（記事概要）

　コーヒーメーカー機能付携帯電話という仰天の発明品が今話題を呼んでいる。Pomegranate NS08と名付けられたこの商品は、従来の電話、カメラ、音楽、GPS、ビデオ機能の他に、コーヒーメーカー、翻訳機、プロジェクター、さらには、髭そりやハーモニカ機能まで備えているという驚きの万能携帯電話なのだ。

　この商品をインターネットでPRしているのは、カナダ東海岸にあるノバ・スコシア州政府。狙いは、世界初、夢の万能携帯電話で大儲け!!　ではなく、どうやら企業誘致のようだ。

（Canadian Press　2008年11月10日）
カナダ最大のニュース配信専門会社。カナダ国内外のニュースを世界に向けて配信している。

（解説）

　こんな夢のような携帯電話が実在するわけがない?!　と疑っている人、もちろん、その通り。これはノバ・スコシア州政府が州への企業誘致のために仕掛けたアイデア広告だ。

　この広告を見たガジェット好きのマニアが飛びつくと、サイトは次から次へと携帯電話の最新機能を紹介していく。コーヒーメーカー機能ではフレーバーまで選択できる。そして、すべての機能をチェックして、『すべて見ました』をクリックすると、『こんな電話があったらいいね』と画面に流れ、そこから州政府ホームページにリンクするという仕組みだ。ここでまんまと騙されたことに気づくのである。

　デザイン・制作したのは、ノバ・スコッシア州のジェフ・ホワイトさん。「クリエイターにとってこんなに楽しいコンセプトはないが、ビジュアル的に面白いPR作品を州政府のマーケティング広告と結びつけるのが難しかった」と語っている。

　州政府の広告担当ステイシー・ジョーンズオクスナーさんは、スマートフォンが何かと話題の昨今、このコンセプトは使えると思ったという。特に最新テクノロジーに敏感な人々をターゲットにした狙いが見事に的中したとも。制作費用は30万ドル（1カナダドル約80円＝約2400万円）。9月30日から始めたPR活動は、これまでにアクセス数が21万件にものぼっているという。

　こんな斬新なアイデア広告をあんな小さな州の政府が思いつくことに驚いた。この州自体を知らない人も多いだろう。ノバ・スコシア州は大西洋に面したカナダ東海岸の州で、ここバンクーバーからは直行便でも最低7時間はかかるほど遠く、時差も4時間ある。トロントやニューヨークなどのESTよりもさらに1時間東側だ。州都はハリファックス市、州面積5万5千平方キロメートル、人口91万人。すぐ北には赤毛のアンで有名なプリンス・エドワード・アイランド州がある。

　小さな州の割には産業に恵まれていて、漁業を始め、林業、鉱業、それに近隣の海岸では石油も生産され、最近では、最新の研究施設や技術開発などにも力を入れている。こうした豊かな産業への企業誘致を目的としたのが今回の偽携帯電話PR作戦というわけだ。

　州政府はPR活動として、ウェブアドレスを付けたPomegranates（ザクロ）をオタワ、トロント、ボストンで実際に手渡ししたというから面白い。私たちメディアも、こうして取り上げ、日本にノバ・スコシア州の存在を紹介しているだけでも、彼らの術中にすっかりはまってしまっているということだろうか。景気後退でメディア広告が削られるニュースばかりが駆け巡るこの頃だが、斬新なアイデア広告には人々は敏感ということだろう。ただ、この広告の成果のほどはまだ先になりそうだが。

　ところでこの携帯電話、実現しないだろうかというのもマニアの間で話題になっているらしい。もし実現するとしたらどの機能がほしいだろうか。私はやっぱり、Global Voice Translatorだ。電話のマイクに向かって話しかけると、あらかじめ選択しておいた言語で、受話器の裏側にあるスピーカーから翻訳された文章が聞こえてくるという仕組み。これがあれば海外旅行で言葉に不自由することはない。実現すればぜひ手にしてみたい夢のアイテムである。

この万能携帯電話に興味がある人はこちらのウェブサイトへ。http://www.pomegranatephone.com/