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来日目前!アイアン・メイデンのライヴにおける選曲の工夫とは!?

 前回は音楽をネタにした小説について書きましたが、その反対に、小説をネタに曲作りをするミュージシャンも多数います。

 なかでも、バンドのイメージに合致した絶妙のセレクションで名曲を生み続けているアイアン・メイデン(Iron Maiden)は、その筆頭と言えるでしょう。

 セカンド・アルバム『Killers』(81年)収録の「Murders In The Rue Morgue」は、エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人事件』(新潮文庫)、『Somewhere In Time』(86年)の「Loneliness Of The Long Distance Runner」はアラン・シリトーの『長距離走者の孤独』(新潮文庫)、『X Factor』(95年)の「Lord Of The Flies」はウィリアム・ゴールディングの『蝿の王』(新潮文庫)、『Brave New World』(2000年)のタイトル・トラックはオルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』(講談社文庫)から着想を得ています。

 ハクスリーはドアーズ(The Doors)のバンド名の由来ともなった『知覚の扉』の作者でもありますので、ロック・ファンにはおなじみですね。ちなみに、カッコ内は僕自身が読んだものを挙げましたが、他の出版社から出ているものもあるかもしれません。

 そのアイアン・メイデンが、この2月に来日します。前回の来日は2006年の10月でしたから、彼らのファンでない方にとっては、ずいぶん短い間隔で来るんだな、と思われるでしょう。実は、06年来日時のセット・リストは(昨年4月15日掲載のブログでも簡単に触れましたが)新作『Matter Of Life And Death』の全曲を収録曲順に演奏するというものでした。今回はそれとはまったく異なり、デビュー・アルバムから7作目までの初期の作品に限定した曲を演奏するという構成です。

 ちなみに、バンドにとってこういった“ヒストリー・ツアー”は今回が2度目。前回はデビューから4作目までの楽曲限定で2005年に行なわれました。僕自身もこのプログラムでの来日公演を楽しみにしていましたが、残念ながら日本公演は見送りに…。本国イギリスをはじめ、欧州や南米では圧倒的な人気を誇る彼らだけに、世界規模でみれば決して高いとはいえない日本での人気(それでもアメリカに比べればマシだと思いますが…)は、バンドにとってこういったメモリアル・ライヴを行なうには「今ひとつ」といったところだったのでしょうか。

 30年近くのキャリアを築いてきたバンドにとって、このように新曲と過去の遺産を使い分ける方法は、マンネリを防ぐという意味でも有効でしょう。ベテランともなれば、コンサートに行く前から演奏してくれる曲はある程度、想像がつくというもの。もちろん、いつも演奏されるお目当ての曲を楽しみに足を運ぶお客さんも大勢いるわけですが、何度も同じような内容のショウを見せられては、コアなファンほど飽きてしまう危険性が伴うといったジレンマが生じます。

 最近では、キャリアを積んだアーティストによる、選曲に工夫が感じられるライヴがほかにもいくつかありましたので、印象に残っているものを傾向別にまとめてみましょう。

1. 代表作とされているアルバムの全曲を披露
2. 演奏曲を活動期間のある特定の時期に限定
3. 他ミュージシャンの曲をアルバム一枚分まるごとカヴァー

 1.の代表的な例は、メタリカ(Metallica)とディオ(Dio)ですね。前者は『Master Of Puppets』、後者は『Holy Diver』の全曲を披露しました。

 2.は、初期の曲に限定したアイアン・メイデンもこれに当たりますが、ブラック・サバス(Black Sabbath)は、オジー・オズボーン(Ozzy Osbourne)在籍時のオリジナル・ラインナップに次いで人気のある、ロニー・ジェイムズ・ディオ(Ronnie James Dio)を含んだ編成でのツアーを、ディオ在籍時の曲に限定して行ない、バンド名もディオ在籍時の代表アルバムに由来するヘヴン&ヘル(Heaven & Hell)として、活動しました。昨年、来日公演も行なっています。

 3.は珍しい例ですが、この1月に来日したドリーム・シアター(Dream Theater)は、同じ会場で続けて公演を行なうときは、2日目には自分たちが影響を受けてきた他バンドのアルバム全曲をカヴァーすることで有名です。全曲カヴァーのライヴ音源はCDとしても発売されており、ディープ・パープル『Made In Japan』、ピンク・フロイド『Dark Side Of The Moon』、アイアン・メイデン『Number Of The Beast』、メタリカ『Master Of Puppets』といったタイトルがあります。

 このような工夫を施したライヴの先駆はというと、「過去の曲はもうライヴでは演奏しない」と宣言(ほどなくして撤回されることになりますが…)して、昔の曲への“惜別ツアー”を行なったデイヴィッド・ボウイ(David Bowie)でしょうか。

 いずれにせよ、そのとき限りの特別なライヴとなれば、やはり観ておきたいと思うのがファン心理でしょう。あっと驚かせてくれるようなアイディアは、掘り起こせばまだまだ出てくるかもしれません。

 最後に、個人的な話をひとつ。僕がアイアン・メイデンを初めて見たのは、1987年の彼らにとっては初となる武道館公演でした。音楽もパフォーマンスも衝撃の一言で、そのときの様子は今でも記憶から呼び起こすことができます。6作目『Somewhere In Time』のツアーだったのですが、このアルバムは当時も今もホント大好きですね。




 『Somewhere In Time』の裏ジャケット(抜粋)も併せて載せましょう。「浅田彰」の文字が見えるでしょうか。そう、僕はこのアルバムをきっかけに『構造と力』を手にすることになったのです。「ニューアカ」なんて言葉も知りませんでしたが、音楽に限らず、いろいろな方向へと興味を広げていくきっかけにもなりました。そういう意味でも、僕は彼らにとても恩を感じているんですね。




 最初に挙げたような、アイアン・メイデンが題材にとった小説を読むことは、彼らの音楽を理解するうえでとても参考になると思いますし、彼らは小説のみならず、映画や歴史など、様々な背景を取り込んだ作品作りを行なっているので、そういった点にも留意しつつ、彼らの音楽に接してみると、楽しみは広がり、理解はさらに深まっていくと思います。

 アイアン・メイデンは“ヘヴィ・メタル”の代表バンドとされていますが、実のところ“ヘヴィ・メタル”の一言では括れない多様な音楽性を有しています。そのへんの話もしたいのですが、長くなりましたのでまたの機会に。

 写真は87年の武道館公演で、ドラマーのニコ・マクブレインからもらったスティックです。ふり返ると、今に至る道が、あの時からまっすぐ続いているような気もします(笑)。



 

【関連情報】

○アイアン・メイデン公式サイト
http://www.ironmaiden.com/


○アイアン・メイデン ディスコグラフィー
http://www.geocities.jp/machibow666/ironmaiden/maidendisco.htm

 

 


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