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よいゲーム、悪いゲーム

「ゲーム害悪論」と呼ばれる類の議論がある。いわゆるビデオゲーム、日本ふうにいうと
テレビゲームとかコンピュータゲームとか呼ばれるゲームが、典型的には子どもや若者の
心理や性格、発達などになんらかの意味で悪影響を与え、暴力的な行動や引きこもりなど
さまざまな問題を引き起こすという類の議論だ。何か好ましくないニュースが流れたりする
たびに、ここぞとばかりに、ゲームの害悪性をしたり顔で語る方々がわらわらと出てくる
のが毎度おなじみの光景となっている。

これに対抗してというわけでもないだろうが、ゲームの効用を説く動きがある。ゲーム
は余暇として楽しく、ストレス解消になるということもあるが、より積極的に、ゲーム
が学習や職業訓練、リハビリなどといった「真面目」な目的においても有効に使えると
いう主張だ。こうしたものを総称して「シリアスゲーム」という。

ゲームは利用者が操作できるという点で双方向性があるので、音声や映像をただ受動的
に受けとる従来型のメディアと比べて、ユーザーの経験はより「豊か」なものとなる。
ゲーム批判によく使われる「ゲームは没入度が高く中毒性がある」という欠点も、それを
学びに使うなら、「学習効果が高く、無理なく続けられる」という長所に変わるわけだ。

「シリアスゲーム」ということばは、まだそれほど一般になじみがないかもしれないが、
実際にはことば自体よりはるかに深く私たちの生活にとけこんでいる。特にいわゆる
「脳トレ」などが売れている日本は、世界最大のシリアスゲーム大国といっていいかも
しれない。

シリアスゲームへの関心の高まりは、ある意味「ゲーム害悪論」のちょうど裏返しだ。
デメリットでなくメリットに注目するというちがいもさることながら、「害悪論」が
イメージするのとはちがったジャンルのゲームに注目しているという点も指摘しておく
必要があると思う。

考えてみればあたりまえの話だが、テレビ番組にもいろいろなものがあるように、
ゲームにもさまざまなジャンルがある。人を笑い者にするだけの下劣なバラエティ番組と
報道や教育の番組をいっしょにして「テレビは有害か否か」を論じる人はいないだろう。
同じことがゲームにもいえる。簡単にいえば、「よいゲーム」と「悪いゲーム」がある、
ということだ。とすれば、何もかもいっしょくたにして単純に「ゲームは害悪か」
といったテーマで議論することが、いかに乱暴で無意味なものかがわかるだろう。

ただ、こうした二分論だけですべてを整理しようとするのも、少し乱暴であるように思う。
「よいゲーム」と「悪いゲーム」、あるいはその中間領域も含めて、区別は実際の
ところそう簡単ではない。

たとえば上記のシリアスゲームにしても、学習ゲームなど、その目的で作られたものだけが
対象になるのではない。商業目的の一般的なゲームでも、適切な使い方をすれば、学習ツール
として有効に活用できる場合が少なからずある。鉄道を扱ったゲームで日本地理を覚えたり、
戦国時代を扱ったゲームで歴史に関心を持ったりした子どもは数多くいるはずだ。

さらに、思想信条の自由、表現の自由といった観点からすれば、暴力的なゲームであっても、
その制作や利用への制限については、できるだけ慎重であるべきだろう。もちろん
発達途上にある子どもたちへの影響を避けるための対策は必要だが、私たちは、少なくとも
大人であれば、下劣なテレビ番組、低俗な書籍を利用する権利があるのと同じ意味で、
暴力的なゲームを利用する権利がある。

そのために日本では、第三者機関であるコンピュータエンターテインメントレーティング機構
(CERO)によるゲームのレーティングが行われている。こうした情報を適切に利用し、
子どもに与えるゲームを選んでいけば、影響は最小限にとどめられるはずだ。問題は
ゲームそのものというより、ゲームの選択・利用のしかたにある、ということになろうか。

ちなみに、「ゲームが暴力性を助長する」という批判についていうなら、学術的には
そんなに単純なものではないという認識が、研究者コミュニティの中では、一部を除いて
一般的になってきている。確かに、ある種のゲームには暴力性を助長する傾向があると
する研究結果もあるが、実際の人格や行動はその他さまざまな要因が複雑にからみ合って
決まるもので、ゲーム単体での影響はそれほど大きくないらしい。

少なくとも、ただ「ゲームが犯人」と決め付けて排除しても問題は解決しないし、
有害ということでいうなら、ゲーム以外にも多くの要因があるのだ。子どもの人格形成に
最も大きな影響を与えるのは、一般的にいって家庭環境だろう。規制を加えたいなら
まずそこから検討すべきだ。

別な視点からみてみよう。ゲームがなかったころはテレビが、テレビがなかったころは
マンガやラジオが、それらもなかったころは小説などの書籍が、人間に悪影響を与える
ものとして非難されてきた。「あまりに魅力的であるがゆえに耽溺してしまう」「他人
と触れ合わなくなるので社会性が失われる」といった批判の理由もよく似ている。私を
含め、いまの大人世代は誰でも、これらのいずれかを有害なものとして戒められてきた
はずだが、その戒めを自分は完全に守ったといえる人は少ないだろう。守らなかったた
めに今の自分はだめになったと思う人はさらに少ないのではないかと想像する。

メディアへの接触経験は世代によって異なる。同様に、メディアへの考え方も、世代に
よって異なるのではないか。もう少したって、ゲームとともに育った世代が社会の中で
より中心的な役割を果たすようになれば、状況は変わってくるかもしれない。



 

【関連情報】

○社団法人コンピュータエンターテインメント協会
 COMPUTER ENTERTAINMENT SUPPLIER'S ASSOCIATION (略称・CESA)http://www.cesa.or.jp/


○小野和俊のブログ 2006/11/15
  「ゲーム脳は社会性を育み、人に人生の厳しさを教える」
http://blog.livedoor.jp/lalha/archives/50139541.html


○GAME Watch  2007/09/29
  「ゲームとは勝利と生存の喜びを表現する装置である」
 脚本家・川邊一外氏による講演「ゲームとは何か?」を紹介
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20070929/wg.htm


○GAME Watch  2007/09/26
 セガ小口氏が基調講演、「『あそびをつくる』……その本質とは」。
 「欲求」から考える面白いゲームの作り方
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20070926/ogu.htm


○GAME Watch  2007/09/29
 ジー・モード宮路社長が明かす、モバイルで勝ち続ける秘訣。
 ターゲットは「ゲーム機を持っていない全ての携帯ユーザー」
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20070929/gmode.htm


○ゲーム情報ポータル:ジーパラドットコム
 “二匹目のどじょう”は何匹いた?『脳トレ』系ソフトの現実
http://www.gpara.com/ranking/mediacreatebn/20070523brain.php


○かさぶた 2007/04/07
  「もっと」戦略崩壊に見る、実用ソフトの「終わり」
http://gamenokasabuta.blog86.fc2.com/blog-entry-123.html


○かさぶた 2007/09/30
  「Wii失速で見えてきた据置ゲーム機衰退の可能性」
http://gamenokasabuta.blog86.fc2.com/blog-entry-351.html


○GIGAZINE  2007/09/28
  「Statetris」に地理の授業で使えそうな待望の日本バージョン登場
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070928_statetris_japan/


○WIRED VISION 2007/07/30
  『Wii』+『Second Life』で、訓練用シミュレーター(1)
http://wiredvision.jp/news/200707/2007073022.html


○WIRED VISION 2007/06/12
  「大戦を回避可能? 歴史のifを追求するシミュレーション・ゲーム(1)」
http://wiredvision.jp/news/200706/2007061222.html


○CNET 2007/02/28
  「ゲーム内広告の魅力とチャンス―日本で離陸直前」
http://japan.cnet.com/sp/gamesad/story/0,3800075712,20344269,00.htm


○CNET  2007/02/06
  「ゲーム感覚で仕事ができる」--業務システムに魔法をかけたバリュープレス
http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000056022,20342461,00.htm


○ITmedia News 2007/05/31
  「がんの子供たちを支援する無料PCゲーム」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0705/31/news027.html


○医学都市伝説  「PCゲームはガン克服の助けになるか?」 2007/06/04
http://med-legend.com/mt/archives/2007/06/pc_8.html


○POP*POP  2007/05/16
 ブロックを組み立てるようにプログラミングを簡単に学べる『Scratch』
 がすごいかもしれません
http://www.popxpop.com/archives/2007/05/scratch.html

 

 


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