アメリカ政府─他国の飛行機が上空を通過するだけでも乗客情報提出を提案
- カナダ在住ジャーナリスト
(記事概要)
今度はとうとうアメリカ上空のセキュリティ対策まで要求してきた。アメリカ政府は、カナダの航空会社に対して、カナダ発のフライトでアメリカ上空を通過する全便の乗客情報を提出することを『提案』してきた。例えこれらの便がアメリカに着陸しなくてもである。
アメリカ政府Homeland SecurityのTransportation Security Agencyはその理由を、「乗客とその他の人々の生命をテロリストの危機から守るため」としている。
カナダのAir Transport Association of Canada(ATAC)は、10月22日の期限までにこれについての何らかの回答を示さなくてはならず、現在大急ぎでカナダの『声』をまとめている。
(2007年10月11日 the Globe and Mail)
the Globe and Mail:カナダ2大全国紙のひとつ。地方記事よりは政治、経済、国際記事が充実している。
(解説)
アメリカ政府の『提案』は、カナダ発の国際線で、出発地と目的地の間にアメリカの48州以下の上空を通過する全便が対象。内容は、乗客氏名、パスポート番号、生年月日、性別、できれば旅行者番号を事前に知らせるよう求めている。さらにできることなら、乗客の出発空港コード、航空会社、出発時間、到着時間、到着空港コードなどの旅程も知らせてほしいとしている。
ATACのガスパー副社長は、「カナダ政府はすでにカナダの “No-fly list”を作成している。このリストはアメリカと協力して作成したものであり、今回の『提案』の意味が理解できない」と困惑したコメントを出している。
“No-fly list”とは、テロリストなどの『疑わしい人物』をあらかじめ指定したリストで、カナダの航空会社ではこれらの人物がチェックインする際に発見できるシステムを6月18日に導入している。
このリストの導入についても賛否両論があった。さらにその後、全く無関係の人がひっかかり、搭乗できないというミスも何回かあり、システムの意味も問われた。
それでもカナダ政府はこのリストを導入し、アメリカ政府の『セキュリティ対策』に協力した形であるにもかかわらず、今回の『提案』となったわけだ。
最も困惑しているのは航空会社である。カナダの3社、最大手のエア・カナダ航空、国内と国際線中距離専門のウエストジェット航空、主にチャーター便を扱うトランザット航空は、これからの旅行シーズンに向け、早急の対応を求められそうだ。
特に、寒い冬のカナダを離れて、カリブ海沿岸の温かいリゾート地に向かう“Snow Bird”と呼ばれる旅行者たちへの販売追い込みをかける手前でのこの無理難題にどう応じるか頭が痛いところである。カリブ海沿岸地のメキシコ、ジャマイカ、キューバ、ドミニカ共和国などは “Snow Bird”たちに人気のリゾート地で、ここに向かう全便が対象となるからだ。
それでなくても、今年はカナダ人にアメリカ入国の際のパスポート所持を義務付けたり、より厳しいセキュリティ対策で陸路での越境で交通渋滞を招いたりとカナダ・アメリカの国境対策での問題が後を絶たず、カナダ人を困惑させ、イライラさせていた。
今年5月、在バンクーバーアメリカ領事館に取材で行った時、領事たちは、「セキュリティがきつくなりましたが、それに懲りずにもっと気軽に旅行や留学で、アメリカを訪れてもらいたい」と笑顔で言っていたが、その言葉もなんだか空々しく思い出される。
今回の『提案』で、影響を受けるのはほとんどがカナダやメキシコの航空会社だが、日本航空が成田・バンクーバー・メキシコシティというルートを飛行している。日本の航空会社にも影響が出るかもしれない。
折しも強いカナダドルを背景に南への旅行者も増える一方。果たしてカナダはどういう回答を出すのか。カナダはまだまだアメリカの『セキュリティ対策』に悩まされそうである。
【関連情報】
○WIRED VISION ニュースアーカイブ 2004/11/15
「米運輸保安局、航空会社に旅客データ提供を命令」
http://wiredvision.jp/archives/200411/2004111505.html
○WIRED VISION ニュースアーカイブ 2005/06/22
「米運輸保安局、飛行機の乗客情報を秘かに収集か」
http://wiredvision.jp/archives/200506/2005062205.html
○CNET 2004/04/23
「テロの恐怖で論理性を失ったセキュリティ対策の危険」
http://japan.cnet.com/column/loop/story/0,2000055914,20065542,00.htm
○PC View <佐々木俊尚> 浮上しつつある巨大市場「監視ビジネス」最前線
第9回 米国の国民監視プロジェクト
http://info1.nttpc.info/Business/041130/page14.html
○Web現代 ITは人を幸せにするか 失われた「自由な空間」2004/03/10
http://kodansha.cplaza.ne.jp/digital/it/2004_03_10/content.html
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