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ヨーロッパで“二番目に幸せ”な国、フィンランド

 OECD(経済協力開発機構)の学力調査、国際競争力ランキング、環境維持力・・・・・・と、この世の中、国と国を比べる調査のなんと多いことか。その中の一つに、「ヨーロッパ国内における生活の質調査(European Quality of Life Survey)」なるものがある。この調査は、ユーロファンド(Eurofound)という、ヨーロッパの生活と労働の状況改善を目指す団体が主催しているもので、調査対象は、EU27ヵ国と、クロアチア、マケドニア、トルコにノルウェーも含む、合計31ヵ国の成人35000人である。

 この欧州各国の“幸せ比べ”調査の歴史は浅く、第一回目は、EU25カ国を含む28カ国を対象に、2003年に調査を開始し、2004年に結果を発表。11月に結果が発表された今回の調査は、記念すべき第二回目である。そしてこの二回に渡って、第一位はデンマーク、第二位はフィンランド、と実に北欧勢が優秀な成績を収めているのだ。

 調査の分析によると、これらの北欧諸国では、収入の差がある人々の間でも、幸せの定義や価値観が一致していて、人間関係や健康の方が、お金やモノを所有することよりも大事に思う価値観が強いということが、明らかになった。また、これとは相対的に、イギリス、アイルランド、ルクセンブルグなどの、一国民の所持金が、北欧諸国の平均を上回っている国々の方が、自分達の生活の質を低い、つまり、“不幸せ”と感じているという。

 モノへの執着の薄さを表す端的な例を紹介すると、フィンランドにはブランド崇拝が無い。日本ではあまり知られていない北欧ブランドがあることはあるのだが、ブランド物を買うことに、人々はあまり価値を見出していない。日本でよく知られるヴィトンなどは、若い女性達を中心に4年ほど前からじわじわ浸透してきて、今年やっと、ヘルシンキに店舗を構えたばかりだ。その他の有名ブランドも、ストックマンデパートや、ヘルシンキ中心部で販売されてはいるものの、日本ほどバリエーションもセグメンテーションも豊富ではない。こんな環境では、お金をいくら持っていても、身につけるモノでそれを誇示する機会などほとんどないのだ。「なんで、この馬のマークが付いたシャツがこんなに高いの?」――こういう一般フィンランド人の感覚は、実にすがすがしい。

 さて、この輝かしい二年連続第二位獲得の知らせは、二言目には「北のはずれの小国」と自らを卑下するフィンランド人には、にわかに信じがたいものだったようだが、この調査では、フィンランド人の精神衛生が、他のEU諸国の平均値と大して変わらなかったことも判明した。若者の自殺率の高さを誇るフィンランド(注:フィンランド流“自虐”ギャグ)にとって、それは、とても良い知らせであった。これとはまた対照的に、自殺率の低いギリシアで、人々の精神面を含む健康に対する自信が最も低かったというのだから興味深い。

 この調査の結果をうのみにすれば、日本の約9割の大きさの国土に、人口520万人という国の規模の小ささから、自己評価が低く、メランコリックな国民性から、批判精神が人一倍高いフィンランド人が、自らの“生活の質”が高いと肯定できている幸せな時代が、2003年から続いているということになる。が、そこですかさず、「では、フィンランドはデンマークの何に負けているのか」とフィンランド人に聞くと、答えは、「食べ物の味付け」とのことだった。

 フィンランド人曰く、デンマーク人とは、死を恐れず、ちまちました健康管理にとらわれることなく、フライドポテトに思い切り塩をかける国民性だとかで、それゆえに一回きりの人生を太っ腹に謳歌することができるのだという。なるほど、確かに、フィンランド料理は、脂身のないフィレ肉、動物性より植物性の油やクリームを使って、離乳食や病院食と同じぐらいにマイルドな味付け(つまり、ほとんど塩気が無い)のものが多い。それに引き換え、かつて訪れたデンマークでは、コペンハーゲンのレストランで出されたリブステーキと付け合わせのフライドポテトにはしっかり塩味が利いていて、確かに食べ応えあるものだった。

 欧州での調査なので含まれていないが、塩味の強さだけでなく、食べ物が美味しいとフィンランド人からも評価される日本が調査の対象に入っていたら、一体何位にランクインすることだろう。世界恐慌も始まろうという先が見えない年末となってしまったが、日・フィン両国の皆様、来年も美味しいものを食べてなんとか乗り切りましょう。思い切り甲斐性を見せて味付けを濃くするか、自愛の精神で控えめにするかは、あなた次第。――そして、何よりも幸福の秘訣は、「モノやお金に執着しないこと」ですぞ。

 

 


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