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森林浴から森林セラピーへ─森林を活用した健康づくりが始まった!

  • グリーンフラスコ株式会社 代表・薬剤師 
  • 林 真一郎

ひと昔前に「森林浴」という言葉が流行した。森の中にはフィトンチッドと呼ばれる揮発性の物質が漂っている。「フィトン」は植物、「チッド」は殺菌の意味。森の中の空気が澄み渡っているのはそのためだ。誰でも森の中に入って生き返ったような気分になったことが、一度や二度はあるだろう。

なぜ、ヒトは森に入ると「生き返る」のだろうか? その答のひとつに五感への快い刺激があるようだ。視覚では広葉樹や針葉樹の葉の緑、嗅覚ではヒノキやヒバ、マツやモミの精油の香り、さらには土やコケの匂いも楽しめる。聴覚では葉のすれ合う音や川のせせらぎ、野鳥のさえずり、触覚では木肌やふだんとはちがう大地の感覚、それに、キノコや山菜で舌づつみも楽しめる。さらには、心地よい風や木洩れ日が私たちの生命感覚を見事なまでに呼び覚ましてくれるのだ。最近では、森林浴ツアーによってヒトの免疫力がアップしたなどの森林効果の科学的な検証も行われている。

こうした中で林野庁の助言を受け、国土緑化推進機構内に事務局を置く森林セラピー実行委員会では、森林セラピー基地と森林セラピーロードの認定をスタートさせた。森林セラピー基地とは、専門家によるフィールド実験によってリラックス効果が実証され、さらに、医療面、宿泊施設などについても審査の上、認定されたエリアを指す。

一方、森林セラピーロードとは、専門家によるフィールド実験によってリラックス効果が実証され、審査の上、認定された散策路を指す。森林セラピー基地では、健康増進とリラックスを目的としたさまざまな森林セラピープログラムを用意しており、利用者は森林浴の他にもいろいろな健康増進プログラムやイベントを楽しむことができるのだ。
現在までのところ、森林セラピー基地は長野県の飯山市や沖縄県の国頭村など全国で17ヶ所が、そして、森林セラピーロードは全国で7ヶ所が認定を受けている。(森林セラピーポータルサイトhttp://forest-therapy.jp/

こうした公的な動きの一方、市民の自由な研究会として2002年4月に発足した「森林療法研究会」が2007年にNPO法人の認承を受け「NPO法人日本森林療法協会(東京農業大学准教授 上原巌理事長)」となって、森林療法の普及をめざして積極的な活動を行っている。

この協会では、活動の目的として
 1)森林を活用した健康づくりに関する情報の収集・提供事業
 2)研究事業
 3)人材育成事業
 4)普及啓発事業
 5)地域における推進方策の検討・支援事業などを行うことによって、
  広く市民の健康増進に寄与することをあげ、1.医療部会、2.福祉・
  療育部会、3.森林・自然ガイド部会、4.団体交流部会などの部会ごとに活動している。
  (NPO法人日本森林療法協会http://www.janis.or.jp/users/bigrock/


最近ではメタボリックシンドロームが話題になっているが、それ以上に深刻なのが職場のメンタルヘルスだろう。従業員1000人以上の大企業の約8割にメンタルヘルス不全で1ヶ月以上の休職者がいる。森林療法は心と体の両面に効用が得られることから、予防医学の実践例として大いに期待されている。

とは言え、従業員が森林療法を体験できるような時間や費用面での支援がなければ森林セラピー基地や森林セラピーロードも「絵に描いた餅」に終わってしまうだろう。この点、予防医学の重要性に早くから気づき、国をあげて体制を整備してきたドイツでは、森林などの自然環境を活用した健康保養地が古くから形成され、国民は4年に1度、健康保険の補助を受けながら健康保養地を3週間程度訪れることができる制度が定着している。

医療における治療から予防へのシフトは、水面下でかなりの速度で進行している。
「森林は自然のホスピタル」─ 間近にせまった連休には、森林セラピー基地に行くのも良いだろう。
(参考文献:『森林セラピーへのいざない』国土緑化推進機構)

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○森林ジャーナリスト・田中淳夫  だれが日本の「森と木と田舎」を殺すのか
 「花粉症ツアー」 2008/03/16
 ご主人は、花粉症なのだそうだ。それなのにスギだらけの吉野に? 
 と言いたいところだが、実は大阪では酷い症状が出るのに、吉野に
 来るとピタリと止まるという。だから春に吉野に通うのは、花粉症
 からの脱出でもあるのだ。不思議だが、この手の症状は、結構ある。
 実際に花粉症とディーゼル微粒子の関係を指摘する研究もあるし、
 花粉症患者が山村よりも都会に多いという厳然たる事実もある。
http://ikoma.cocolog-nifty.com/moritoinaka/2008/03/post_5b73.html


○和の香り研究所.blog 「銀座で森林体験」 2008/03/10
http://wanokaori.blog.ocn.ne.jp/waroma/2008/03/post_2d31.html


○南紀地方の山林.「素晴らしいドイツの森林セラピー」2007/12/16
 ドイツにはセバスチャン・クナイプによって提唱された「クナイプ療法」
 という自然療法があり、その重要な柱としてて森林セラピーが早くから
 行われています。これは世界の森林セラピー先進事例の中でも特に有名です。
 現在、ドイツ国内には64ヵ所の森林セラピー保養地があり、これらに
 クナイプ医師連盟が調査・設計を行ったセラーピー専用の森林散策コースが
 あります。又、64箇所の保養地にある保養宿泊施設の全てで医師が往診・
 常勤できる仕組みとなっています。
http://blogs.yahoo.co.jp/likenew99/folder/127332.html


○海と空、そして太陽 「赤沢自然休養林(その4)」 2007/09/26
 赤沢自然休養林は「森林浴発祥の地」と言われていますが、それは
 昭和57年10月に初めて゛森林浴゛の集いが開催されたことに由来
 しています。ちなみに“森林浴”の集いは現在でも続いています。
http://blogs.yahoo.co.jp/seasky_sun/22147943.html


○10ちゃん心 「もし部下がうつになったら」 2007/07/28
 おわりにで、企業の社会的責任(CSR)と組織的メンタルヘルス対策に
 触れており、大事な視点が(簡単にだが)確認されている。「CSR概念
 での社員の保護、労働衛生の充実」であり、それがひいては、企業の
 生産性と業績向上につながるという指摘である。
http://10chan-kokoro.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_fc11.html


○身延山ロープウェイ通信  「森林浴のススメ」2006/06/25
 身延山山頂の展望歩道は、時代を感じさせる立派な杉古木の森を縫って
 道が通っています。身延山山頂は山麓との標高差が763mあり、元々、
 気温も5から6度程低いので、真夏でも涼しいのですが、杉に囲まれた
 展望歩道は直射日光が遮られ、更に涼しく感じられます。とは言え、
 展望歩道はただ単に「涼しい」だけじゃ無いんです。
http://minobusanr.exblog.jp/5107659/


○I Love NIPPON 「森林浴の森100選」 2006/05/22
http://a-eda.net/blognippon/2006/05/22-221228.php


○夕刊フジblog「森林浴で、がん予防」 2005/11
http://www.yukan-fuji.com/archives/2005/11/post_3835.html

 


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森林浴の森100選 2008年03月31日 16:56
森林浴を楽しむ場所が近くにあることはいいことだ。 昔はあらゆるところにあったが、次第に都市開発の対象...