新規事業に乗り出す際、0から立ち上げるより既存の企業を買収した方が、リスクコントロールしやすい。

【理由3】
規模が大きくなるので、会社としての信用が増し、資金調達がしやすくなる。

M&Aをうまく活用すれば、企業はスピーディーに時価総額を上げることができる。今後、日本企業同士のM&A(業界再編)は、増加していくといわれている。

ところが逆に、一歩間違えれば時価総額の低下を招くことだってあるのだ。
M&A先進国である米国での失敗事例を見てみよう。


─経営のプロであるCEOが、M&Aの失敗で失脚─

M&Aの失敗例でよく聞くのが、AT&Tマイケル・アームストロングCEOの話だ。

1998年2月、同社会長兼CEOに就任したマイケル・アームストロング氏は、CATV網を利用した、長年の夢だった「市内電話」への参入を目指し、大胆なリストラを断行。その後、市内電話網への参入や、国際電話市場の企業と大型提携を行った。

さらに同社は、企業買収に動き出し、1998年6月にはケーブル・テレビの最大手企業を買収。その後も、CATV業界第3位の企業が、同4位の企業を買収しようとすれば、AT&Tがさらに高い条件を提示し横取りする形で買収。強力な事業基盤を築き上げることに成功したかのように見えた。

そうして多額の資金を投じたにも関わらず、当時のCATVのネットワーク品質と技術では、残念ながら競争力ある市内電話サービスは提供できなかった。それをリカバリーするため、ネットワークのアップグレードにさらに巨額の資金を投入するという泥沼状態に入り、通信業界の巨人“AT&T”は企業体力を消耗させていった。

折り悪く、2000年春には、米国株式市場はハイテク株を中心に大暴落に見舞われ、そのまま不況へと突入。こうして通信業界の巨人“AT&T”は、リーディングカンパニーの座から滑り落ちてしまうこととなった。もちろん同CEOは左遷されたという…

M&Aは経営戦略のひとつに過ぎない。方向を間違えれば、このように企業価値を損なうことにも繋がる。今後、外国企業の日本進出が本格化する前に、日本の企業間において、M&Aのノウハウの蓄積と共有をしっかり行ってほしい。



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