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ヨーロッパ最大医薬品ネット通販会社ドック・モリスが引き起こしたドイツ国内薬事戦争

<記事概要>

ドック・モリス(Doc Morris) は、オランダのヘーレン(Heelen)に本社があるヨーロッパ最大医薬品ネット通販会社。2000年に企業を立ち上げてから、現在顧客数は約85万人、2006年売上額は1億2700万ユーロまでに成長した。

ネット通販で名を上げたドック・モリスは、さらに2006年6月ドイツ国内の薬局営業許可を取得した。ネット販売と並行して、今後3年間にドイツ国内フランチャイズチェーンドック・モリス薬局500店舗拡張に意気込んでいる。

DER SPIEGEL 2007 (発行部数がヨーロッパで最も多いニュース週刊誌・ドイツハンブルク本社)   http://www.spiegel.de

 

<解説>

顧客がドック・モリス通販を利用する要因は、ドイツでは義務である処方箋医薬品における販売価格拘束(一品あたり5から10ユーロ)の自己負担が、ドック・モリス本社のあるオランダでは無料となることだ。一部医薬品が薬局に比べ約10から20%割安なことに加え、宅配サービスの便利さが受けて顧客も年々倍増し、ドイツ国内のドック・モリス知名度は国民の40%に上る。


これに加えてドック・モリスは、2006年6月、ドイツ・ザールランド州法務・保険・社会相ヨセフ・ヘッケン氏(Josef  Hecken)の認可により、ドイツ内薬局営業許可を獲得した。2007年1月、ザールランド州にドック・モリス薬局第1号店が開店され、その後チェーン店が次々と増え続けている。


ヘッケン氏は見解をこう語る。「EU加盟国の人(企業)にはEU条約の移動の自由が適用され、営業の自由を含む移住の自由を規定したEU条約と、EU統一市場はドイツ国内法に優先する。ドイツ薬局市場の自由化を求める事で薬品の値が下がり、疾病保険の支出が削減される。その結果疾病保険金庫の薬品支出節約が出来る。」


またドイツでは、2003年から国内医薬品ネット販売が認証され、通販会社設立がブームとなった。顧客は広範囲にわたる選択で安価な医薬品が入手出来るようになり、ヘッケン氏の練った構想「競争意識を高める事で、医薬品の価格が下がる」が見事現実化した。

ドイツ薬剤師法によると、一人の薬局経営者(免許を取得した薬剤師のみが経営可能)の所有できる薬局は、3店までとされていた。今まで、薬剤師による医薬品の専門的なアドバイスが売り物、薬品の独占価格で利幅が大きい、というメリットに恵まれていたドイツの個人経営の薬局は、将来ドック・モリスのような法人経営の薬局と共存していかねばならない窮地に立たされた。 


個人経営の薬局にとって、「安価で、薬剤師のアドバイス提供も可能なドック・モリス薬局と競争していくには不利」は歴然である。フランチャイズチェーンとしてドック・モリス薬局の名の元で商売を続けるか、あるいは独自で薬局を続けるか、店舗存続の道を選択する時が来た。通販との競争により売り上げが落ち込み打撃を受けているドイツ薬局経営者達は、ドック・モリス薬局の国内侵入で、正に苦い薬を飲まされることになった。


さらに、ドイツ薬局経営者が直面している苦境に追い討ちをかける事態が発生した。2007年4月、ドイツ・シュツットガルト(Stuttgart)に本社があるヨーロッパ最大医薬品卸売業者セレシオ(Celesio)が、ドック・モリスの90%企業買収をした事だ。


セレシオは、ヨーロッパ13カ国への薬局向け医薬品卸売りをするのみではなく、ヨーロッパ7カ国(主にイギリス内)に2,100店の自社薬局を保有している。また今後ロシア市場の拡張にむけて、薬局買収を交渉中でもある。2006年の売り上げが22億ユーロにも及ぶ大企業のセレシオにとっても、ドック・モリスの知名度と企業ロゴの魅力は大きい。セレシオ社長フリッツ・オエスタール氏(Friz Oesterle)は、ドック・モリスの買収により

  1)ネット販売で顧客に直接医薬品が提供できる
  2)フランチャイズ化することで自社医薬品をドック・モリス薬局へ全品販売が可能
  3)企業拡張が今まで以上にヨーロッパで可能

と見積もっている。


ドイツ薬局経営者達の「医薬品はセレシオから仕入れない」というボイコットを尻目に、ドック・モリス薬局は、今年10月初旬にドイツで50番目の店舗開店を達成した。ドイツ薬事戦争の火付け役となったオエスタール氏は、ドイツの薬剤師達から今一番嫌われているドイツ人である。

 


【関連情報】

○ドック・モリス社
http://www.docmorris.de


○セレシオ社
http://www.celesio.com

 

○Medical Marketing Lab. 週はじめ、気になる医薬品業界ニュース!
 「バロー(*)、改正薬事法にらみ薬剤師を置かない店展開」2007/10/15
http://blogs.dion.ne.jp/lou/archives/6323642.html


○ドラッグストアの薬剤師店長が情報発信!!
 「製薬企業のM&A多発」 2007/10/22
http://plaza.rakuten.co.jp/hapily/diary/200710220000/


○食品スーパーマーケット最新情報 2006/06/12
 「薬事法改正、ドラッグストア24時間営業へ!」
http://pipi.cocolog-nifty.com/pi/2006/06/24_fcb1.html


○薬事日報ウェブサイト
 「薬事法改正が衆院本会議で可決・成立」2006/06/09
http://www.yakuji.co.jp/entry536.html


○CNET  2006/01/19
 医薬品のネット販売14社が厚労省へ要望--「薬事法改正の審議は乱暴で不十分」
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20094800,00.htm


○Itmedia News  2006/01/19
 「薬のネット販売規制案、見直しを」――ネット薬局が要望書
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0601/19/news079.html


○薬剤師のセカンドオピニオン
 「薬事法改正とインターネット販売」 2006/04/28
http://blog.livedoor.jp/drug2006/archives/50438029.html


○うら@らむ 村山らむねの裏ブログ
 「医薬品のネット販売に関する要望」 2006/01/20
http://lamune.cocolog-nifty.com/kaisha/2006/01/__fcc4.html


○[R30]: サラリーマン経営はオーナー経営より強し 2005/04/18
http://shinta.tea-nifty.com/nikki/2005/04/mediceo_b887.html


○IBTimes  2007-06-26
 「米ドラッグストア大手ウォルグリーン、3─5月期は20%増益」
http://jp.ibtimes.com/article/biznews/070626/9039.html


○激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ 2007/07/05
 【ウォルグリーン】特異な専門サービス提供から職場まで提供!?
http://blog.livedoor.jp/usretail/archives/50865086.html


○鈴木敏仁のRetailweb 「ウォルグリーンの年間新店プラン」 2007/09/06
http://retailweb.net/2007/09/post_348.html#trackback

 

 


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