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NO STYLE広告論 COMMUNICATION IS PASSION Part2─ ブログのクリエイティブ?

いささか大げさな感じのタイトル・内容になりつつある気がして恐縮だ。しかし、ブログ(CGM)はマーケティング的な視点から語られることが多く、“クリエイティブ”として論じられることがまだ少ないのではないか? というのが、前回と今回の執筆動機となっている。前人未到(?)の“ブログ広告批評”へのチャレンジとお考え頂きたい。

前回は、ある新聞記事を読んで気になったことを書いた。ブロガーに報酬を与えて、自社商品についてコメントしてもらう“偽クチコミ”が増えているらしい。“広告主”と“広告制作者(ブロガー)”を仲介する代理店サイトも続々登場しているという。

広告に見えない広告。ブログの背後に隠れた“スポンサー”の是非を問う内容だった。「広告であることを隠すな!」というわけだが、その背後に「市民が自発的にメッセージを発信できるツール、つまり“聖域”であるブログに、コマーシャリズムをもちこむな」という気分も若干読み取れなくもない論調だった。

もっともな意見だと思う。前回の原稿の掲載後、メディアサボール 編集部から教えて頂いた情報によると、いまや「女性の半数がブログを参考に商品を買う時代(男性は4割)」(http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070725_blog_purchase/)であり、今後のことを考えても「世界のCGM市場は2011年に82億ドルに達する」(http://adinnovator.typepad.com/ad_innovator/2007/06/cgm201143.html)とのことである。ブログブームは、今後の「広告」の在り方を大きく変える可能性を秘めている。

成熟した市場社会に生きる現代人は、マス広告の一方的な呼びかけなんかより、消費者のリアルな声に耳を傾け、それらを自分なりに分析してよりいい商品を判断している。そして、そのほうが賢いやり方なのではないかと、いよいよ本格的に考えるようになっている。

ブログはその際の情報収集に欠かせないし、インターネットという“メディア”は、その意味で「21世紀的」なのだ。「真実」だと信じて読んでいたブログのコメントが、実は企業の「売り文句」だとわかれば、ほとんどの人が騙されたと感じるだろう。

しかし、この件で私が考えさせられたのはもう少し別のこと。“本当のブログ”と“スポンサー付きブログ”のあいだには、実は本質的な部分で変わらないところがある。そのブログを読んで商品がほしくなるか、あるいは商品名を覚えるかどうかは、結局書き手のスキル(きちんと書けているか。コメントに説得力があるか)に大きく左右されるところだ。スポンサーがいてもいなくても、コメントに説得力(真実味)がないと、読み手の共感は得られず、メッセージは素通りすることになる。

「説得力」はどこから生まれるか? もちろん商品に対する深い理解だ。最近多い「どうやったらアフィリエイトを成功させられるか」系の文章に、「自らその商品を買ってみるしかない」と書かれていたものがあって印象的だったが、まさしくそうなのだろう。自ら使用することで、コメントにインサイトが備わるのだ。自分の発見をうまく第三者に伝えるためには、“アイデア”というか“工夫”が必要になる。

つまり、それがコミュニケーションである以上、ブログも結局“クリエイティブ”が必要とされることに違いはなく、その意味ではマス広告となんら違いはないのだ。このことに気づいたとき、私は逆に「クリエイティブ」というものの本質に行き当たった。それがあらゆるコミュニケーションの核であることを改めて実感できたのである。私自身は広告制作者ではないため、頭でしかわからなかったことが、からだでわかる気がしたというか。

「クリエイティブ(表現)」「アイデア」などと言えば、なんだか難しいことのように思えるが、それは極めて当たり前のことだということが「ブログ」を通してわかる。最近、とある海外の広告エージェンシーの創設者にインタビューする機会を得た。彼は二十年以上に渡って質の高いコマーシャルを作り続け、世界を驚かせてきた広告界の伝説的人物だが、自らの会社を立ち上げた頃のことを尋ねると、次のように答えた。

●「僕は別に“広告”を作るつもりなんてなかった。親しい人に手紙を書くつもりで、コピーを
    書いていたんだ」

極めて示唆的な言葉だ。「広告」とはテレビでも新聞でも雑誌でもない。どこまで行ってもそれは「手紙」のようなもの。別に彼だけでなく、多くの優れた広告クリエイターが似たことを言う。企業をバックに持つ「広告」も、必ず“私信”の部分を持っており、またそうでなければメッセージは届かないのだ。

CGM(ブログ等の広告効果)にこれほどの注目が集まったり、米有名広告誌が「エージェンシー・オブ・ザ・イヤーは消費者」と発表したり、30秒のスポットが平均約3億円と言われる米スーパーボウルに、視聴者のアイデアを形にしたCMが流されたりするのは、もしかすると従来の広告は“手紙”の部分を失いつつあるのではないか? とも逆に思ったりする。だとすれば、いまの広告の課題ははっきりしているのではないか?

ブログ(CGM)の話題だったのに、いつの間にかマス広告の話になってしまった。しかし、ブログ(ブログブーム)は、これまでの、そしてこれからの広告の在り方を、批評的に考えさせるものとして興味深い。

もうひとつ考えておきたいことがある。インタラクティブ(インターネット)広告やCGMは、「広告」として論じられないのではないか、とする見方について。

確かにインタラクティブはマス広告のように、向こうから暴力的に押し寄せてくることがない。自発的なクリックによってしかたどり着けないわけで、広告の「広」の部分では異なるものと言えよう。

しかしそれはあくまで言葉的に考えた場合の話で、先ほど述べた「広告(コミュニケーション)にはクリエイティブが必要」という部分を本質とすれば、ある意味、インタラクティブは広告以上に広告と言えるだろう。“面白くなければだれの目にも触れない”のだ。

インタラクティブ(webサイト、バナー、バイラルムービー、ブログetc)をマーケティングのタームだけでなく、クリエイティブの視点から考える、語る時代が来ている。さっき紹介したクリエイターは、次のようにも言っていた。

●「つまるところ広告を成功に導くのはパッションだ。そして愛だと僕は思う」


※話が色んなところに行ってしまったので、最後に、この原稿の発端となった、
 スポンサー付きブログについてもう少し。

市場経済を原理とする社会である以上、当然“効きそうな”あらゆる場所を求めて広告は入りこんでくる。ブロガーを“広告クリエイター”的に起用する発想は、アイデアとしていま風で面白いし、前回書いたように、マス広告のできない(する必要のない)商品や社会性の高いイベント等、ものによってはそういったコミュニケーションが有効なものもあると考える。

その際のマナーやルールを整えることはもちろん必要だが、一般に広くコメントを求める場合、商品が特に魅力的でなければ、結局「広告」としての効き目は薄いのではないだろうか。あとメディアサボール 編集部からご指摘を頂いたのだが、プレスブログの場合、登録者が十数万人いるので、その参加者たちに商品が認知されるだけでも、ある程度の宣伝効果が得られる、また、リンクによるSEO効果が期待できる、とのことらしい。なんとも世知辛い話だ。ともかく広告について、色々考えさせられる現象ではある。

 

■関連情報

○at ブログヘラルド 2007/08/13
 新たな報酬付きレビューシステム、「Bloggerwave」
http://jp.blogherald.com/2007/04/05/bloggerwave-another-pay-to-blog-site-launches/

○POLAR BEAR BLOG
 意外にマトモな『プロパガンダ教本』 2007/08/13
http://akihitok.typepad.jp/blog/2007/08/post_626c.html

○POLAR BEAR BLOG 「広告の境界線」2007/06/25
http://akihitok.typepad.jp/blog/2007/06/post_5c3e.html

○livedoorニュース 2007/06/27
 「ケータイクチコミの主役は10代女性--IMJモバイル調べ」
http://news.livedoor.com/article/detail/3212733/

○Business Media 誠「ネットの口コミを頼りにして買うモノは?」2007/05/22
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0705/22/news115.html

○河野武 smashmedia 2007/04/10
 「ブログメディアはやらせ広告なのかという点について」
http://smashmedia.jp/blog/2007/04/000050.php

○MarkeZine  2007/03/28
河野武「クチコミマーケティングブームは幻想にすぎない」
http://markezine.jp/a/article/aid/959.aspx

○キャズムを超えろ! 2007/02/25
 WOM勉強会 第4回『クチコミマーケティング実施手法別メリット・デメリットをクライアント側が正しく把握できる環境整備を!』
http://d.hatena.ne.jp/wa-ren/20070225/p1

○nikkei BP net 藤代裕之 2007/01/11
 米国WOMマーケティング・サミット報告(6)
 “やらせ”CGMなど問題点も議論─ 新市場開拓の熱意に日米差を痛感
http://www.nikkeibp.co.jp/netmarketing/trend/current/070111_wommktsmt6/index.html

○実践ビジネス発想法 2007/01/10
 「ブログのヤラセとドキュメンタリーの仕込みとの間のグレーゾーン」
http://www.planbiz.info/blog/archives/20070110_024331.php

○CNET  2006/12/13
 Diggへの「やらせ投稿」問題--ついに証拠が浮上?(「天敵」が追求中)
http://japan.cnet.com/column/somethingnew/story/0,2000067121,20338657,00.htm

○ITmedia アンカーデスク 佐々木俊尚 2006/12/01
「バイラルマーケティングには可視化とリスペクトが必要だ(上)」
http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0612/01/news041.html

○ITmedia アンカーデスク 佐々木俊尚 2006/12/08
 「バイラルマーケティングには可視化とリスペクトが必要だ(下)」
http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0612/08/news031.html

○ITmedia News  2006/08/04
 “稼げる”口コミサイトの作り方 「4travel」に聞く
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0608/04/news077.html


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