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「キラいだけど世話になってます」イタリア人の原発への複雑な思い

<記事要約(1)>「カターニア、日本ツアー中止」

バルディニ率いるシチリアのサッカーチーム・カターニアは、7月下旬に予定していた日本ツアーと、それにともなう日本チームとの親善試合をキャンセルすると発表した。新潟県柏崎市で起きた地震が、原子力発電所に損害を与え、放射能漏れが危惧されているためである。なお、日本チームとの試合のかわりに、スペインもしくはギリシャのチームと試合が組めるよう調整中である。

7月24日付 SKY LIFE(衛星放送「SKY」のWEBニュース) より
http://www.skylife.it/html/skylife/sport/articolo/Calcio/varie_calcio/24-07-07-catania-annulla-turnee.html

 

<記事要約(2)>

プロディ現内閣の環境相、アルフォンソ・ペコラーロ・スカーニオは、
「日本で起きた原発事故は、イタリア国内の原発推進派を墓場に葬った」と発言した。

(7月19日付 「緑の党」ニュース より)
http://www.verdi.it/apps/econews.php?id=15386

 

<解説>

セリエAのサッカーチーム、カターニアは、地震のあった新潟で親善試合を行う予定がなかったにもかかわらず、日本行きをあっさりキャンセルしました。ふたつめの記事は、緑の党党首である閣僚の最近の発言です。ふたつとも、柏崎の原発事故がイタリアでどう受け止められたのかを象徴するようなニュースでした。

地震発生後の一両日を除き、イタリアでは地震の直接被害よりも、柏崎原子力発電所の放射能漏れに重点を置いた報道がされています。

チェルノブイリ原子力発電所の事故のあった翌年、すなわち1987年に、イタリアではそれまで稼動していた国内の原子力発電所を廃止するかどうかの国民投票が行われました。投票権者のうち65%が投票所に赴き、うち80%が原発にノーを突きつけました。その結果、4箇所あった全ての原子力発電所が稼動を止めています。

しかし、イタリア国民が原子力発電の恩恵を蒙っていないかというと、そうではありません。イタリアにおける消費電力の15%は、隣国からの輸入でまかなわれています。おもにフランス、次にスイスからです。

両国とも原子力発電所を持っています。たったの15%と侮ることはできません。2003年に二度続けておきた停電は、イタリアに大きな混乱を引き起こしました。最初の停電は、フランスから、事前報告があったとはいえ電力供給を削減されたためですし、二度目のは、スイスから電力を運ぶ送電線が国境付近で破損したからです。

立て続けの停電は、「原発をもう一度イタリアに」と主張する原発推進派には追い風となりました。彼らに言わせると、イタリア国民が払っている電気代が高いのも、電力を自国でまかなえていないからだそうです。

今年1月の調べによると、平均的なイタリアの家庭での1キロワットあたりの電力料金は、ヨーロッパ各国の平均を50%も上回っています。企業が払う電力料金も同様で、他国の平均と比べて1.5倍の料金となっています。電力のコスト高をすべて輸入のせいにするのは無理がありますが、少なくともエネルギーの高価格が、イタリア企業の競争力を削ぐ要因になっていることは間違いないでしょう。

イタリア国民が原子力発電をどう見ているか、についてのアンケート結果を紹介します。それによると、2005年に発電所の稼動に賛成が40%、反対51%だったのが、翌年には賛成47%、反対44%、と形勢が逆転しています。
もし柏崎原発の事故がなければ、今年、原発に賛成する人の割合はもっと増えていたかもしれません。

一方、電気代が高かろうが大停電がおきようが、なお4割強の人がかたくなに原発を拒否している事実も注目すべきでしょう。チェルノブイリの事故の恐怖から逃れられていないということでしょうか。

チェルノブイリの事故が人々の記憶から消えてしまわない理由のひとつとして、イタリアが行っているプロジェクトを挙げようと思います。チェルノブイリ近郊の子どもたちを、毎年数ヶ月間イタリアに呼び寄せ、きれいな空気と安全な食べ物で、健康を取り戻してもらおう、というものです。

1990年代初めから行われているこの事業により、30万人のべラルーシの子どもたちがイタリアに来ています。現在も年間3万人の子どもたちを、イタリアのごく一般の家庭が引き取っているのですが、そのなかでも昨年起きた出来事は印象的でした。

ベラルーシの孤児院からマリアちゃんという女の子が、ジェノヴァのとある夫婦のところへ来ていたのですが、母国に帰りたがらないこの子をめぐってイタリアとベラルーシとの間で外交摩擦が起きました。国じゅうで「かわいそうなマリアちゃん」を見守ったものです。

イタリアで原発を再稼動させるのも、闇に葬り続けるのもイタリアの民意ですが、外国人として、彼らに問い掛けたい衝動にかられるときがあります。

「イタリアにないからといって、本当に自分たちは安全だと思ってるの?
 国境近くには、こんなに原子力発電所があるのに。」


HUMUS http://www.progettohumus.it/  より転載


イタリアでは1987年の国民投票以来、原子力発電の是非を問う二度目の国民投票は行われていません。原発を持ちながら何度も国民投票を行い、その都度存続させるか否かを自らに問い続けてきたスイスとは対照的です。

さまざまな手続き、条件をクリアしないと国民投票は実施されません。電力エネルギーを獲得するために、イタリア国民が隣国に依存しつづける体制は今後も当分続きそうです。

 


■関連情報

<防災>

○nikkei Bpnet  2007-07-26
 「中越沖地震で明らかになった、原発管理体制の3つの課題」
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/column/shusei/070719_39th/


○放射能漏れ事故後の防衛処置
http://www.tu-han.net/46166-s1.html


○原発震災が起こったら・避難の手引き
http://www.osk.janis.or.jp/~kazkawa/radiation01.htm


○緊急被ばく医療Q&A
http://www.nirs.go.jp/hibaku/qa/index.htm


○原子力防災Q&A
http://www.bousai.ne.jp/visual/n_info/qa/index.html


○緊急被ばく医療 REMnet 「緊急被ばく医療ポケットブック」
http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/index.html

 

<チェルノブイリ>

○GIGAINE  2007-04-26
 「チェルノブイリは事故から21年経ってどのような姿になったのか」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070426_chernobyl_visit/


○GIGAINE 2007-04-23
「チェルノブイリ原発事故で死の灰からモスクワを救うためにどうしたか?」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070423_chernobyl_silver_iodide/


○壊れる前に…:  「汚れた都市」 2007-01-30
http://eunheui.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_79a8.html


○極東ブログ 「チェルノブイリ事故報道がわからない」2006/04/26
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2006/04/post_c414.html


○捨てられた町 チェルノブイリ(写真が豊富にあります)
http://englishrussia.com/?p=293

 

<参考資料(イタリア語)>

総合雑誌 L’espresso  (2006/1発行)
http://www.kataweb.it/utility/nucleare_espresso/

環境問題を扱うサイト
http://www.salutopoli.it/modules.php?name=News&file=article&sid=1771

ベラルーシ援助プロジェクトの報告書
http://www.progettohumus.it/include/bielorussia/docs/dossiercooperazione.pdf

ベラルーシのマリアちゃんが映画になった、という記事
http://www.boxshow.it/pageview2.php?i=2171&sl=1

 


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