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2007年ルル・ブルッカー賞発表:欧米で注目されるブログ本とは?

ブログのコンテンツを書籍化したブログ本は、英語で「ブルック(blook)」と呼ばれている。blogとbookを合わせてblookだ。オックスフォード英語辞典も、「ブルック」を新語として掲載する候補に挙げている。

去る5月14日、そのブルックから優秀作品を選ぶ「Lulu Blooker Prize 2007(2007年ルル・ブルッカー賞)」が発表された。賞を主催するのは、国際的にデジタル・コンテンツの自費出版をサポートするLulu.com(http://www.lulu.com/  米国ノース・キャロライナ州本社)。2006年に始まり、今年で第二回目を迎える。

2007年ルル・ブルッカー賞のウェブサイト
http://lulublookerprize.typepad.com/

同賞はLulu.comから出版があるなしにかかわらず、世界中の英語のブログ本を対象とする。2007年の候補は15カ国から出典された110作品。5名の審査員はデジタル・コンテンツに明るいライター、クリエーター、昨年の最優秀賞受賞者といった面々だ。

以下、ブルッカー賞の受賞作品を挙げてみたい。

2007年最優秀作品/ノンフィクション優秀作品:賞金10,000ドル
  MY WAR: KILLING TIME IN IRAQ / COLBY BUZZELL
 (僕の戦争:イラクで暇つぶし/コルビー・バゼル著)

           



カリフォルニア州出身の元米兵が、歩兵としてイラクに派遣された2004年戦場から日々の体験を綴ったブログを書籍化。戦場における悲惨な状況が、若者らしいポップな口調で描かれている。駐屯地のインターネット・カフェで暇な時にアップロードしたとのことだ。

そのブログは8週間後、米軍の指導でシャットダウンされた。しかしそれまでに米国メディアはこの米兵ブロガーに注目(作者バゼルは、2004年エスクァイアー誌「アメリカのベスト&ブライテスト」リストにも選ばれる)。2005年バゼルが兵役を終えると、書籍化の話がまとまり、その年の10月出版となった。

元になったブログには10万以上のアクセスが記録されている。書籍に関して出版社(Penguin Group)いわく国民的ベストセラーというが、発行部数に関しては回答得られず。

元になったブログ:
http://www.cbftw.blogspot.com/


2007年フィクション優秀作品:賞金2,500ドル
  THE DOORBELLS OF FLORENCE / ANDREW LOSOWSKY
 (フローレンスのドアベル/アンドリュー・ロソースキー著)

スペイン、マドリッド在住の英国人ジャーナリストによる作品。36のドアベルの写真に、「その住人にはこんなエピソードがあった」という設定で、短編小説的エピソードを付け加えている。

元のコンテンツは、写真をシェアするフリッカー(http://www.flickr.com/)で発表され、累計アクセス数は20,500 件(2007年5月、本人申告)。ただし書籍の方はLulu.comから2006年末自費出版されたばかりで、まだ50部程度しか売れていないとのこと。

元になったブログ:
http://www.flickr.com/photos/andrewlos/


2007年コミック優秀作品:賞金2,500ドル
  MOM’S CANCER / BRIAN FIES
  (母さんのガン/ブライアン・フィーズ著)

カリフォルニア州サンタ・ローザ在住の漫画家、ジャーナリストによる作品。2004年、肺ガンにかかった母の闘病生活を綴ったウェブコミックが、口コミで評判となり、2005年米国アイズナー賞(マンガ業界の賞)に新設された最優秀デジタル・コミック賞を受賞。

元のコンテンツを掲載したウェブサイトは、話題になった2005年当時1日15,000件程度のアクセスがあった(本人申告)。2006年3月に出版された書籍は30,000部発行されている。

元になったウェブサイト(出版社との関係でコミック本編は削除):
http://www.momscancer.com/


ちなみに2006年、第一回ブルッカー賞の最優秀作品は以下の通り:

2006年最優秀作品/ノンフィクション優秀作品:賞金2,000ドル
  Julie and Julia: 365 Days, 524 Recipes, 1 Tiny Apartment Kitchen /
  Julie  Powell

 (ジュリーとジュリア:365日、524のレシピ、ちっぽけなアパートのキッチン/ジュリア・パウエル著)

ニューヨーク州ロング・アイランド・シティ在住の30代OLによる作品。「アメリカ料理界の母」と呼ばれる伝説的料理研究家ジュリア・チャイルドの料理本(Mastering the Art of French Cooking)に書かれた全レシピを1年ですべて作ってしまおうという、シンプルかつ根気の要る企画。

2002年8月から翌年8月にかけて、その様子をブログに掲載。これが評判となり2005年9月に書籍化。当時。初のブログ本大賞受賞作として話題を呼ぶ。

元になったウェブサイト(2003年8月終了):
http://blogs.salon.com/0001399/

いずれの受賞作も、企画のユニークさが評価されているあたりは、日本と変わりない。「イラク戦争」「母親のガン」といった、特別な経験を日記風に綴ったもの、珍しい写真に物語をつけたもの、本のレシピを丸ごと実行という楽しげながら根気のいる作業をしたもの、それらが手軽にブログとして公表されたところで、評判を呼び書籍化に至っている。

マーケティング的にはまだまだとも言えるブログ本に、ブルックあるいはブルッカー(ブログ本作者)という名の下で賞を与える意義について、主催のルル社はこう説明している。

「ルル・ブルッカー賞は、自費出版の技術とサービスにおけるプロバイダーとして急成長する(そしてウェブ・コンテンツを最も簡単にブルックにする場所である)Lulu.comのスタッフが考案したものだ。同社は、ブログやウェブサイトを使って質の高いコンテンツを展開する才能あるライターたちが増えていることを、より世間に認知させるべく取り組んでいる」。

同社はすでに80カ国以上から寄せられた17万点以上のデジタル・コンテンツ(書籍、カレンダー、アートワーク、音楽、ビデオ)を扱っているとのこと。コンテンツは毎週5,000のペースで増えているという。

デジタル・コンテンツを公開する際、フォーマット作成、デザイン、マーケティングについては、サービス料(通常数百ドルから)がかかる。さらにディストリビューション・サービスを利用した場合、売り上げの20%はLulu.comの手数料となる。Lulu.comにしてみれば、制作宣伝費、販売手数料と2度にわたってビジネス・チャンスがある。

どのようなブログ本がヒットするか? それは通常の書籍と同じく、面白くて大衆の支持を集めた者が勝つとしかいいようがない。しかしながら注目すべきは、Lulu.comのような自費出版ビジネスである。誰もが思いついたらインターネットを通じて、短期間、しかも世界で出版できる。そのビジネスモデルを確立しつつあるLulu.comの動きには、今後も注目したい。


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