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米SpiralFrog(スパイラルフロッグ)─無料音楽配信サービスの新たなビジネスモデルは定着するのか

広告収入モデルを使って無料で曲のダウンロードができるサービスが始まった。音楽配信ビジネスは無料化時代を迎えるのだろうか。

無料音楽配信サービスを始めたのはSpiralFrog(スパイラルフロッグ)。ニューヨークに本社を置くこのスタートアップ企業は、今月17日に正式にサイトをオープンした。同社が無料配信サービスの構想を発表したのは昨年秋。その後、米国とカナダで招待者を対象にベータ版を運用し、このたび正式にスタートとなった。

インターネット上から音楽をダウンロードするには2通りの方法が存在する。AppleのiTunesに代表される有料サービスを使う場合と、ファイル共有サービスを利用して無料で入手するケース。通常後者は違法コピーされたファイルを扱うことになるので著作権侵害を伴う上、入手したファイルがウイルスに感染している可能性もある。

一方の有料サービスは、レコード会社からライセンスを受けて販売される楽曲を利用者が購入する形をとるので、著作権侵害やウイルス感染の心配はいらない。デジタル著作権管理技術(DRM)によって一部の利用制限はあるが、購入したファイル自体の所有権は購入者の物となる。

SpiralFrogのアプローチは、有料サービスの利点や品質を保ちながら無料で配信を実現する形を採用する。サイト運営にかかるコストやレコード会社へ支払う曲のライセンス料金をカバーするのは利用者から支払われる曲の購入代金ではなく、バナー広告のみ。それだけで、将来100万曲を超えるであろう楽曲を無料提供してしまおうという試みだ。

そのためにいくつかの工夫が施されている。利用者はまず登録を行い、自分の属性を明らかにする。とはいっても性別、生年月日、居住地といった簡単なもの。しかも居住地は日本の郵便番号に相当するものを記入するだけで、住所を明らかにする必要もない。SpiralFrogでは登録者の属性情報を広告主に届け、効果の高い広告表示を行うようにする。

登録者は正しい属性情報を提供するために、30日ごとにこの作業を更新する必要がある。更新を怠ると31日目から曲のダウンロードができなくなり、60日を過ぎても更新されないと、すでにダウンロードした曲の再生もできなくなる。

もうひとつの工夫は、ダウンロードマネージャーと呼ばれるソフトウエアが曲の入手、再生、管理を行うこと。バナー広告が埋め込まれたこの専用プレーヤーによって一曲ずつ再生されるため、理屈の上では広告を目にする機会が増える。

SpiralFrogに楽曲の提供を行うのは世界最大のレコード会社Universal Music Group。四大レーベルの1社に過ぎないが、世界の音楽市場の25%を握り人気アーチストを抱えるなど大きな影響力を持つ。その他に独立系のレコード会社とも契約を結び、現在サイトには80万曲が配信され、音楽ビデオも3500本が掲載されている。

サービスが始まった17日と翌18日に実際に利用してみた。両日ともかなり混雑している様子で、初日にサイトがまともに動き出して曲のダウンロードが可能になったのは深夜過ぎ。しかし、肝心のサービスは使いやすく、良い印象を持った。

ページのまとめ方やインターフェースにも特に大きな不備は見られない。何よりもすべての曲とビデオが無料というのが、サイトを訪れる大きな動機となる。これは多数のアクセスを得るだろうと感じた。やはり、タダほど魅力的なオプションはないのだろうか。

残念なのは、楽曲ファイルにDRM管理が施されていること。Windows Media デジタル著作権管理を使っているため、対応するパソコンもしくは携帯端末でしか再生できない。パソコンの場合OSがWindows XPかVistaで、Windows Media Playerのバージョン10、もしくは11がインストールされていることが必要。同時に携帯端末には一曲あたり2台までコピーできるものの、人気機種のiPodでは再生できない。またCDへのコピーも認められていない。

最近はiTunesを始めとし、DRMフリーの曲を提供する音楽配信サービスも出てきている。Apple CEOのスティーブ・ジョブス氏が今年2月にDRM不要論に関する声明を出したのがきっかけとなり、EMIなど大手レコード会社の一部がDRM撤廃に柔軟な姿勢を打ち出しているからだ。

DRMは消費者の権利を縛っている上に、レコード会社の売り上げにも貢献していないというジョブス氏の主張には確かに頷けるものがある。今後、Universal Music GroupがDRM撤廃に向けた動きを取るようだとSpiralFrogの注目度もさらに加速するだろう。

SpiralFrogのような広告モデルが軌道に乗るかどうかは、まだ分からない。仮に曲当たりのライセンス料を50セントとした場合、80万曲のダウンロードがあれば40万ドルをレコード会社へ支払う必要に迫られる。それだけのコストを広告費として稼げるかどうか。
そのためには単なる垂れ流しのバナー広告ではなく、対象がよほど絞り込める属性データが必要になるのはもちろん、それ以外に広告効果を上げて広告主を満足させる仕組みも必要だ。

SpiralFrogは、レコード業界側のトップに長らく席を置いた人材を役員会メンバーに据えるなど、今回の無料配信をメディア側からの実験的な試みと捉えているような色合いも濃く感じる。そうであれば、市場原理で経営が左右される純粋なスタートアップ企業とは比べられないが、新たな配信ビジネスモデルの可能性を探るテストとしては絶好の機会になるだろう。

特に、音楽配信ビジネスの分野でシェア7割を占めるといわれるiTunesをどこまで脅かすことができるかに注目したい。折りしもUniversal Music GroupはiTunesへの楽曲ライセンス契約を更新しない方針を打ち出すなど、今後の展開に影響を与えそうな情報もあるだけになおさらだ。

 

【関連情報】

○ネット屋の日記 「SPIRAL FROG」 2007/09/20
http://blog.livedoor.jp/idasuke3/archives/50418517.html


○SPIRAL FROG [ a digital entertainment destination ]
http://www.spiralfrog.com/membership/default.aspx?c=1


○TechCrunch Japanese「無料音楽のSpiralFrog健在」 2007/08/24
http://jp.techcrunch.com/archives/spiralfrog-free-music-alive-and-hopping/


○CNET  広告収入型音楽サイト「SpiralFrog」、ついに楽曲提供開始  2007/08/08
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20354368,00.htm?ref=rss


○CNET 「合法、無料、無制限のオンライン音楽サービス実現?」 2007/09/21
 (フランスにおける音楽無料配信サービスの動向)
http://japan.cnet.com/column/europe/story/0,3800077429,20355917,00.htm


○Te2MODE.COM 2007/09/18
 「無料音楽配信サービスのSpiralFrog(スパイラルフロッグ)がサービス開始」
http://www.te2mode.com/news/net/070918173700.html


○TechCrunch Japanese アーカイブ 2006/09/05
 「EMIがSpiralFrogと提携、カタログにフリー楽曲(一部有料)を大量投入」
http://jp.techcrunch.com/archives/emi-to-add-free-music-to-spiralfrog/

 

 


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