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紫外線対策の意外な落とし穴 --忘れてはならない眼の予防--

 春先ともなると、ちょっとした外出でも思いがけず日焼けをすることがある。この時期、太陽光の紫外線量が急に増えるためだが、紫外線による生体への影響はなにも皮膚ばかりではない。高齢者に多いとされる皮質白内障や、翼状片(よくじょうへん)は、眼球が長年にわたって浴びた紫外線による影響と指摘する眼科医も多い。翼状片は目元から黒目にかけて結膜が異常発達するもので、ひどくなると黒目を覆ってしまうほどになり乱視や眼球の動きを悪くする恐れもある。

 肌の日焼けは目に見える変化なので美容的にも話題になりやすいし、皮膚がんとの関係も指摘され若い女性などにはとくに認知度も高くUVケアは怠りがない。ところが眼に入る紫外線というのはあまり意識されることがない。スキーなど雪山でなる雪眼炎(いわゆる「ユキメ」)のように一時的な角膜の炎症を経験するくらいで、日焼けのように毎日は意識されることがない。しかし、こうした眼に対する紫外線予防の意識の低さが、予防可能な眼の病気を引き起こしているケースがあると専門医は警鐘を鳴らしている。

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 ある企業が行った意識調査(対象者600人)によると、「どんな時に眼の紫外線対策をするか?」という質問に対して、サングラスは太陽の直射日光が強いと感じたときや、まぶしいと感じたときとの答えが83.3%を占めていた。つまり、まぶしい時だけサングラスをするという傾向が分かった。ところが、まぶしくなくても太陽光の散乱や反射によって紫外線は眼に入っていると専門家は指摘する。

 「太陽のまぶしさと眼が浴びる紫外線の関係」を調査した金沢医科大学の佐々木洋教授(眼科学・感覚機能病態学)によれば、佐々木教授らは、緯度、気候、環境の異なる沖縄、金沢、アイスランドの3地点でそれぞれ紫外線量の比較計測を行い、太陽高度が低いアイスランドの方が、太陽高度の高い沖縄よりも眼に入る紫外線量が多いにもかかわらず、皮質白内障や翼状片の罹患率は逆に低いことに注目した。まぶしさを基準に眼の紫外線対策を考えがちであるために起きた結果であると指摘している。

 佐々木教授らの報告によると、測定地点は、石川県金沢市(北緯36度39分、東経 136度38分 標高 41m)、沖縄県南城市(北緯26度12分、東経127度48分、標高0m)、アイスランド レイキャビック市(北緯64度8分、西経21度55分、標高18m)の3地点で、マネキンの眼や顔面の数箇所にUVセンサーを埋め込んだ測定器を使用し、それぞれの地域での紫外線量を調査した結果から意外な事実が明らかにされた。これら3地点の測定時の南中高度(日中の太陽の高さ)は、金沢74.1度、沖縄82.4度、レイキャビック34.3度で、レイキャビックがもっとも太陽をまぶしく感じ、逆に沖縄の太陽はほぼ頭上に位置するためあまりまぶしさを感じない。

 北欧など年間を通じて南中高度(太陽の高さ)が低い地域では太陽をまぶしく感じるためサングラスや帽子の着用が普及している。だが、沖縄など南中高度が高い地域では太陽がほとんど真上にあるためあまりまぶしさを感じないにもかかわらず、紫外線は反射して、あらゆる角度から眼に入ってくる。そのため、まぶしくないからといって眼の紫外線予防を怠りがちであることからこのような結果が出ていると、佐々木教授は指摘している。

 つまり、この「まぶしくない太陽」が実は曲者で、まぶしくても、まぶしくなくても眼におよぼす紫外線の危険性には注意が必要だと警鐘を鳴らしているのだ。

 またアイスランドと沖縄の比較では、太陽を正面にした場合に眼が浴びる紫外線の1日の積算量は、太陽高度が低いアイスランドのほうが沖縄よりも多いにもかかわらず皮質白内障や翼状片に罹患している患者が少ないのは、アイスランドでは大人から子供までサングラスや帽子を着用する生活習慣が根付いていることを表しているという。同様のことが、ハワイとほぼ同じ緯度に位置する中国海南省(北緯18度)での疫学調査でも示されていることから、子供のころからの紫外線予防が重要であることを佐々木教授は強調する。

 さて、翼状片という病気はあまり聞き慣れない病名だが、悪化すると手術で取り除かなくてはならないという。ところが手術しても再発するケースが多く、しかも再発した場合には極めて進行が速いという。再発率は若い人ほど高い傾向があるというから注意が必要だ。

 佐々木教授は、紫外線による眼の慢性障害は発症までの期間が長く自覚症状もないため、積極的に予防をする人が少ないことに警鐘を鳴らしており、ウサギを使った実験でもわれわれが日常生活で被爆するレベルの紫外線で角膜細胞や水晶体の上皮細胞に障害を生じる可能性があることを確認している。

 「まぶしさに関係なく、あらゆる方向から眼に入ってくる紫外線を防ぐには、帽子やサングラス、紫外線カット付コンタクトレンズの使用が有効で、しかも、どれか一つを使うのではなく2つ以上を併用することがポイントだ」と、皮膚と同様に眼に対する紫外線対策も怠らないことが必要と佐々木教授は強調している。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○サーフィン、ハワイ、そしてグリーン・カード  2007/11/16
 「サーファーに多い、翼状片という紫外線による目の病気」
 翼状片と言う目の病気の手術を左眼に受けました。
http://blogs.yahoo.co.jp/localsliper/26167555.html

 

 


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