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アメリカ嫌いの誇り高きカナダ人

(概要)

“Happy Canada Day!” 7月1日はカナダの建国記念日にあたる『カナダ・デー』。全国津々浦々から一日中このフレーズが聞こえていた。

メープルリーフ・フラッグを持った人々で朝早くから一日中お祭り騒ぎ。パンケーキ・ブレックファーストから始まり、マラソン大会、ミュージックフェスティバル、ロブスターバーベキューとつきることないイベントの最後は大きな花火を打ち上げて、140歳の誕生日を祝った。

この日は移民者にとっても特別な日。全国各地で市民権授与式が行われ、多くの移民者が新たに『カナディアン』としての第1歩を踏み出した。

海の向こうアフガニスタンでも、カナダ兵士達がメープルフラッグを振ってカナダ・デーを祝っていた。

(2007年7月1日 CBC:カナダ3大ネットワークのひとつ。カナダで最も長い歴史を持つ、カナダのいわばNHKのような存在)

 

(解説)

この日は、カナダ人としての誇りを再確認する大切な1日。国旗を手にする人々の顔には笑顔が弾けていた。


◆カナダとは?

一体カナダとはどんな国なのだろうか。総面積約990万平方キロメートル、日本の約27倍を誇る世界第2位の広大な国土に、約3200万人が暮らす民主主義国家である。

公用語は英語とフランス語。多文化主義という独特の政策を取り入れ、積極的に移民者を受け入れる移民の国。総人口の約5分の1が移民者だ。

国民性は非常におおらかで、そのためか日本に比べてゆっくりと時間が流れているように感じる。

カナダ国民が唯一熱狂するものといえば国技アイスホッケーくらいだ。その熱狂ぶりが爆発したのが、2002年ソルトレイクシティ冬季オリンピックでのアイスホッケー カナダ代表男女アベック金メダル。バンクーバーでも一日中クラクションが鳴り響き、メープルフラッグがはためいていた。




 
◆アメリカ・アレルギー

この金メダル、単にカナダが世界一になったからだけではない。両者とも『アメリカ』を下してというところに、カナダ人の感情が爆発したのだ。

俗に言えば『アメリカ嫌い』。カナダにはかなり根強いアメリカ・アレルギーがある。ソルトレイク五輪の金メダルは、そのわかりやすい現象に過ぎない。

この国民感情は国政をも動かした。2001年のアメリカ同時多発テロをきっかけにアメリカは一気に戦争モードに突入した。ブッシュ大統領は2003年イラクへの侵攻に向け各国に賛同を求めた。もちろんカナダにも派遣要請があった。しかし当時の自由党クレティエン首相は、『ノー』を突きつけた。イラクへの派兵要請を断ったのである。

カナダは2002年からアフガニスタンに軍隊を送っている。さらに『アメリカの言いなり』になることを嫌う国民感情を考慮した感は否めない。もちろんそれだけが政治的決断材料ではなかったにしてもである。


◆カナダ人としての誇り

同じ北米大陸にあって、言語も同じで、容姿も同じ。全長8900キロという世界最長の国境線を、世界最強国と接しているカナダにとって、『アメリカと違う』ことを強調することで、カナダ人としてのアイデンティティを示しているようである。『アメリカみたいだ』と言われることをカナダ人は最も嫌う。

先日MLBオールスター戦を見ていておもしろいことに気がついた。

この試合に出場していたミネソタ・ツインズのスラッガー、2006年アメリカン・リーグのMVPジャスティン・モノー選手はバンクーバー(ニューウエストミンスター市)出身。

国歌斉唱の時、ずらりと並ぶメジャーリーガー達が胸に手をあて国歌を聴いている中、彼一人後ろに腕を組んでカナダ国歌を聴いていた。何気ない動作だが、カナダでは胸に手を当てて、国歌を聴くという習慣がない。星条旗に忠誠を誓うアメリカとはその辺も違う。それを一人実践していた彼にカナダ人らしさを見た気がした。

それはさておき、だからといって、すべてがアメリカに反対ではないし、アメリカに依存しているところも多い。それゆえに『カナダ人としての誇り』が必要なのだ。

カナダという国は、人権保護と平和維持活動という政治的骨格を成す縦糸と横糸の織物に、パッチワークの布切れのように世界各国からの移民者と多種多様な文化が、一見なんの法則性もなく無造作に並んでいる。しかし、大きく広げて見ると、この一枚の布は美しい模様をなして『カナダ』を作り上げている、そんな国だ。モザイク文化国家と言われる由縁である。

カナダ人には驚くほど、人種的偏見がない。カナダ政府は毎年総人口の0.7から0.8パーセントを移民として受け入れている。市民権・移民省の発表によると、2006年にカナダに移民した総数は259,267人。毎年これだけの人が自国の文化を持ってカナダに移住する。この国にはそれを受け入れる大きな受け皿があるのだ。これはカナダ人がカナダとして誇るところである。


◆世界平和維持活動への貢献

そしてもう一つカナダが誇りとしているのが、世界平和維持活動への貢献だ。カナダはアフガニスタン南部に約2500人の兵士を常時派遣し、これまで約14,500人がアフガニスタンの情勢安定のために活動してきた。そんな中、今月15日現在で66人の兵士と1外交官が命を落としている。

言ってみれば、アメリカの仕掛けた戦争の後始末のために、これだけのカナダ人兵士がすでに犠牲になっているのである。しかし、ハーパー首相は2009年2月の期限まで軍を撤退することはないと断言している。これには国内でも賛否両論ある。ただ確実に言えることは、カナダ人はこうした平和維持活動への参加を誇りに思っているということだ。

日本では5月、国民投票法案が成立したという。このニュースを聞いた時、すぐに改憲、憲法第9条、自衛隊の平和維持活動への積極参加という図式が頭に浮かんだ。果たして我々日本国民はこれほどまでの犠牲を出してまで、平和維持活動を積極的に支援する覚悟があるだろうかと思ってみたりする。

7月1日、アフガニスタン・カンダハールからカナダ軍兵士達のビデオレターが流れていた。メープルフラッグを振りながら、 “Happy Birthday Canada”と言う笑顔の後ろでは、やっぱりホッケー(この場合は陸上ホッケーだが)を楽しんでいる兵士達の束の間の休日が映し出されていた。空には相変わらず戦闘機が飛んでいた。

そして思ってみる。私たち日本人は、こんなにも大きな声で日本を日本人であることを誇らしく叫べるだろうか。

“Proudly Canadian”、数年前にカナダ政府が積極的に使用していたこの言葉が、ニュースを見ながら頭の中でリフレインしていた。大きく胸を張って、そういえるカナダ人がちょっぴりうらやましく思えた1日だった。

 


■関連情報

○カナダペンギンは鋼鉄鮭の夢を見るか?
 「カナダ人の主張 ─Molson Canadianの昔のCMより」2007-05-27 
http://blog.cpcafe.com/archives/3333


○志摩夕美のおもしろカナダライフ  
 「カナダ人ってどんな人たち?」 2002/01/10
http://www.omoshirocanada.com/essay6.html


○カナダの誘惑
 「カナダ・デー2」 2007-06-19
http://jeetko.seesaa.net/article/45266571.html


○カナダの誘惑
 「カナダ・デー4」 2007-06-28
http://jeetko.seesaa.net/article/46075123.html


○in Canadian Rockies
 「Happy Canada Day」2007-07-02
http://incanadianrockies.weblogs.jp/in_canadian_rockies/2007/07/happy_canada_da.html 


○ワーキングホリデー通信 ─現地から
 「ジャズの音色が響く街」 2007-06-26
http://workingholiday-net.com/magazine/blog/article/200706261875.html


○Keiko’s Blog
 「Happy Canada Day!」
http://keikocanada.livedoor.biz/archives/50913980.html


○つぶ庵:ノンフィクション 「だから、あなたも負けないで」2007-04-10
http://tsubuan.livedoor.biz/archives/cat_50032383.html


○いいたい砲台 Grosse Valley Note
 「アイスホッケーとオリンピック」 2006/01/18
http://blog.so-net.ne.jp/ORCH/2006-01-17-1


○田中直毅
 「国際統治の枠組みづくり」 2004/10/29
http://www.21ppi.org/japanese/hitokoto/tanaka191.html

 

 


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