Entry

ベネトンの貧困層へのマイクロクレジット(少額融資)支援はアフリカ戦略の一環か

<記事要約>

ダカールで発表されたところによると、アフリカを代表する音楽家、ユッスー・ンドゥールが、セネガルで貧困層への少額融資(マイクロクレジット)プロジェクト「BIRIMA(ビリマ)」を立ち上げた。

また、同国に店舗を持たないベネトンがこれを財政支援していく。ユッスー・ンドゥールは、この2月から4月にかけての欧州公演において、ベネトンの協力でプロモーション活動を行っていく。融資の際の金利についてベネトンは、事業に支障をきたさないだけの最低限の数値を適応させるつもりだ、と述べた。

2月14日付  L’Espresso紙より


<解説>

ユッスー・ンドゥールは、1959年セネガル生まれ。2007年のタイム紙では、「世界で最も影響力のある100人」のうちのひとりに選ばれている。80年代半ばに世界デビューしたときのアルバムのタイトルが、南アフリカの黒人指導者の名前そのもの「ネルソン・マンデラ」だったり、イラクを攻撃したアメリカに抗議して全米ツアーをキャンセルしたりするなど、氏の掲げる社会信条が常に注目されてきた。その彼が、アフリカの貧困層を少しでも助けようと、マイクロクレジットのプロジェクトを立ち上げたとしても、驚くにはあたらないだろう。

「BIRIMA」は、口数は極端に少ないけれど口にしたことは必ず実行した、という19世紀のセネガルの王子の名前だ。王子の行動にあやかってユッスーがプロジェクトに名付けたという。2000年にはユッスーの楽曲にもなっている。

マイクロクレジットといえば、ノーベル平和賞(2006年)を受賞した、バングラデシュのグラミン銀行とその創始者ムハンマド・ユヌスがよく知られるところだが、これをアフリカ・セネガルに適用させようというわけだ。

このプロジェクトに資金援助するというベネトンは、ときに目をそむけたくなるような奇抜な広告で、見る人の度肝を抜いてきたことで日本でも著名だ。イタリアではむしろ、アウトストラーデ(イタリア高速道路)、アウトグリル(高速インターに展開する飲食チェーン)をも経営する巨大企業グループとして知られる。国鉄の主要駅や空港の経営にも資本参加し、メッシーナ海峡橋建設、モーゼ(ヴェネツィアの高潮対策の水門)建設など巨大プロジェクトには必ずといっていいほどかかわっている。

海外では衣料品の店舗展開だけかというとそうではない。南米パタゴニアの土地(約85万ヘクタール)を購入し、衣料品の原料を自前で調達するかたわら、観光客誘致を狙った鉄道駅開設への投資や、食肉輸出まで手がけている。しかし、居住権を主張する先住民と争い、解決の目処はいまだに立っていない。

2006年8月のラ・レプッブリカ紙によると、ベネトン創立40周年記念式典を迎えるにあたって創始者ルチアーノ・べネトンがこう語っている。

「(ベネトンの世界戦略として)アフリカがまだ残っている。貧困・飢餓・女性差別の残っている地域に進出したい。」

今や世界120カ国に5000もの店舗を展開する、アパレル企業としての目標を述べているだけだといわれればそれまでなのだが、今この記事を読むと、マイクロクレジット支援はアフリカに金融資本として進出するための布石なのではないか、と思えてならない。

利潤を追求する企業と、母国の貧困をなくそうと願う音楽家ユッスーが、どう折り合って共同作業していくのか、注目されるところだ。

 

L’Espresso (2008.2.14)
http://espresso.repubblica.it/dettaglio-local/Benetton-punta-sul-futuro-dell-Africa/1989048/6

La Repubblica (2006.8.27)
http://www.repubblica.it/2006/08/sezioni/persone/benetton/benetton/benetton.html

ユッスー・ンドゥールの楽曲「BIRIMA」(YouTube映像 03:58)
http://jp.youtube.com/watch?v=1zA4T6LzZtU

ユッスー・ンドゥール公式サイト
http://www.youssou.com/

オリビエロ・トスカーニによるベネトンの広告
http://www.ne.jp/asahi/box/kuro/report/benettonad.htm

モードの世紀(ベネトンの歴史・用語についての解説)
http://www.mode21.com/brand/benetton.html

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○Atmosphere 「EVENT: Fabrica: Les Yeux Ouverts」2008/01/15
 ファブリカは、1994年に、ルチアーノ・ベネトンとオリビエロ・トスカーニ
 によって設立された実験的で革新的なベネトンのコミュニケーション・
 リサーチ・センターで、文化と産業をつなげることを目的に、いまだかつて
 ない方法で、世界中の100以上の国でおこなわれている、一つのグループの
 実験的な活動である。1月18日から東京にて下記の展示会が開催されている。

 <FABRICA LES YEUX OUVERTS>
  将来を見据えた目
  開催日: 2008年1月18日(金)─ 3月2日(日)
  会場:東京 汐留 Shiodomeitaliaクリエイティブ・センター EXPO700
http://gas.main.jp/atmosphere/2008/01/event_fabrica_les_yeux_ouverts_1.html


○DENZOUつづり 2006/07/14
 「広告は私たちに微笑みかける死体」
 現実の社会問題や個人の悩みとは無縁の広告が氾濫する状況について、
 「視聴者を欺いている」「見る者を現実から逃避させ愚かにする」と
 手厳しい批判を様々な場でくり返す。
http://green.ap.teacup.com/applet/denzou-tsuduri21/35/trackback


○K STYLE WEBSITE::BLOG  2008/02/19
 「ベネトン、マイクロクレジット・キャンペーンを開始」 
http://kstyle.s57.xrea.com/2008/02/post_482.php


○DesignWorks 2007/10/24 
 ベネトンから地球環境に配慮した「MY HASHI」が登場
http://designwork-s.com/article/62242725.html


○日経デザイン 2007/02/05
 「ウィルコムがベネトンブランド取り入れたPHS端末発売」
http://blog.nikkeibp.co.jp/nd/news/2007/02/119421.shtml


○Benetton 40th Anniversary Fabrica Showreel(YouTube映像 02:10)
http://www.youtube.com/watch?v=ikWMs01thI4


○Benetton Print Ads(YouTube映像 02:29)
http://www.youtube.com/watch?v=9aPiJVgfwxY

 

○アンカテ(Uncategorizable Blog) 2007/11/28
 「グラミンフォンが営利事業として成立する理由」
 「発展途上国で携帯電話」という話を聞いたら、それも、援助や福祉
 ではなく利益を生み出す事業として運営するという話を聞いたら、
 誰でもまず疑いの目で見ると思います。でも実は、投資というのは、
 先進国より途上国の方が有利な面があるのです。
http://d.hatena.ne.jp/essa/20071128/1196210713


○池田信夫blog  「高利貸しが最貧国を救う」2006/10/15
 そのしくみは、債務者に5人ぐらいのグループを組ませ、共同で返済の
 連帯責任を負わせるものである。グループのうち、だれかの返済が滞ると、
 他のメンバーが代わって返済する責任を負い、債務不履行が起こると、
 そのグループに所属する人は二度と融資してもらえない。しかしちゃんと
 返済すれば、融資額は次第に大きくなる。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/539fc1e27cb834f65da8069988fca07c


○Don't trust under 30. 2006/08/10
 「YOUSSOU N’DOUR @ 昭和女子大人見記念講堂 8/6(日) 2006」
http://blacksmoke.exblog.jp/3029707/


○ある女子大教授の つぶやき 「世界の100人」2007/05/04
 5月14日号のタイム誌で、世界で最も影響力のある100人を紹介している。
http://iiaoki.jugem.jp/?eid=854

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/577