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グレート・ゲームを作るなら北米ではなくイギリス

失業率6.1%というイギリスで、今も順調に雇用力をつけているのがビデオ・ゲーム(コンピューター・ゲーム)業界だ。国内2万人以上に仕事を与え、イギリスのGDPに毎年10億ポンド(約千五百億円)を貢献し、世界に流通するゲームソフトの12%を発信している。この10年間にヒットしたタイトルを上げても、トゥームレイダー(開発:コア・デザイン )、グランド・オート・セフト =GTA (Rockstar North)、フェィブル(ライオンヘッド)などがあり、国内にある160あまりのゲーム開発スタジオのうち、26社が「世界で最も収益度の高い100スタジオ」の中に入っている(Develop誌 http://www.develop-online.net/develop-100)。

欧州の先進国中、一般家庭へのブロードバンド普及が最も遅れた国として「ネット後進国」「テクノフォビア(恐怖症)」という汚名をいまだ冠するイギリスだが、ことゲーム市場に関しては様子が違うらしい。その重要性は、マイクロソフト、ソニー、任天堂、ディズニーといった企業のゲーム開発部門がここに欧州拠点を構えていることからも明らかだ。英語の国と言う事と質の高い大学が世界中から優れた頭脳を惹きつけ、その中から独創的なゲームデザイナーが育つ。そして、彼らが働く環境にも秘密がある。

イギリスのほとんどの開発スタジオは零細企業サイズで、創業者自身がプログラマーであることも多い。「フェラーリ・チャレンジ」で日本でも知られるユーテクニクス<http://www.eutechnyx.net/>も、創設CEOは14歳からゲームを作っていたというブライアン・ジョブリング氏だ。今も開発に専念し、経営は二人の兄に任せている。本社も兄弟の故郷、北の街ニューキャッスルにある。

人前に出ないCEOに代わり「会社の顔」役を担う長兄ダレン氏によると、ここは典型的な「イギリスの開発スタジオ」だそうだ。大学のサークル的な雰囲気の中で、上下の関係なくアイデアをぶつけ合う。長距離輸送トラックのゲームを作るなら、全員で大型トラックの運転を習いに行き、ラボは空っぽ。出退社時間もフレキシブル。こんなに自由な雰囲気ではみんなのんびりしてしまうのでは、という日本的な心配を口にすると「大事なのは完成度の高いゲームをデリバーする事。その責任を理解できる社員ならこの待遇に感謝し、力を200%発揮してくれる」と、もともとの人選が大事だと鋭く言われてしまった。

この会社はそれでも、敏腕ビジネスマンである二人の兄が番頭を務めている。他は、天才プログラマーを抱えていても、会社経営は素人というところも多い。ELSPA <http://www.elspa.com/> とTIGA <http://www.tiga.org/> は、ともにこの業界をまとめる協会組織だが、そういう弱点をお互いにフォローしあうコミニュティでもある。互いを競合相手と見るより、Made in the UK というブランドのもとに結託し、知識や経験を分かち合おうという意識が強いのがアメリカや日本の業界との違いではと、TIGAの創成期に活躍したハッソン氏も業界イベントで述べている。

いい所ばかりのようだが、これからも英国経済復興の牽引チームの一員でいられるのだろうか。金融危機以降、ゲームを含むクリエィティブ産業は銀行が最初に融資をやめたエリアだ。対照的に、カナダとフランスでは政府がゲーム開発に関する優遇税制と積極的な援護策に出た。このおかげでずっとアメリカと日本に次ぐ3番目のゲーム大国だったイギリスはあっという間にカナダに抜かれてしまった。自らも膨れ上がる借金に苦しむイギリス政府はただ「がんばって」と声援のみ。

2010年の年明けには、ELSPAを長年率いていたP・ジャクソン氏など、ゲーム業界の立役者4人が大英勲章を含む名誉勲章に輝いた。しかし、かえって「必要なのは名誉ではなく優遇税制!」という声を強めることに。昨年提出された「デジタル・ブリテン議会法案」<http://services.parliament.uk/bills/2009-10/digitaleconomy.html> では、これがやっと提言に取り込まれた。「R&D経費の税控除などもとことん利用して生き延びているが、カナダと比べれば雀の涙だ。うちがもしカナダの会社だったら、給料の4割近くが国から支給されるんだよ!」とダレン氏。

すると近々、開発スタジオが大挙してカナダに移ってしまったり? 「答えはノーだ。ゲーム開発は一にも二にも人材。グレート・ゲームを作るなら北米ではなくイギリス、という確信だけは、皆まだ持っているものでね」と肩をすくめるELSPAのメンバー。まもなく日本でも発売になる「GTAチャイナタウン・ウォーズ」PSP版を心待ちにしている人も、遥か彼方イギリスの開発現場の苦労にちょっぴり思いを馳せてほしい、と思ってしまった。



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