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失業者に無料で手術を施すサンフランシスコ地区にある病院

(記事概要)

 薄い青色の手術着に囲まれ、医師と看護士が目まぐるしく歩き回り、手術準備室には患者の列が並ぶ。彼らの足は手術用の包帯でぐるぐる巻きにされ、頭には医療用の帽子をかぶされ、手はチューブで吊るされている。

 「仕事に戻りたいんだ」と話すアダム・メサさん(57)は、クリーブランドで外勤として働いていた。だが、1年前に苦痛を伴うヘルニアを患って以来、働いて収入を得ることが出来なくなってしまった。

 メサさんは、土曜日に無料手術を受けた数十人のうちの一人。サンフランシスコのカイザー・パーマネンテ病院では、医療保険を持たない人を対象に無料手術を行っている。その内容は、大腸内視鏡手術、ヘルニア、へんとう摘出とさまざまだ。「スーパー・サージュリー・セッション」と呼ばれるこの医療サービスは、約84人のカイザーで働く医師、看護婦、医療技術者らの奉仕によって行われている。

 この大量手術は、16年前に設立された非営利団体「オペレーション・アクセス」がまとめ上げている。手術が必要だが医療保険に未加入の低所得者たちを助けるために、サンフランシスコ地区の病院、地域診療所、医療ボランティアを対象に活動を行う。すでに4300人以上の保険未加入者が、このプログラムによって医療を受ける機会を得ている。

 この土曜日のイベントは、カイザーのサージカルマラソン5周年として行われた。しかし、今年はそれ以上に意味がある。膨れ上がる経済的不況によって、多くの人が医療問題に直面しているからだ。

 「我々は、このサービスがとても多くの需要を抱えていることを知っている」とは、サンフランシスコ・コミュニティ・クリニック・コンソシアームの代表を務めるジョン・グレスマン氏。10カ所の診療所を抱えるこのクリニックの患者の多くは医療保険未加入者。「景気が後退したことで、人々は仕事を失い、医療保険を失っている」という。

サンフランシスコ・クロニカル紙3月8日付け。


(解説)

 この無料手術のイベントには、今年は26人の患者が参加した。本来なら手術費用の総額は26万ドルに上るという。一人当たり1万ドルの計算だが、患者たちの平均年収は7800ドルと手術費用を下回る。特別な貯えでもない限り、医療保険がなくては到底、手術を受けられない身の上だ。

 医療費が高く国民皆保険制度がない米国では、民間の医療保険に加入しなければ病気や怪我の際に多大な出費を覚悟する必要がある。救急車で病院までの搬送を受けるだけでも数百ドルを請求されるから、保険未加入者はうかつに呼ぶことさえできない。

 かといって、保険に加入するためにはある程度の収入が必要だ。そうでなくては、家族で月額500ドルを超えるような掛け金を支払えない。通常は、雇用主となる会社からの保険料の負担があるからいいようなものの、不景気による解雇で保険未加入者も増え続けている。カリフォルニア州では700万人が医療保険を持たず、うち100万人が子供といわれている。

 金がないものは、ろくに医療さえ受けられないお粗末な医療制度を持つ国にも関わらず、「オペレーション・アクセス」のような慈善団体が存在するのも、米国の多様性を表す面白いところ。団体の運営は完全に寄付ベースで賄われ、低所得者への無料手術はすべて参加病院の奉仕によって行われる。病院の設備利用、医師や看護婦の人件費など全てがボランティアベースだ。

 手術の適用を受けるのは、ヘルニア、のう胞・脂肪腫除去、肛門・直腸処置、耳・鼻・喉、目、整形外科、泌尿器、大腸内視鏡など。医療保険未加入者で、なおかつ年収が連邦政府の定めた貧困ラインを2.5倍以上上回らないなど、いくつかの基準をパスすれば適用対象となる。不法移民でもサービスを受けられることもあり、人種別の適用率では中南米系が全体の7割を超える。

 いままで実現できずにいた米国の医療制度改革も、オバマ大統領になってようやく動き始めた。国民皆保険制度を視野に入れ、年内メドの立法化を目標とする。人口の15%を占めるといわれる医療保険未加入者を、今後どこまで減らせるかに期待が寄せられているところだ。

 


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