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元祖サイバー物乞いから、インターネット・スーパースターへ

昨年、日本で出版された「買い物おバカ日記」(文藝春秋刊、カリン・ボスナック著)を読んだ人は、仰天したと思う。

この本は、シカゴ生まれのTVプロデューサーのボスナックさんが、20代終りに刺激を求めニューヨークに移り住み、買い物癖と浪費で2万ドル以上のクレジット・カード借金を負ったあげくに失業し、インターネットで物乞いをして1年8ヶ月で借金を返済したという体験談だ。

失業する前は、ニューヨーク市でもTVプロデューサーとして働き、6桁の年収(1千万円以上)を稼いでいたのに、2000年6月の引越しから2001年7月までに2万5000ドル近いクレジット・カードの借金を負ってしまった。

借金整理サービスを使ってクレジッド・カード会社の利率を下げ、借金の返済を続けたものの、レイオフされて後は2万ドルの借金返済の見通しが立たなくなった。その時にボスナックさんが頼ったのは親でも友人でもなく、他人だった。


■元祖サイバー物乞い

2002年2月、ボスナックさんは、クレイグズ・リストに「私はカリン。私は本当に良い人間なのだけど、あなたの助けが必要なの。クレジット・カード会社に2万ドル返さなければならないの。もし2万人が私に1ドルくれたら、あるいは1万人が2ドルくれたら、4千人が5ドルくれたら…。わかるでしょ? 1ドルでも、2ドルでも送ってくれたら、一緒に私の生活を取り戻せるわ!」というメッセージを載せて、インターネット物乞いを開始した。

クレイグズ・リストからはすぐに不適切な内容ということで削除されたが、批判や興味本位、あるいは本当に何ドルか送るというEメールが届いた。そこで、ボスナックさんは、自分で「カリンを救え(http://www.savekaryn-originalsite.com/)」というウェブサイトを立ち上げ、背景説明から負債の内訳、返済状況のアップデイトを載せはじめた。

借金の元はといえば、高級アパートの家賃や家具への支払い、高級デパートで買いまくった服飾品、月に900ドルもするエクササイズ・ジム費用、1回400ドルの美容院代、タクシー通勤といった出費である。その返済を他人に頼るという恥を知らぬ大胆なアイディアは全米の話題を呼んだ。

CNNやNBCのトゥデイショーで取り上げられたり、「Don’t Save Karyn」というパロディー・ウェブサイトまで登場した。

しかし「カリンを救え!」には、最終的に2718人から合計13,323.08ドルの寄付が寄せられ、ボスナックさん自身の返済金額やボスナックさんがeBayで販売した服飾品等の売り上げにより、20週間で目標の2万ドルを完済することができた。


■物乞いか、エンターテイメントか?

「カリンを救え」の登場後、インターネット上で不特定多数の人々から寄付を募る個人のウェブサイトが数多く現れた。

医療費や学費の支払い、映画制作費用の支援といった切実なものから、豊胸手術代やデート代が欲しいといったものまで様々だ。一時は活発にアップデイトされていたが、ほとんどは途中で消え去ってしまった。

では「カリンを救え」がなぜ成功したのだろうか? 自分の借金を他人に頼るという大胆さが話題を呼んだことは確かだ。NBCのトゥデイショーを始め、いくつかのテレビでインタビューされたために、ノベルティが高まった。

また、「カリンを救え」で負債を抱えるまでの経緯を詳細に説明したり、目標額を具体的に設定して、頻繁に進捗をアップデイトしたりしたことで、寄付した側もボスナックさんとのつながりを感じることができたのかもしれない。

さらにこのウェブサイトには、物品販売や小銭節約日記、毎週のEメール手紙など、率直でユーモラスな内容が盛り込まれており、エンターテイメント性が高かったとも言える。

同ウェブサイトは、200万回以上、訪問され、3万7000のメールが寄せられた。


■物乞いからマルチ・クリエイターへ

ボスナックさんは借金返済にとどまらず、その過程を資本として次の段階に進んだ。これまでの体験談をSave Karynという本にして、出版したのである。この本は、昨年日本でも翻訳版(買い物おバカ日記)が出版されたが、英国、オーストラリアでの出版はもちろん、韓国語、ドイツ語、中国語、オランダ語、タイ語、ロシア語、クロアチア語にも翻訳された。出版による収入から2万ドルを慈善団体に寄付している。

さらに2003年にはソニー・ピクチャーズの子会社と、「カリンを救え」の映画化契約を結んだ(まだ映画は完成していない)。ボスナックさんはその後、20 Times a Ladyという小説を発表。今年3月にはインターネット・スーパースターの40人の一人として、ケーブル・チャンネルのVh1に登場している。

2007年3月放送 40グレーティスト・インターネット・スーパースターに登場するカリン・ボスナックさん


「カレンを救え」ウェブサイト http://www.savekaryn.com


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