Entry

NO STYLE広告論 米大統領選挙にも影響しそうなオバマ・ガール現象を読む

 話題のファッションブランドのサイトを取り上げる予定でしたが、夏以降“こちら”が結構過熱しているようなので、熱が冷めないうちに取り上げておこうと思います。何かと言えば、オバマ・ガール。まだご覧になっていない方は、とりあえず、こちらを。(http://jp.youtube.com/watch?v=wKsoXHYICqU)

 セクシーなアメリカ人女性が公園や自室、オフィス、地下鉄で歌い踊る。それだけならよくあるミュージックビデオなのだが、異色なのは映像内に何度もバラク・オバマ(Barack Obama)が登場するところ。

 民主党のオバマと言えば、同じく民主党のヒラリー・クリントン、共和党のルディ・ジュリアーニと並んで、来年のアメリカ大統領選の有力候補の一人と目される人物。「I Got a Crush…On Obama」というタイトルからもわかるように、このPVに登場する女性は、どうやらオバマ候補に首ったけのようだ。自分のデスク周りには、雑誌や新聞から切り抜いたオバマ氏の写真を貼りまくり、オバマTシャツを着て、プラカードを持って彼を応援するといった、はまりっぷりなのである。

 恋愛ソングっぽい曲の歌詞も、もちろん、オバマへの想いがつづられている。「2008年を待てない。あなたが一番の候補者」「医療保険制度改革が私を熱くするわ」「あなたはボーダーセキュリティに守られている。あなたと私のあいだのボーダーを壊して」などと、選挙やオバマの掲げる政策をほのめかすところがポイントだ。

 すごいのはYouTubeでの再生回数。9月末で約380万。やはりいま話題になっている実写版「Simpsons」(http://www.youtube.com/watch?v=brh6KRvQHBc)の2倍を軽く超える。もちろん、これによりオバマの支持者が増えるかどうかはわからない。オバマ本人は特に喜んでもいないようだ(訴えたりもしていないが)。

 しかし、「だれかが勝手に作って投稿したYouTube動画が、大統領選にまで影響力を持ちうるなんてすごい時代だなあ」ということで、トラディショナル・メディア側もこの“オバマ・ガール”を放置しておくわけにもいかず、このビデオに出演するまでほぼ無名だったモデルのアンバー・リー・エッティンガーは、CNN、ABCのニュース番組等にひっぱりだこ。彼女はファッションブランドの新作発表会に姿を見せる等セレブ扱いで、いまでは“オバマ・ガール”は独り歩きを始めている。(http://www.youtube.com/watch?v=86HEv_Wtyj8


 それにしてもこの“応援動画”、いったい誰が作ったのか。ウワサによれば、アメリカの広告会社のクリエイターらしく(音楽プロデューサーとの説もある)、それを聞けばまあ納得。世の中で起きていることにいち早く茶々を入れ、話題にするアプローチは“広告的”だし、ニューメディアを用いたこんな“新手法”が登場してしまうのがいかにも“アメリカ的”なのだが、制作側は「オバマに夢中」の人気に気をよくしたのか、ウケたからには続けなければならないというクリエイター魂のなせるわざか、シリーズ第2弾、第3弾を立て続けにリリースしている。

 「Debate'08:Obama Girl vs Giuliani Girl」と題された2作目では、宿敵ジュリアーニ氏と彼を支持する三人の“ジュリアーニ・ガールズ”が登場。元祖アンバー・リー・エッティンガーを中心とする三人の“オバマ・ガールズ”とディベートを繰り広げるという、これまたちょっとすごい内容になっている(http://www.youtube.com/watch?v=ekSxxlj6rGE

 歌や踊りもエスカレート、というか、いっそうプロっぽい凝った作りだ。一作目にくらべると制作費もかなりかかってそう(一作目の素人っぽさが、リアルでよいとする意見もブログ上にはあったが)。リリックもさらにパワーアップ。

 「ジュリアーニ。あなたの4人目の奥さんになりたいわ。彼はアル・ゴアみたいに私の“地球”を熱くする」(※ジュリアーニ氏は3回の結婚歴があるらしい)と、どことなくお局上司風のGG(ジュリアーニ・ガールズ)が呼びかければ、OGがすかさず「オバマは少なくとも、自分のいとことは結婚しないわ」と皮肉るすさまじさ(※ジュリアーニ氏の最初の妻は、いとこらしい)。こちらも再生回数140万を超えるヒットとなっている。

 一作目も二作目も、映像の最後に「barelypolitical.com」のクレジットが入る。訳すと「ほとんど政治には無関心、ドットコム」とでもいったところか(「bare=裸の」を掛け合わせているとする説もある)。

 サイトに行ってみると、予想通りでもあったが、なかなかキチンと整備されているというか、これまでのオバマ・ガール関連の映像がすべて見られるのはもちろん、「Obama Girl's blog」が読めたり、彼女が着ているオバマTシャツが購入できるなど、どこの誰が好き好んでこんなことをやっているのだろうと、バカバカしくなるくらいの充実ぶり。こうなると、YouTubeのヒット動画といった枠を超えて、ちょっとしたキャンペーンの様相を呈している。

 特筆すべきは、ここで比較的最近作られたと思しき、シリーズ第3弾の「I LIKE A BOY」が見られること。もちろんYouTubeにも投稿されている(http://jp.youtube.com/watch?v=Ux0PJ03w9pU)。
再生回数もまだ少なく、2万5000程度だが、音楽も映像もよくできており、今後また話題になりそうだ(メイキングというかNGシーンも公開されている。http://jp.youtube.com/watch?v=gEg6PYxKMnw)。

 前二作が、来年の大統領選をネタにしているのと違い、今回は“政治的”にもちょっと踏みこんだ内容となっており、テーマはなんと「帰還兵」。イラクとアフガニスタンでの任務を終えた軍人の帰国後の生活をサポートする組織「IAVA(Iraq and Afghanistan Veterans of America)」とのコラボ・プロジェクトになっている。

 若い男が流行のiPhoneをいじくっていたかと思うと、オバマガールたちが若い兵士らと一緒に訓練に参加したりすることから、映像を見ているだけだと、ただふざけている(orもしくは軍隊を揶揄してる?)ように思えてしまうのだが、そのメッセージというか制作の主旨はなかなかヘビーで、戦争から戻った後なかなか社会にとけ込めないでいる元兵士たちを応援する団体を応援しようとの意図で作られたようだ。ずばり「I LIKE A BOY」のボーイとは、“兵士”のこと。「barelypolitical.com」がこの曲のダウンロードにより得た収益は、IAVAに寄付されるらしい。

 日本では想像できないような広がりを見せている“オバマガール現象”。こういった若者にウケそうなコンテンツが「政治」にリンクするところが、アメリカという国の広大さというか、むしろ底知れなさを感じさせる(日本で“アソウ・ガール”なんて言ってもまずサマにならないだろう)。

 YouTubeのこの映像を見れば、大統領選がすでにそうとう盛り上がっていることが日頃のニュース以上に伝わってくるし、ここには今度の選挙に対するアメリカ人の実感みたいなものが表現されているようにも思えるのだが、みなさんはいかがでしょう?

 ちなみに「barelypolitical.com」とはまた別の人が作った「ヒラリー・ガール」のクリップも存在する。(http://jp.youtube.com/watch?v=-Sudw4ghVe8)こちらは約88万と、再生回数の上ではいまのところややオバマに押されているようだ。

 

【関連情報】

○スリランカ通信 2.1─地方公務員から転身した国際公務員のblog
 「SNSで支持者を増やすオバマ氏」 2007/02/06
http://ameblo.jp/keicho/entry-10025148434.html


○ITmedia News  2007/04/10
  米大統領選の情報源、「ネットが最適」25%でテレビを上回る
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0704/10/news027.html


○イザ! 2007/04/19
  【米大統領選と民主主義・上】YouTube選挙http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/it/internet/48364/


○B3 Annex 2007/03/31
  「米大統領選挙のプラットフォームをめざすネット企業の戦略」
http://toshio.typepad.com/b3_annex/2007/03/post_3.html


○FPN  喜多川正臣  2007/01/31
  「大統領選における各候補者のインターネット戦略」
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2016


○今日の覚書 2007/09/24
 「集めてみました アメリカ大統領選、資金集めは世界から」
http://blog.goo.ne.jp/kitaryunosuke/e/8aa32f2172870e4681475e99408633be


○macska dot org  2006/01/07
 アメリカ大統領選挙がわかるようになる「10の地域」マップ
http://macska.org/article/142


○中岡望の目からウロコのアメリカ 2007/05/13
 「バラク・オバマ論:オバマ上院議員はクリントン上院議員を破って
 民主党の大統領候補になれるか?」
http://www.redcruise.com/nakaoka/?p=216


○米国留学日記 「オバマ」 2007/09/30
http://cls2008.blog118.fc2.com/blog-entry-18.html


○株式ジャーナリスト・田北知見のビジネス探訪
 「ヒラリー・クリントン候補とバラク・オバマ候補」  2007/08/29
http://businessreport.seesaa.net/article/53156638.html


○MarkeZine  2007/07/25
 オバマ候補に強力助っ人が登場、米大統領選挙を熱くする「オバマ・ガール」の
 セクシー動画
http://markezine.jp/a/article/aid/1510.aspx


○doops!─music blog  2007/05/20
 「ヒラリー・クリントンのアメリカ大統領選挙キャンペーンソング、U2などが候補に」
http://doops.jp/2007/05/u2kt.html


○CNET   2007/05/15
  「米大統領選と動画配信--レッシグ教授、討論会映像の自由なネット利用を訴え」
http://japan.cnet.com/special/media/story/0,2000056936,20348795,00.htm


○CNET   2007/07/25
  「YouTubeとCNNの提携は成功--米大統領選討論会の質問ビデオ企画」
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20353355,00.htm


○ネットPR.JP 「YouTubeを使ってアメリカ大統領選挙の討論会が開催」2007/07/25 
http://netpr.jp/netpr/001299.php


○シネマトゥデイ 2007/09/06
 「ジョージ・クルーニー、オバマ候補はロック・スターのよう」
http://cinematoday.jp/page/N0011397


○オバマ・ガール 「オバマ・ガールを学ぶ」2007/08/06
http://xn--kcke1i7b6cwei.xn--u9j190h55g.com/2007/08/post_1.html


○AztecCabal 「謎のオバマ人気」 2006/10/30
http://d.hatena.ne.jp/Gomadintime/20061030/p1

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/396