Entry

「テレビは家で見るもの」と考える――フィンランドのケータイ事情

 “世界の携帯端末のシェア40%のノキア”、“IT先進国”などのキーワードから「フィンランド人って、どんなモバイルライフを送ってるの!?」――と、そんな熱い期待を持つ人がいるかもしれない。

 昔むかし、1999年末のこと。ヘルシンキ・ヴァンター空港から高速バスに乗り込み、早速、フィンランド人が使っている携帯に熱い視線を向けると――日本とはマナーが違うらしく、車内でも老若男女が思いっきり通話中。そして、人々が手にしている携帯という携帯が、「通話できれば十分」という、いたって簡素な機種だった。ノキア社内にて、社員達が使っていた当時の世界最小モデルや超小型のノートパソコンのようなコミュニケーターを見て、やっと、 「やっぱりIT先進国」と納得したものである。

 2000年には、秋葉原視察に来たノキア本社のフィンランド人達が、当時日本で流行り始めていた折り畳み式を手に取り、「なんで折りたいかねぇ」と首をかしげた。さらに彼らが、欧州では大ヒットした外装の付け替えが可能なタイプを日本でも提案しようとしたところ、「カバーの取り外しは修理行為に当たるのでダメ」とはねつけられ、苦い文化摩擦を経験した。――ケータイ、コレ、文化ナリ――。

 10年前でこれだけの違いを見せていた両国のケータイ事情だが、デジタル化突入の第二世代携帯(2G)の時代に、日本が欧州の統一通信方式であるGSMではなく、日本国内だけで使用が可能なPDCという方式を採用したことから、日本のケータイは、いよいよどこの国とも足並みを揃えず独自の道を歩み始めた。人々の生活に欠かせない公共交通機関の利用時に、マナーモードが義務付けられている環境は、ケータイコンテンツの利用を促すにはうってつけの土壌となり、ビジネスは着実に花を咲かせている。

 一方、車社会のフィンランドでは、通勤時のケータイの利用法は、耳にヘッドセットを挿しながらの通話が主流だ。少数派である電車族も、マナーモードの義務付けがないため、やはり通話が中心。朝のラッシュ時でも座れる車内では、3人掛けのゆったりとした座席で分厚い本や、各交通機関共通のフリーペーパーを広げ、ニュースや天気予報をチェックする人が目立ち、音楽を聴くのに使われているのはMP3がほとんどで、ケータイの出番があまり無い。文字によるやりとりは、メールより、相手の電話番号さえわかれば送受信が可能なSMS(ショートメッセージ)が定着している。

 そのフィンランドに、もっとハイテクなモバイルライフを普及させるにはどうすればいいか。2007年、大手キャリアのElisaはモバイルTVの使用を促すテレビCMを流している。――昔むかし、パパが若い頃、見逃せないテレビ番組があるのに、うっかり娘とキャンプに出かける約束をしてしまいました。――その娘が大きくなって友達とキャンプに出かけるようになると、片手にはケータイが――これでテントの中でもテレビが見られます――といった具合に。

 その成果があってかなくてか、2007年12月発表のノキアの調査によると、21%のフィンランド人がモバイルTVを利用しているものの、依然として94%ものフィンランド人が、テレビは自宅のテレビで見ているという結果が出た。北欧では、厳しい気候条件のもと、家でまったりテレビを見るというライフスタイルが定着しているのが原因だという。テレビといえば、ニュースから宝くじの当選番号まであらゆる情報が流れている文字放送、テキストTVの存在も大きい。テレビで見逃した情報は、リモコン一つでテキストTVから確認すれば良いので、ここでもケータイの出番が一歩遠のく。

 この他、ケータイからのSNSへのアクセスが54%、チャットの利用が31%など、ケータイの利用法のバラエティーがイマイチ乏しいフィンランドだが、一つだけ、目覚ましい変化を遂げた部分がある。Eメールがケータイで直接送受信が可能になり、帰宅後も週末も仕事に追われるフィンランド人が増加したのだ。慌てて職場のメールが読めないように設定しなおした人もいるほど、家族生活を重視するフィンランド人にとってはあまり歓迎すべき動きではなかったが、日本のように、携帯メールとの二刀流なんて複雑な事態を経験せず、既存メールアドレスのケータイへの設定が可能であることによる、このダイナミックな変化は、傍目にはちょっとカッコ良かった。

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/962