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小さな2チャンネル?! フィンランドで絶大な信頼を誇る教育テレビ


フィンランドの保護者達の安心の印。
「ピックカッコネン(小さな2チャンネル)」のロゴマーク。

 洋の東西を問わず、忙しいママ(パパ)達にとって、慌ただしい朝や夕飯の準備中に、子ども達を引きつけるテレビ番組ほどありがたいものはないだろう。日本に「お母さんといっしょ」のような幼児向けの番組があるように、フィンランドには「ピックカッコネン(小さな2チャンネル)」がある。1977年11月1日より国営放送2チャンネルで放映が開始された「ピックカッコネン」は、ターゲット視聴者層(3歳から6歳までの子ども達)50%の視聴率(週間)を誇り、国民から絶大な信頼が寄せられている。

 放映時間は、平日は6時50分から8時20分頃までの保育園やプリスクールの登園前と、午後は17時23分から18時00分までの、育児休暇中、もしくは働くママ(パパ)達が夕飯の支度などで忙しい時間帯と、週末の朝はちょっと遅めに7時45分から9時までと、フィンランド人のライフスタイルにぴったり合うようにできている。

 厚い信頼が寄せられる最大の理由は、“暴力的な場面が無い”ことであろう。米国人のように、登場人物が身につけている服がセクシーすぎるだの、肌の色が人種差別的だのと、番組の詳細にクレームをつけることまではしないが、戦争や大惨事が報じられるニュースを子ども達には見せないようにするなど、フィンランド人の保護者達も、テレビを通じて子ども達の目に映るものには気を配っているのだ。

 その一方で、大人にさえなれば、男女問わず誰でも働くことが当たり前というお国柄、「子どもが子どもでいられるうちは子どもでいさせてあげよう」という考え方が浸透しており、早期教育を求める声は少ない。「ピックカッコネン」は、ほぼ8割型、学問的な要素は取り除いた純粋なエンターテイメント番組だ。


フィンランドの大自然にベストマッチのキャラクター、リョッリ。

 番組の構成は、50%がフィンランド産で、残りの50%はアメリカやカナダをはじめとする外国からの輸入ものを交えた、それぞれ15分から20分ぐらいのミニ番組を並べたオムニバス。番組の司会進行は、女性達数名を中心に、30代のお兄さん、60歳ぐらいのおばあさんなどが日替わりで担当し、これまた日替わりになっているミニ番組の数々をつないでいる。

 英語圏からの輸入番組をフィンランド語字幕付きでそのまま流すのは、英語の授業が始まっている小学生以上向けなので、「ピックカッコネン」では全てのプログラムがフィンランド語に吹き替え処理がなされている。国産番組と輸入番組の比率は50:50に保つよう製作側で考慮しているのだが、放映時間が増えるにつれ、国内で製作していては間に合わないので、輸入番組が増加傾向にあるという。とはいえ、年間100時間以上流しているという国産番組も、子ども達には人気が高い。

 例えば、まず、三つ編みのおさげ髪のお人形とライオンのぬいぐるみに扮したメインキャラクターが歌って踊る「ミミヤクク」では、1から10までの数字やごく基本的な身の回りの言葉の概念に触れ、何種類ものおしゃぶりを吸う中世の騎士が主人公の「トゥッティリタリ」には、大人なのにおしゃぶりなんて! と子どもたちは大興奮し、ヘルメットの工事現場から白衣の研究所までありとあらゆる職場訪問をする猫が登場する「カティコンッティ」を通じてバーチャル社会科見学もできてしまう。この職場見学がテーマというところが、前述の「働く大人が当たり前」というフィンランドのお国柄を表わしている。


いろんなフレーバー付きのおしゃぶりをチュパチュパ。
子ども達に大人気の騎士、トゥッティリタリ。



気になることはとことん追究!「カティンコッティ」で登場
する好奇心満載の社会科見学猫、カッティマティカイネン。

 また、輸入番組を通して、ハロウィーンや異国での違ったクリスマスの風習など、異文化にも触れられる。一時期、メキシコの修理屋さんが主人公のミニ番組が放映されていたが、たびたび黒いバーコード頭のおじさんが登場するので注目していたら、製作者の中に日系人らしき名前が並んでいた。さらに、旧ソ連時代のポーランドの名作「ナーレルッパコルヴァ」に注目してみると、その時代を超えた良質な教育番組ぶりに、優秀な国民の育成が目的の“教育重視”の旧共産主義国の一面が、そして当時の、実際の国民の暮らしぶりとはかけ離れた豪華な部屋の舞台装飾にも“国民の生活レベルが高い”ことを強調する旧ソ連のプロパガンダが垣間見られ、大変興味深い。

 ――このように、子ども達に見せておいて、そのすきに雑事を済ませようというのに、うっかり大人まで楽しんでしまう危険性もアリ。そんな「ピックカッコネン」は現在に至るまで日本からは番組を輸入したことが無いとのことだったので、勝手に日本を代表してラブコールを送っておいた。(フィンランド人に珍しがられる、子どもが楽しくクラッシック音楽に親しめる「ゆうがたクインテット」などがお勧めだ)

 フィンランドでは、8月初旬から9月の初旬にかけて保育園で、プリスクールで、新学期がスタートしている。平日の朝早くから、重たいまぶたをこすって朝の「ピックカッコネン」で目を覚ます子ども達の姿が日常的に戻ってくる季節だ。

 


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