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開発が進む純国産インフルエンザ治療薬の現況と感染予防対策

 このほど、CS-8958という純国産のインフルエンザ治療薬が第III相試験に入った。院内感染の有効な対策などを迫られている臨床現場も認可への動向に注目している。また同じく純国産のT-705も現在第II相試験を実施中で、日米共同開発のPeramivirという注射薬も日本では第III相試験に入っている。中でもCS-8958というインフルエンザ治療薬の特徴は、リレンザのようにドライパウダー吸入器で吸入するタイプの薬で、直接肺の細胞に作用する。たった一回の投与で治療、予防を兼ね長時間作用が持続するといわれている。

 第III相試験というのは、医薬品の製造販売申請を行う際に義務付けられた治験の3つの段階のうち、実際の治療に近い形での効果と安全性を確認するための最終段階のテストで
フェーズIIIとも呼ばれるもの。

 こうした新薬の開発がここにきて注目されている背景には、今まで鳥類の間でしか感染が確認されていなかった鳥インフルエンザウイルスが近年人間に感染するようになってきたこと。そしてこのウイルスがさらに変異して、ヒトからヒトに感染する新型の鳥インフルエンザウイルスになる可能性があることなどが危惧されているからだ。

 さらに、もう一つの重大な問題として2001年に認可された経口インフルエンザ治療薬のタミフル(一般名:リン酸オセルタミビル)が効かない耐性インフルエンザ株が増えていることが挙げられる。

 2009年1月5日に北京市の女性(19歳)が鳥インフルエンザ(H5N1型)ウイルスに感染して死亡したと、北京市と香港の保険当局が先月発表した。新華社の報道では、この女性は河北省の市場でアヒル9羽を購入し、内臓を取り出すなどの処理をしたという。また、翌日の1月6日、今度はベトナム中部のタインホア省に住む8歳の女児が、病気の鶏を食べて鳥インフルエンザ(H5N1型)ウイルスに感染したことを、ベトナム国家鳥インフルエンザ防止指導委員会のメンバーが確認したと発表。女児は治療を受け、幸い容態は安定しているという。

 国立感染症研究所の統計によると、日本でのインフルエンザウイルスの流行のピークは2月初旬で、罹患率が高いのは5歳から10歳までの小児、逆に死亡率がもっとも高いのは75歳以上の高齢者である。子供とお年寄りはこの時期特に注意が必要なのである。

 インフルエンザウイルスは直径80から120ナノメートル、オルソミクソウイルス科のRNAウイルスで細菌よりもはるかに小さく、生きた細胞の中でしか増殖できないという性質を持っている。抗原性の違いによってA,B,Cの3型に分類される。過去にヒトに感染し大流行したウイルスはすべてA型に属していて、ソ連型(H1N1)、アジア型(H2N2)、香港型(H3N2)の3種類であった。この3種は小規模な流行を繰り返すものの、すでに人間界に共存して季節型インフルエンザとなっている。

 ウイルス粒子表面にはHA(赤血球凝集素=ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)とよばれる2種類の突起が多数出ていて、この糖タンパクによって多くの亜型が出現する。血清型は
H1─16、N1─9で、組み合わせは16×9=144通りある。問題のトリ由来のウイルスにはこの
144通りすべての組み合わせが存在する。

 インフルエンザウイルスは、たとえて言うならば変装の名人でHAとNAの不連続変異という新種の亜型ウイルスが出現する。生きた細胞の中に自らの遺伝子を注入して増殖するという仕方がこの変異をもたらす。

 第一段階として、新しい亜型のインフルエンザウイルスがヒトの身近に出現する。
 第二段階として、そのウイルスが人体で増殖することが出来るようになる。
 第三段階として、効率的にヒトからヒトへと感染する能力を獲得する。


 こうして、今まで人類が出会ったことのない未知のインフルエンザウイルスが新型インフルエンザと呼ばれ、これがインフルエンザパンデミックを引き起こすというわけだ。

 さて、インフルエンザの治療薬として開発され、2001年2月に健康保険の適応が認められたのがリン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)とザナミビル(商品名:リレンザ)だ。ところが最近、このタミフルに耐性を持つ、つまりタミフルが効かないインフルエンザウイルスが出現し出したのである。CS-8958はこれに対応すると期待されているのだ。

 タミフルのような経口薬は、保存・備蓄には適しているが薬効成分がいったん消化管に入り血液の中に取り込まれて作用するため、ある程度の血中濃度を維持するには一定期間飲み続けなければならない。それに対して、CS-8958は吸入剤(ドライパウダーまたはネブライザー)なので気管、肺の細胞組織に直接取り込まれるため一回の投与で即効性を示すという利点がある。さらに、H5N1型の鳥インフルエンザウイルスの主な感染部位は肺の深部であるため、肺の細胞組織に直接取り込まれるCS-8958は効果的と考えられている。

 1918年のパンデミック(大流行)では、全世界のほぼ半数が感染したといわれ、2400万人以上の死者を出したといわれている。その後、このインフルエンザ(H1N1)は38年間続き徐々に毒性の弱い季節型インフルエンザとしてヒト世界のなかに共存している。

 そもそもインフルエンザウイルスには、熱にも湿潤な環境にも弱く生きた細胞の中でなければ増殖できないという性質がある。ウガイや手洗いなど、われわれ人間ひとり一人が実行する簡単な予防法がかなり有効なのである。

 インフルエンザの大流行を彼らが生き残るための仕業だと捉えるならば、人間が感染拡大を防ぐキーポイントは、感染者自らがとる行動抑制と自己隔離への強い意志ではないだろうか。
  


【編集部ピックアップ関連情報】

○新型インフルエンザ対策の達人  2009/01/31
 「季節性インフルエンザQ&A(厚生労働省)緊急改訂」 
http://newinfluenza.blog62.fc2.com/blog-entry-356.html

 

 


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