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NO STYLE広告論 デザインバーコードの挑戦

デザインバーコードをご存知だろうか。2年くらい前から、一部の菓子や飲料などでチラホラ見かけるようになった。簡単に言えば、商品に入っているバーコードの縦線を、滝や雨、ビルやラーメンなどに見立て、その周りに図柄(傘や箸)を描き足すことで、バーコードそのものをひとつの絵に見せてしまうものである。

もちろん、読み取り機で100%読み取れる。もし、ご覧になったことがなければ、とりあえず下記アドレスのサンプルを見て頂けると、一目でどういうものかおわかり頂けると思う。(http://www.d-barcode.com/barcode/barcode_products.html#)

いまさら言うのも何なのだが、画期的なアイデアである。「バーコードが絵になった」だけと言われればそうなのだが、これがなかなか思いつけるものではない。実際にうまくいくかを試して流通させるのはもっと難しい。

なぜなら、バーコードが開発されて約30年。いまでは世界中の商品に入っているわけだが、だれもそんなことは思いつかなかったし、やってみなかったのがなによりの証拠で、私たちはいつの間にか「バーコードとはこういうもの」という先入観に支配されてしまっていたのだ。バーコードとデザインバーコードの間には、“ジャンプ”がある。

「商品管理用のツール」を、「自由なデザインの場」に変えたところも象徴的で(もちろんバーコードのルールは守りながらだが)、デザインバーコードは、昨年のカンヌ広告祭のチタニウムライオン(今後の広告の新しい可能性を示唆したものに与えられる)を受賞している。これはグランプリに当たる賞で、各国の審査員が絶賛、ほぼ満場一致で決まったという。同部門の審査員長、デビッド・ルーバスは次のように述べたほどだ。

「デザインバーコードが審査会で出てきたときは、審査員一同興奮しましたね。新しい発想が世界を動かすのだと実感しました。その後の審査は、デザインバーコードをひとつの評価基準にして進められたんですから」(「広告批評」2006年11月号より)

このアイデアを思いつき、特許申請して現在もビジネス展開しているのは、その名もデザインバーコード社。と言っても、バーコードを専門に扱う業者ではない。クライアントの抱える様々な問題をコア・アイデアの力で突破すべく活動している、クリエイティブ・エージェンシーである。そんな彼らが昨年末より始めた試みの第二弾が、広告アイデアの通販サイト「オシウリ」だ。

これも、ご覧頂くのが何よりも早い。(http://www.d-barcode.com/#)「広告アイデアの通販」「オシウリ」というネーミングからイメージできるように、簡単に言うと、日常生活の中でのちょっとした“発見”(しかし、誰も気付かなかったもの)で、特定の商品のプロモーションに生かせそうなアイデアをサイトで公開、それを企業(ほとんど名指し)に提案して買ってもらおうという試みなのである。

現在、42のアイデアがアップされている。「ケータイの覗き見防止シールをブラインドの広告に活用(横からのぞき見たときに広告が現れる)」「トイレットペーパーをレコードに見立てて、クラブに置く(ZIMAのPOPとして活用)」など様々。「200,000円」から「1000,000円」までの企画料は、彼らが自らつけたもので、高いものほど、自信があるということになるだろう。

なかにはアイデア自体が面白そうでも、実施は難しいのではないかと思わせるものもある。売れたアイデアには「sold out」のタグがつくのだが、見たところ、どうやらまだひとつしか売れていないようだ。ビジネス的な面で言うと、「オシウリ」はいまのところ成功しているとは言い難いが、アイデアを説明(プレゼン)するために、わざわざポスターや小道具を作り、掲出風景や使用シーンの写真を撮っていて、見ているだけで面白い。

サイトそのものの着想が、思いつきそうで思いつかない“アイデア”なのだ。「オシウリ」は、デザインバーコード社のサイトのトップにあるのだが、彼らのアイデア・ファーストの考え方をアピールする、“企業広告”的意味合いもあるのだろう。日々コア・アイデアを探している、デザインバーコード社の“筋トレ”なのかもしれない。
(今月末から、exciteのコンテンツとして移行し、誰でもアイデアを投稿できるようになるという。新しい展開にも期待したい)

そんなデザインバーコード社の最新のチャレンジが、「TOKYO LEFTEOUS PROJECT ON 13TH AUG.」だ。イギリスの団体、Left -Handers Clubが制定した「左利きの日」(8月13日)に行われた。

一説によると、左利きの人は人口の約10%存在するそうで、これが正しいなら、実際には結構な数の左利きの人が存在する。しかし、社会慣習や日常使用する機器の仕組み、デザインなど、世の中は「右利き」中心に動いている。それはなぜか? なぜ「right」は「右」であり「正しい」のか? との疑問から、この日は一度「左利きのキモチになってみよう」ということで立ち上がったプロジェクトである。

このプロジェクトも、実にデザインバーコードらしいものだった。大がかりなイベントを行ったわけではない。CMはもちろん、ポスターやグッズを作ったわけでもない。やったことと言えばただひとつ。都内4箇所の飲食店に13日限定ということで協力を呼びかけ、箸を左右逆に置いてもらっただけ(写真)。





右利きの人が日頃箸を持つ部分が、このときは左にくる。それだけで結構違和感が生じることは、ご想像いただけるだろう。「!」と思って箸袋を見ると、裏にメッセージが書かれている。「イライラしましたか。実は左利きの人は毎日そんな気分なのです」。(http://www.d-barcode.com/lefteous/index.html

「デザインバーコード」にせよ、「オシウリ」にせよ、「TOKYO LEFTEOUS PROJECT 」にせよ、先入観のために誰もが気付かなかった盲点をつくことで、人に新たな発見をうながす。

デザインバーコードが一貫してこだわってきたのは、こういった“コア・アイデア”(クリエイティブというものともまたちょっと違う)だ。形(メディア)に合わせた表現を探っているわけではない。街メディアやインターネットなど、新しいメディアを開発したり、ブログのように新しく生まれた場所の活用法を考えているわけではない。

人のものの見方をガラリと変える、コアでピュアなアイデアを追求している。そのために、デザインバーコード社は、限りなく広告から遠く、それでいて限りなく近い場所にいる、希有な広告会社と言っていいだろう。

 

【関連情報】

○メール人語 『うなぎのかばやき味』なデザインバーコード 2007/05/12
http://blog.itoy.jp/archives/20070512_0112.php


○シブヤ経済新聞 2007/02/01
 エキサイト、「デザインバーコード社」と資本・業務提携
http://www.shibukei.com/headline/4027/index.html


○【Webマーケティング:注目記事】 2007/02/02
 エキサイトが、 『デザインバーコード社』と資本・業務提携(広告会議)
http://www.e-research.biz/statistics/sta_13/000586.html


○エキサイト ウェブアド タイムス 2006/10/24
 広告の革命児「デザインバーコード」の次の一手とは
http://www.excite.co.jp/webad/special/rid_75/


○エキサイト ウェブアド タイムス 2006/11/01
 デザインバーコードのアイデア通販サイト「オシウリ」がスタート
http://www.excite.co.jp/webad/news/rid_83/


○POP*POP 「広告のアイデアを通販する前代未聞のサイト」2006/11/21
http://www.popxpop.com/archives/2006/11/post_27.html


○GIGAZINE 「デザインバーコードいろいろ」 2006/06/29
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20060629_design_barcode/


○のらゴコロ 「バーコード革命」 2006/03/05
http://noragokoro.exblog.jp/3615154/


○オヤジライター、かく語りき。「デザインバーコード」 2005/07/27
http://tokimaru.livedoor.biz/archives/50041245.html


○ブランドって何だぁ? 「デザインバーコード」 2006/06/25
http://yoichi.typepad.jp/blog/2006/06/post_56b8.html


○FYI 「デザインバーコード」 2006/10/31
http://www.catchallinteractive.com/blog/2006/10/post_4.html


○広告ブログ:Just do it.
 「デザインバーコード with 男前豆腐店」2006/03/19
http://justhyodoit.jugem.jp/?eid=27


○版元ドットコム 「東京のかぞえかた」(吉田稔)
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-7958-2313-6.html


○絵本に感すること 「東京の数字(東京のかぞえかた)」2006/09/10
http://lionni.blog42.fc2.com/blog-entry-171.html


○パセリ栽培日誌** 「東京のかぞえかた」 2005/09/08
http://blog.so-net.ne.jp/paserin/2005-09-08-1

 

 


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