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「メディアプロデューサー」に求められる紙媒体、ネットの枠を越えた情報デザイン

  • MediaSabor 編集部

インターネットにより、無名だった企業や商品、人物、作品、埋もれていた情報などが、ちょっとしたきっかけで浮上しやすくなったといわれています。ネットユーザー間での話題の盛り上がりにより、後追いで、マスメディアがその情報を取上げるという事例も増えています。最近の事例を挙げれば、野球のWBC監督が北京オリンピックに続いて、星野氏に決まるような情勢となった際に、ネットから批判が巻き起こり、マスメディアもそれに追随せざるをえなくなったことがらは、ネットの影響力が高まっていることを感じさせます。

但し、人々がネットで検索したり、アクセスする情報の多くは、マスメディアで話題になっている情報、マスメディア露出の多い人物になっているため、いまだマスメディアの影響力は多大であることに変わりありません。タレント、著名人などの日常を綴ったような何でもない個人ブログに、驚くようなアクセスが集まることをみても、それは明らかです。

ネットでの情報接触態度は、テレビなどに比して、能動的要素が大きいため、自分が興味を持っている分野、好きなもの、趣味としているものに対して検索、アクセスすることが多く、偶然性はその分少なくなります。

したがって、情報発信側が、「このアーティストはおすすめです」と強調したとしても、当該アーティストの知名度や話題性により、アクセス数が大きく影響されます。たとえば、音楽プロデューサー 小室哲哉氏については、音楽面での話題性はここのところ乏しかったのですが、楽曲著作権詐欺事件があったことにより、ネット上においても過去の業績やビジネス面で関係のあったレコード会社、アーティストなどの情報に関心が集まりました。また、「音楽著作権」「音楽出版社のビジネス形態」といったテーマの記事にも多くのアクセスがあったという現象がみられました。

このように、ネットにおいてアクセスを集めるには、世間での話題性、関心、流行を考慮した「機を見るに敏」なテーマ設定が手っ取り早いということになります。

ネット起点でロングテール的な商品、話題を広めていくことは、まだまだハードルが高く、コミュニケーション・デザインを工夫していく必要があります。ネットユーザー間で話題が盛り上がるかどうかは、偶然性の要素が強いためです。

商業ベースのオンラインメディアに、テレビ番組のような事件、スキャンダル、芸能、スポーツ系の情報が溢れる傾向にあるのは、読者の関心を惹くための最短距離を走っているからであり、欧米に比して、政治・社会問題への関心が低く、固いテーマが特定層を除いてあまり好まれない(読まれない)現実が存在します。

しかし、このような刹那的で扇情的な情報ばかりが注目され、それで多数の人が満足してしまうようであれば、あるテーマに対して深堀した分析的な記事に取り組むメディアは育ちにくく、網羅性に優れている一部のポータルサイトに注目度が偏ってしまう懸念があります。

つまり、ネット空間は、多様で個性的な情報が溢れているから面白いといわれていたにもかかわらず、こと商業メディアに関しては、質が高まることなく没個性化が進んでしまう可能性が高いということになります。

商業メディアではない個人ブログの中に、優れた内容のものがあるからそれでいいではないか、という意見もあるでしょう。けれども、それらをうまく取捨選択しつつ、フレキシブルに情報収集、活用しているネットユーザーは、リテラシーの高い特定層に偏っているのではないでしょうか。RSSやソーシャルブックマークなどを複合的に駆使できる層は、まだまだ多いとはいえない様相です。個人ブログは、確かにマスメディアにはない独自の視点で書かれていたりして参考になることもありますが、一定の質が保たれるかどうかという点について、過度な期待はできません。

現在は、情報量が爆発的に増えすぎたために、かえって、求める情報に辿り着きにくくなっています。そのため、情報収集の時間節約をしなければならず、手軽にポータルサイトへのアクセスで済ませてしまうという行動になりがちです。

このような状況を打破していくために中小の媒体は、ネットユーザーとのコミュニケーション・デザインを見直していかなければならないでしょう。ネット上のオピニオン、分析記事の内容を充実化させていくには、何が必要なのでしょうか。

ひとつ考えられることは、会社や紙媒体、ネット媒体の枠を越えた情報発信をデザインする「メディアプロデューサー」の台頭です。

フリーペーパー含め、雑誌媒体各誌の編集サイドの多くは、独自のテイスト、視点にこだわるあまり、他誌、ネットメディアとの連携には積極的ではありません。が、コンシューマーの情報接触態度が様変わりしてしまった現代においては、雑誌の優位性、オンラインメディアの特性をお互い補い合いながら、横断的なテーマ企画、特集を組むなどして、読者のダイレクトな反応を観察し、ノウハウを蓄積するという方策が考えられます。そこから、さらに新たなビジネス展開に発展していくこともあります。

メディア多様化の時代にあっては、雑誌側、ネット側ともに、特定の入れ物にこだわることなく、シームレスな情報発信、連携を推し進めることで、小さくとも影響力のある個性的なメディアを目指すべきであると思量します。

 

 


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