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ジェネリック薬(後発医薬品)をめぐって

  • グリーンフラスコ株式会社 代表・薬剤師 
  • 林 真一郎

ジェネリック薬とは、新薬の特許が切れた後に同じ有効成分で他の製薬会社が売り出す薬のことで「後発医薬品」と訳される。新薬の開発には巨大なコストがかかるが、ジェネリック薬のメーカーはそうした負担がないため、先発品に比べて安く売り出すことができるのだ。価格が新薬の2から7割だから、医療費が生活費を圧迫する病人やその家族にとっては魅力的な話だ。

ところが、わが国ではジェネリック薬の普及が著しく遅れている。具体的な数字で説明しよう。ジェネリック薬の普及率は米国63.0%、英国59.0%、ドイツ56.0%、フランス39.0%に対して、わが国はなんと16.9%だ(2006年数量ベース)。この数字の低さの原因は、ジェネリック薬に対する誤解と抵抗勢力の存在にある。

「安い代わりに副作用が多い。」、「先発品に比べて品質が劣るから安いのだ。」といった誤解だ。ジェネリック薬とはいえ、国がその有効性と安全性を認めたから医薬品として承認されているわけで、「ジェネリック薬イコール安かろう悪かろう」というのは全くの誤解だ。

そもそもジェネリック薬の中には新薬メーカーの製造ラインを使って製造されたものさえあるという。抵抗勢力の代表は新薬メーカーとそれに加担する医療従事者だ。ある外資系の新薬メーカーが、MR(医薬情報担当者)を使ってジェネリック薬の品質にあたかも問題があるような情報を流したため、厚生労働省から注意を受けたことがある。

もっともジェネリック薬メーカーにも改善すべきことはある。一般に巨大な資本力を背景とする新薬メーカーに対して、ジェネリック薬メーカーは規模が小さい。このため品切れを起こしやすいという弱点がある。この点では厚生労働省からジェネリック薬メーカーに対して、安定供給ができるような指導が行われている。

ところで、わが国の国民医療費は2005年度で約33兆円となっていて、毎年1兆円のペースで伸び続けている。そのうち薬が占める割合は約2割だが、薬代の削減はそのまま医療費の削減に結びつく。ある試算によれば、ジェネリック薬の価格を新薬の50%として、普及率を今の16.9%から30%に上げると5000億円、40%に上げると8800億円も薬代を削減できるという。

さて、ジェネリック薬の普及が遅れたもうひとつの理由に厚生労働省の政策がある(と私は思う)。わが国の新薬メーカーに十分な利益をもたらすことで研究開発費を確保させ、国際競争力をつけさせようという思惑だ。

話は横道にそれるが、薬害の問題などを追っていると、厚労省は国民の方を向いているのか企業の方を向いているのか疑問に思うことがよくある。製薬業界だけではないが、戦後の復興期から全ての業界で産業振興策がとられ、今に続いているようだ。「厚労省に文句を言いに行ったら、厚労省は通産省の一部門だった。」というブラックジョークがあるほどだ。

だが、ここに来て風向きが変わった。医療費の増大から背に腹は代えられず、たとえ新薬メーカーのいくつかが市場で淘汰されても、それはそれで仕方がない。それよりも、医療費削減に結びつくジェネリック薬メーカーを育成しようというわけだ。

最後にジェネリック薬をめぐる問題の本質について述べよう。ひとことで言うと、それは医療において医療サービスのユーザー(消費者)である患者が主導権を握るということだ。

今までの医療は「お任せ」だった。薬はすべて医療サービスのプロバイダーたる医療従事者(医師や薬剤師)が決めていた。だが、考えてみて欲しい。洋服やハンドバッグを買うときに、好みと価格で選ぶのは消費者の権利だ。同じものなら安い方を選ぶのはあたりまえのことだろう。「お任せ」が成立したのは国民性もあるが、医薬品の効能や副作用などの情報をプロバイダー側が独占していたからだ。

医療においても健全な市場原理を導入すべきだ。医療を聖域化してはいけない。聖域どころか、誰でもいつかは病気になり医療サービスを受けるのだから。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Medical Marketing Lab. 「日本の売上下位メーカーの今後」 2007/10/26
 売上10億円未満の企業は、ほとんどがジェネリック・メーカーですから、
 日本のジェネリック・メーカーの淘汰は、新薬メーカー以上に激烈なもの
 になると思われます。新薬メーカーと異なり研究開発費の負担は軽い
 のですが、利益率が低いため、上記のグローバル・メーカーとの競争が
 激化していった場合、外資の傘下に入る選択を迫られそうです。
http://blogs.dion.ne.jp/lou/archives/6369124.html


○薬事日報 「後発品、薬局・薬剤師が試される時」 2008/03/17
 薬剤師の勧める後発薬がブランド力を持つには、薬剤師が地道に実力を
 身につけていく必要がある。4月以降、後発医薬品は薬剤師に任された。
 その責任も含めて。
http://www.yakuji.co.jp/entry6125.html

 

 


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