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3年連続! 2009年末にフィンランドで再発した発砲事件背景から起こった議論

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2009年12月31日の午前10時頃、フィンランドの首都ヘルシンキ西郊、エスポー市にある大型ショッピングモールで男が短銃を乱射。発砲はモール内の食料雑貨店で起き、犠牲者は同店の従業員男性3人と女性1人が含まれた。乱射後、容疑者(43)は自宅にて銃で自殺。事件後間もなく、容疑者の元女性友達が自宅アパートで殺害されているのが見つかった。
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 上記のニュースは、日本のメディアでも報じられたのでご存知のことだろう。「また乱射か」と、ますます「フィンランド=銃で危ない国」というイメージを強くされただろうか。2007年のヨケラ、2008年はカウハヨキで高校、職業訓練校における乱射事件が報じられた時点では、それらの事件はフィンランドでは稀で、日常生活におけるフィンランドは昔と変わらず安全な国であるという趣旨の記事を執筆してきた。が、今度ばかりはその論旨が揺らいでいる。事件の詳細をお伝えするとともに、その根拠を明らかにしよう。

 まず今回の事件は、フィンランド国内でも外国人による犯行であったという点で新しい。事件の容疑者、イブラヒム=シュクポッリはアルバニア系コソボ人であり、1990年に旧ユーゴスラビアの崩壊に伴い、ノルウェーを経由してフィンランドに移住してきた。事件が起こったエスポー市レッパヴァーラは、交通の便の良さと治安の良さから子連れの家族に住みやすい快適な地域である。発砲が起こったモールは、セッロという北欧最大規模のショッピングモールで、被害者が撃たれたのは、その中でもフィンランド全国規模の大型スーパーマーケットチェーンであるプリスマ、日本で言うとケイヨーデイツーとダイエーを足して2で割ったような、誰もが日常的に足を運ぶ店だ。地元のフィンランド人は「プリスマにもおちおち入れなくなった」とショックを受けている。

 シュクポッリ容疑者は、アルバニア系コソボ人女性と結婚しており、3人の子どももいるのだが、この結婚前から被害者のフィンランド人女性と18年にも及ぶ途切れ途切れの交際が続いていた。シュクポッリ容疑者はプリスマへ物品を搬送する運送会社に勤めており、フィンランド人女性はプリスマの従業員であった。二人の関係は、シュクポッリ容疑者の執拗な態度と女性に対して殺害をほのめかすなどの脅迫行為により昨年後半に終わりを迎え、シュクポッリ容疑者には、この元女性友達について拘束処置命令が発行されていた。

 犯行の動機は、別れた元女性友達の次の交際相手に対する嫉妬と推測されるが、プリスマでの被害者の4人のうち一人が女性であることから(誤殺か?)、正確なところは不明だ。シュクポッリ容疑者は、被害者のプリスマの従業員達の顔を見知っており、容疑者は凶器となった口径9ミリの短銃で「一人一人を冷静にはっきりと狙いを定めて撃っていた」という証言がある。シュクポッリ容疑者はまず、元女性友達を殺害してからプリスマに赴き、さらに4人を射殺した。このように、今回の5人の殺害は、無差別に “乱射”したわけではなく、狙いを定めた“発砲”事件という点で、2007年、2008年の事件とは区別ができる。

 いずれにしても問題なのは、シュクポッリ容疑者には2003年と2007年の二回に渡って銃の不法所持や暴力などの犯罪歴があるということだ。1月6日付のヘルシンギンサノマット紙(オンライン版)では、フィンランドでは銃の不法所持が、8割がた罰金を取られるだけの処分に終わっていることが問題視され、大きく取り上げられた。シュクポッリ容疑者が銃の不法所持で支払った罰金は300ユーロ(約4万円)。フィンランド人の一週間の平均収入と同じ額とはいえ、こんなもので済んでしまえば安いものだ。

 さらに、2007年、2008年の事件との大きな違いに、今回の事件の容疑者には銃所持のライセンスが無かった点があげられる。これが、“とどめ”だ。2007年、2008年の事件の容疑者らは精神的に不安定な要素があったとされながら、ライセンスを所持していたため、2008年の事件後、銃のライセンスの申請者には精神科からの鑑定書の添付を義務付けるなどとした、行政や警察が努力してきたことがまるで功を奏していないのだ。

 シュクポッリ容疑者の故郷であるコソボ共和国は、独立一周年目を迎えたばかりの、元旧ユーゴスラビアの一部、セルビア国の自治州だった。ユーゴスラビア崩壊後も、セルビアが肥沃な土地、コソボを手放そうとしなかったがため、独立運動が広がり、紛争が勃発。そこから発生したコソボ難民はフィンランドにも流れてきた。

 人口が少なく、高齢化社会の高負担、高福祉社会を支えるべく移民、難民の受け入れに積極的なフィンランドだが、事件後、フェイスブック上には二つのスレッドが立ち、その一つは外国人、特にコソボ難民排斥の色が濃いものであった。また、知り合いのコソボ人女性達によると、コソボ人男性は情熱的だが、気性が激しく、女性に対する独占欲も強い傾向があると言う。女性に対する脅しも、コソボでは犯罪にはならないが、フィンランドではれっきとした犯罪だ。外国人排斥は行き過ぎだが、一口に移民、難民と言っても、それらの国々の背景にある歴史や文化を考えてみると、つい昨日まで戦争の渦中で銃器を取り扱っていたツワモノ達も中には含まれているのだ。移民難民の受け入れについて、よく議論になるフィンランドではあるが、違いが大きすぎる国籍の人々の受け入れは想像以上のものだと、認識を新たにした。

 12月31日の大晦日の打ち上げ花火は、エスポー市は被害者5名の冥福を祈って、市として花火の打ち上げを自粛した。2009年が終わろうという段階で、フィンランド全土を駆け抜けたこの事件のニュースに、国民の多くがまたしても意気消沈した。2010年こそは、フィンランド国内を震撼させる事件が起こらないことを願ってやまない。



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http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html


<2010年1月配信の対談ラインナップ>

■ゲスト:三浦展  インタビュアー:河尻亨一
テーマ:増殖する「シンプル族」のライフスタイルと消費性向(放送時間:104分)

広告や供給側の仕掛けが効きにくくなっている要因は、メディアの多様化だけでは
なく、コンシューマーの意識変化も見逃せない。静かに増殖する「シンプル族」は
その象徴であり、今後のサービス創出や商品開発で無視できない存在となっている。

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 <三浦展>プロフィール
1958年生まれ。82年一橋大学社会学部卒、パルコに入社、マーケティング情報誌「アクロス」編集室勤務、その後同誌編集長として「第四山の手」「新人類」「世界商品」などのキーワードを使い、時代、世代、消費、都市、文化などを分析。
90年に三菱総合研究所入社、99年に退社し消費・都市・文化研究シンクタンク
「カルチャースタディーズ研究所」を設立。
団塊ジュニア世代、団塊世代などの世代マーケティングを中心に、自動車、家電、情報機器、食品、化粧品などの商品企画、デザインのための調査等を行う。
また、家族、消費、都市問題などを横断する独自の「郊外社会学」を展開するほか、「下流社会」「ファスト風土」「2005年体制」「真性団塊ジュニア世代」「シンプル族」などの概念を提案、マーケティング業界のみならず、社会学、家族論、都市計画論など各方面から注目されている。
主な著書は
「下流社会―新たな階層集団の出現」 (光文社新書)
「団塊世代を総括する」(牧野出版)
「ファスト風土化する日本―郊外化とその病理」 (洋泉社)
「かまやつ女の時代─女性格差社会の到来」 (牧野出版)
「シンプル族の反乱」(ベストセラーズ)など
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◎パルコ時代。マーケティング情報誌「アクロス」での仕事
◎三菱総合研究所での仕事
◎カルチャースタディーズ研究所設立の動機
◎独立後の印象に残っている仕事。手ごたえを感じたエピソード
◎「時代を象徴するようなヒット商品、流行は社会構造の変化によって
  もたらされる」という持論の意味
◎「社会構造の変化」を見極めるための仮説と検証について
◎優れたマーケティング・リサーチャーとは
◎「シンプル族」とは。「シンプル族」のルーツ
◎「シンプル族」のライフスタイル
◎「ロハス志向」と「シンプル族」の共通性
◎欧米文化崇拝から和文化志向への変化
◎「シンプル族」のコミュニケーション、情報接触の態様
◎「モノ」から「コト」へ変化する消費
◎これからの商品開発、サービス創出、流通の考え方


■ゲスト:夏野剛  インタビュアー:本田雅一
テーマ:ビジネスイノベーターの流儀(放送時間:97分)

ベンチャー企業と大企業において、革新的なサービスの実現に取り組んできた
過程、手法など夏野流仕事術を公開。ITインフラビジネスの特質のほか、IT業界の
動向を多面的に解説。保守的な日本企業社会に渇を入れ、多様化する現代社会に
おけるビジネスパーソンのキャリア形成の考え方についても言及。 

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 <夏野剛>プロフィール
1965年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。ペンシルバニア大学ウォートンスクールにてMBA取得。ハイパーネット副社長を経て、1997年にNTTドコモに入社。松永真理(まつなが まり)氏らと「iモード」ビジネスを立ち上げる。iモード以後も「おさいふケータイ」をはじめとするドコモの新規事業を企画、実現する。2005年、同社執行役員就任。同社退社後、2008年5月に慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特別招聘教授に就任。株式会社ドワンゴの取締役のほか、複数の企業の社外取締役も務めている。主な著書に「ケータイの未来」「1兆円稼いだ男の仕事術」「グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業」など。
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◎技術的観点からは理解しにくいITバブル的投資ブームは、なぜ起こったのか
◎失敗から学んだこと。その後の仕事のスタイル
◎iモード展開の内実
◎人との出会いによって転機となったこと。人脈形成のコツ
◎FOMA再生物語(900iシリーズ)
◎イノベーションが起こりにくい日本企業の体質と経営の改善ポイント
◎複数の企業から求められている自身の役割とは
◎会社が変わっても通用するキャリア形成の考え方
◎ITプラットフォーム構築のインフラビジネスを成功に導いた戦略
◎クラウドコンピューティングに対する考え方
◎金融危機等の影響下で終了しているネットサービスが多いが、この難局を
  どう捉えているか
◎PCインターネット上で有料サービスを成立させるための重要な要素
◎アップルiPhone、グーグルの携帯OS「アンドロイド」搭載端末について

 

 


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