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男性の時代到来? 不況を乗り切るヒントは「本質回帰」

 今年3月、アメリカのFox Newsが放映した深夜番組での出演者のコメントにカナダ国民が激怒した。問題となった『レッドアイ』という番組は、司会者のコメントに対して、ゲストが意見を言う形式のお笑いトークショー。3月17日に放送された内容は、カナダ軍の上層部が語った2011年以降のカナダ軍一時休止についてのコメントをからかったものだった。

 通常こうしたアメリカの深夜番組がカナダで流れることはないが、内容があまりにもカナダ軍、国民を侮辱していたため、これを見たカナダ人がYouTubeで流し、それが国防相にまで達するほどの大事件となった。

CTV(2009年3月24日)
CTV:カナダ3大ネットワークのひとつ。全国紙Globe and Mailなどを傘下に持つCTVglobemediaグループに属する。2010年オリンピックの公式放送局でもある。


(解説)

 ところで、このタイトルの『男性の時代到来』。心くすぐられる人もいるかと思うが、もちろん、男性優位を意味するわけではない。これは、去年7月、ビジネスで成功をおさめている日本人起業家のビジネスセミナーがバンクーバーで開かれた時、ある起業家が話した内容にあったものだ。その起業家は『流れは今、女性の時代から男性の時代に変わり始めている』と話した。

 自動車販売傾向を例にとって話した内容だったが、これまで女性志向的な多機能重視の車が人気であったが、最近は走りにこだわった男性志向的な車が人気を回復しつつあるというのである。どうやらこれは車に限った話でないらしく、これを『本質回帰』現象と説明していた。世界経済後退が始まる数カ月前の話だ。

 私自身はビジネスセンスが全くないので、これを聞いた時、これをどうビジネスに活かせるのかという発想はほとんど浮かばなかったが、しかし、世界経済が悪化の一途をたどる今になって、『本質回帰』という言葉が妙に気になるのだ。

 職業柄、どうしてもメディアを例に挙げてしまうが、カナダでは、広告収入に頼るメディア媒体は業績悪化で、テレビ・ラジオ・新聞を含め、経費削減のため結構大規模な人員削減を行っている。さらに2大全国紙のNational Postは4月、7・8月の2カ月間、月曜を休刊すると発表した。親会社キャンウエストの業績悪化がかなり響いている。

 話は変わるが、今年初め、大昭和丸紅カナダの支社長の講演を聞く機会があった。かなり興味深い内容だった。製紙部門一筋の同氏は世界における紙の動向をテーマに講演した。

 世界の紙の需要自体は減っていないが、ただ、新聞用紙は減っている傾向にあるという。アメリカのニューヨークで発行されている日刊紙を例に挙げ、10%から30%も減少していると説明した。インターネットの普及で紙媒体、特に新聞が打撃を受けているという。

 では、紙媒体がゼロになるかと言えば、それは『ない』ときっぱりと断言した。理由は、人間の目が電子媒体に対応していないからだという。これを同氏がIT革命を起こした張本人からの言葉として紹介していたから面白い。人間は生理的に紙による活字媒体を好むということなのだ。

 考えてみれば、人は何千年も昔から文字を紙に刻んできた。ここ20年、電子媒体が急速に普及したからといって人間の脳がすぐに順応するということはないのかもしれない。私自身も、ニュースはやはりパソコンより新聞で読みたい一人である。

 これが、ビジネが絡むと話は違ってくるかもしれないが、ニューヨークの新聞業界が紙から電子に媒体を移行しつつあっても、実際電子媒体の広告料は減少しているというのだ。広告収入が命のメディア業界、なかなか厳しい現状である。

 思えば、テレビやインターネットの普及で、より速く情報が手元に届くようにはなった。が、いつも感じるのは物足りなさだ。後で新聞記事を確認しようと今でも思うのである。

 話は前述のFox Newsに戻るが、謝罪文にはこれはコメディ番組であって、決してカナダ軍、カナダ国民を侮辱したコメントを意図的にしたわけではないと釈明していた。

 しかし、アメリカが起こした戦争のために、カナダ軍はアフガニスタンに2002年から2500人もの兵士を常駐させ治安維持にあたり、先月118人目の犠牲者を出した。笑ってくれる人がいれば何を言ってもコメディとして笑い飛ばせるというのは、あまりにもメディアとして無責任な話だと、このニュースを聞いて思った。マッケイ国防相自らがカナダ国民を代表して謝罪を求めたのも当然だろう。

 これでもYouTubeがなければ、カナダで話題にもならなかったに違いない。各メディア媒体にはそれぞれに役割があると思う。おそらく他の業界でも同じことだろう。その本質を見極める。今回の世界不況を乗り切るヒントが、『本質回帰』にあるような気がする。ジャーナリズムの本質回帰とは何か。すぐに答えは出そうにない。

 

 


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