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うつ病は心の生活習慣病。日本人の15人に1人が「うつ」を経験!?

 脳卒中、アルツハイマー病、うつ病など「頭の病気」に関する市民フォーラムが、先ごろ都内で開催された。パネリストの1人で「うつ病」に関して発表した国立精神・神経センター総長の樋口輝彦氏が明らかにしたところによると、脳の神経細胞新生を阻害する因子として社会心理的ストレスが挙げられるという。

 一般に、神経細胞は再生しないと長いあいだ言われてきたが、海馬など脳のある部位の神経細胞は次々と新しく生まれ変わっていて神経の「新生」が起こっていることがわかってきたという。この神経細胞の新生を阻害する方向に働く因子として、職場の環境などによる「社会心理的ストレス」や、それによって引き起こされる「うつ病」が挙げられると樋口氏は指摘し、フォーラムに参加した800名あまりの市民の関心を集めた。

 うつ病の治療を受けている人は全国で100万人にのぼっており、治療を受けていない人を含めるとおよそ270万人に達するという推計調査がある。厚生労働省の特別研究事業「心の健康問題と対策基盤の実態に関する研究(平成14年)」によれば、一生涯のうち一度でもうつ病になったことがあるという生涯有病率は6.5%、1年間でおよそ2.2%にのぼり、日本人の実に15人に1人が「うつ」を経験していることになる。男女別で見てみると女性は男性の2倍で発症していることがうかがわれる。

 樋口氏によれば、「うつ病の原因はまだはっきりとは分かっていないが、脆弱性ストレスモデルといって、うつ病になりやすい気質を持った人が新たに何らかのストレスを受けることによって発症すると考えられる」といい、うつになりやすいとう気質だけでは発症しない点を強調した。心理的なストレスは慢性的であり長期間にわたって脳の下垂体からストレスホルモンが分泌され続けることなどによって病変が起こると考えられている。

 サルを使った動物実験では母子分離による研究が注目されている。これは生後半年くらいのサルの親子を人為的に引き離して飼育する実験で、親から引き離された子ザルが成長した後、実験的に与えられたストレスに上手く対応が出来なくなるというケースが観察されている。

 ヒトの場合も同様に、たとえば児童期に親からの虐待を受けた事実があると、成長して大人になっても子供の頃の心理的ストレスがトラウマとなり、職場での人間関係やストレスに上手く対応できず、うつ病を発症していると確認されるケースがでてきている。またこの場合、本人に虐待の記憶や自覚がなくとも、成長期の精神的防御反応として抑圧的に虐待の事実を本人が意識の奥にしまい込んでしまっている場合もあり、潜在的な意識の中で“脆弱的ストレスモデル”が形成されている可能性もあるという。

 近ごろ、動物園では園内で生まれた動物の赤ちゃんが母親の育児放棄によって死亡したり、やむなく人の手で人工的に飼育されたりするということが話題になっているが、人間社会においても育児放棄の問題は深刻な様相を呈しているようだ。若い夫婦が我が子に食事を与えず、殴る蹴るなどの暴行や、ヤケドを負わすという体罰を与えて虐待し、親が逮捕されるという事件が報道されたことは記憶に新しい。

 なぜ、我が子に愛情がもてない人間が形成されてしまうのか。物質経済の発展で日本の社会構造が何らかのかたちで人間の心にゆがみを生じさせているのだろうか。

 子育て支援にはいろいろな選択肢があるだろうが、まずは我が子に愛情をそそぐ事の出来る人格形成を支援することが急務といえる。子供に対する親の愛情は、やがては将来の人間社会を形づくる根本的要素に他ならないからだ。

 さて、うつ病の主な症状としては「うっとうしい気分、もの悲しい気分、物事に取りかかるのに時間がかかる、自分に自信がもてない」など、ネガティブな心理的症状が長期間にわたって出てくる。また、患者に対するアンケートで首や肩の痛みなど自律神経系の身体症状を伴う場合が6割にのぼることも、ある民間調査で明らかにされている。

 さらに深刻なのは、自分自身を存在価値のないダメな人間だと思い込んでしまい衝動的な自殺行為に発展してしまうケースだ。このようなケースには職場や家族など本人を取り巻く周囲の理解と協力が不可欠となる。地域社会も受け皿にならなければならない問題だ。

 脆弱性ストレスモデルでは脳の海馬における神経新生の減少、ノルアドレナリン系の機能亢進、ストレスホルモンの分泌過剰などがあるので、治療には(1)抗うつ薬の服用、(2)カウンセリングなどの心理療法、(3)休養を取ることやストレスのない豊かな環境での生活が重要となってくる。

 さらに、特筆すべきことはこれらの治療を専門医のもとできちんと行えば7割の患者は確実に改善するという点である。それには周囲の理解と協力が必要になって来るというわけだ。樋口輝彦氏は、「ある意味でうつ病は心の生活習慣病といっても良いほど、他人事でない身近な病気になってきている」と指摘している。



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