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アメリカが、人気ドイツ絵本の「裸体」に神経ピリピリ

<記事要約>

受賞歴の多い、有名なイラストレーター、ロートラウト・スザンネ・ベルナー作の絵本『ものがたりさがし絵本─さがしてあそぼう春/夏/秋/冬ものがたり (全4巻)』は、ドイツ、北欧、スイス、また日本など、最近世界で読まれている。

その1冊は冬の生活の様子を描いたもので、あるページには美術館の内部が描かれている。そこには、高い台の上に置かれた「大きさ7ミリメートルの男性の裸体像」が見える。裸体像の男性器は0.5ミリメートル。この極小の男性器が、アメリカの就学前の子どもたちにはあまりにも現実味を帯びているらしい。

アメリカで同書を出版する運びとなった際、出版社の契約書には「男性裸体像および壁にかかっている女体画、そして絵本内の喫煙者たち全てを削除すること」と記してあった。ベルナーさんが冗談を言っているのだろうと思わず笑ったら、同席した出版社は大真面目。そしてベルナーさんは激怒したという。契約は、もちろん交わさなかった。

2007/7/12NZZより (チューリヒの日刊紙Neue Zürcher Zeitung。インテリが読む高級紙として有名。発行約16万部)



写真:出版元提供 
●Rotraut Susanne Berner作『ものがたりさがし絵本─さがしてあそぼう冬ものがたり』


<解説>

絵本『ウォーリーをさがせ』を覚えているだろうか。1987年作のイギリスの絵本で、日本でも大流行した。ウォーリーや仲間たちが各ページのどこかにいて、彼らを探し当てながらお話が進んでいく。絵が細かく、大人でも、あれやこれやと楽しみながらウォーリーを見つけ出す。

このような「さがし絵本」はほかにもあるが、ドイツの作家のさがし絵本が、いま世界で静かな人気を集めている。それがベルナーさんの同上の絵本だ (Gerstenberg出版、2003─2005年初版)。日本でもすでに出版されている。日本では元の大型版に次いで、今年はミニ版も刊行されているため、売れ行きは好調らしい。

文のない絵だけのこの本のお話は、複数の登場人物の行動が時とともに同時に進行していく。具体的にいうと、冬の巻は、ある町での、冬のある日の日常的な風景を描いている。主な登場人物は、13人の大人と4人の子どもと犬1匹、猫1匹、オウム一羽(各自の簡単な紹介が、裏表紙に描かれている)。

表現はかなり細かい。たとえば、幼女ロッテと母親のアンジェリカは、最初の場面ではバスに乗っている。後ろの座席には、長い飾りヒモのついた帽子を被ったスザンネがいる。ロッテは、そのヒモに手を伸ばしている。それが、2番目の場面では、ロッテがヒモをつかんでスザンネの帽子を引っ張り、母親もスザンネも驚いている。また、ここで登場してきたマンフレッドはランニング中で、カギと財布を道に落としている。少女イナがその後ろを歩いている。3番目の場面になると、母親がスザンネに帽子を返している一方で、イナはカギと財布を拾って手に持ち、マンフレッドはそのまま前を走り続けている、という具合だ。

実は、この冬の巻は、先日息子が図書館から借りてきて、このところ毎日のように息子と一緒に見ている。何度見ても飽きない。登場人物がどこにいて何をしているのか、そして登場人物同士の関係を、各場面で追っていくのはとてもおもしろい。

そんな折、この冬の巻についての騒動を知った。問題になっている絵は、「町のカルチャーセンターの最上階にある美術館」だ。入り口には男性裸体像があり、中では人々が絵画を鑑賞している。人気絵本の紹介かと思ったら、その裸体の男性器と女体の絵画が騒動になっているというニュースだった。



写真:出版元提供 
●問題になった美術館の絵(右手に裸体像、左手に女体画)

著者のベルナーさんは、子どもの本のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞に、過去3回ノミネートされたことがある実力の持ち主。昨年は、彼女の全作品に対してドイツ児童文学賞・特別賞も受賞した。そんなベルナーさんにとっては、作品の冒涜とも取れる「消去の要請」だった。

この出版社が驚くような要求をしたのは、保守的な親たちや一部の専門家から抗議されるのを怖れたからだという。この絵本は素晴らしい内容だと思っているが、図書館に置かれることが予想され、多くの子どもたちの目にふれることになる。アメリカだけではないが、『ハリーポッター』シリーズを図書館から追い出せ! と躍起になる人がいる国では、内容に慎重にならざるを得ないというのだ。

「表現の自由」の観点からは、それらを消す必要はまったくない。騒ぎになる前に…という気持ちもわからなくはないが、親の裸や喫煙者を見ているであろうアメリカの子どもたちにとって、ベルナーさんの絵は、はたして露骨な表現といえるのだろうか。 
   
たくさんの子どもに著書を読んでもらえるチャンスを捨てるのは、ベルナーさんも口惜しいはずだ。それにしてもこの一件、アメリカの極端な面をまた感じさせられた。

 


■関連情報

○しねま・だ・しねま 「1年かけてあそぼう」 2007/02/01
http://ryoko777.cocolog-nifty.com/movie/2007/02/post_6490.html


○Webデザイナーが使うWebデザインのネタ帳『Key Person Q』
欧州で人気『新タイプ絵本』発売  2006/03/20
http://exo.jp/keypersonq/archives/2006/03/post_635.html


○what's going on  2007/03/11
 「ロートラウト・スザンネ ベルナーRotraut Susanne Berner さがしてあそぼう」
http://ameblo.jp/whats-going-on/entry-10027729086.html


○ぽっくん成長日記 「おもちゃが育てる空想の翼」を読んで 2007/07/18
http://blog.so-net.ne.jp/and1tribe/archive/20070718


○TOL ブログ 「ウォーリーをさがせ!きえた名画だいそうさく!」 2007/03/02
http://blog.tsutaya.co.jp/tbn4/3277


○イザ! 「ハリポタvs宗教右派 米国二分した論争」 2007/07/30
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/72011


○BOX HEAD ROOM 2006/10/02
 「ハリー・ポッターが焚書される?(アメリカ)」
http://tamac.daa.jp/archives/200610/harrypotter_underfire.php


○叡智の禁書図書館<情報と書評>
 教皇「ハリー・ポッター」には批判的見解  2005/07/26
http://library666.seesaa.net/article/5360550.html


○リヴァイアさん、日々のわざ 
 「ハリー・ポッターのアンチ・キリスト教」 2005/07/14
http://ttchopper.blog.ocn.ne.jp/leviathan/2005/07/post_2e55.html


○西森マリーのUSA通信 2002/12/26
 「ハリー・ポッターと秘密の部屋」
http://eng.alc.co.jp/eiga/usa/2002/12/post_80.html


○ULTIMO SPALPEEN 2006/12/20
 テキサスの図書館所蔵の「AKIRA」第2巻が、撤去の申し立てを受ける
http://willowick.seesaa.net/article/29908837.html 

 


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