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バンクーバーオリンピック開幕!! 五輪色に染まった町でスポーツの力を体感

 2月12日、バンクーバー冬季オリンピックが開幕した。開会式当日、ウィスラーでリュージュ選手の死亡事故が起こるなど、波乱含みの開幕となったが、とにもかくにも始まった。

 開会式前日まで、オリンピックが開幕するという実感がそれほど湧かなかった。1カ月前からメディアが増え始め、選手が現地入りしても、それほどオリンピックムード一色という感じではなかった。

 ところが、開会式当日から町がガラリと一変した。まるで魔法のようだった。ホグワーツのダンブルドア校長が手を2回打つと部屋のデザインが一瞬にして変わるように、誰かが手を打ったのだろう、町は一夜にして五輪色一色に染まっていた。

 人口が爆発的に増え、ダウンタウンは、人、人、人。溢れかえる人の波に、一度も誰にもぶつからずに目的の場所に到達することさえ不可能な状態になった。何をするにも列に並び、いつもの2倍も3倍も時間がかかる。面倒くさいことばかりなのだが、それでもダウンタウンにいるだけで、なんだかワクワクするから不思議である。

 13日にはモーグル女子、14日にはモーグル男子を観戦した。女子の試合は、降りしきる雨の中での決行。観客もずぶ濡れになりながら、雨、風、霧の中、声を張り上げて応援した。カナダ金メダル第1号の期待がかかるジェニファー・ハイル選手が2位に終わり、身も心も震え、「これも五輪経験か」と愚痴りながら、ずぶ濡れのまま会場を後にした。翌日の男子の試合は、前日の悪天候がウソのような快晴。気持ちいい青空が広がる中、熱気に包まれた会場は、カナダ待望の金メダルに観客の心も晴れ渡った。アレクサンドル・ビロドー選手が優勝を決めた瞬間、会場の観客も両手を突き上げて立ち上がり、大歓声とメープルリーフが大きく揺れた。
 
 自国開催初金メダル。そんな歴史的瞬間を目撃したという興奮は、不思議なもので、帰ってテレビの前で確認してから起こってくる。翌日、テレビで大騒ぎしている人々を見て、ますますその瞬間を共有できたことに感動してしまった。

 ビロドー選手は開催前からメディアに注目されていた選手だった。実力もさることながら、知的障害の兄を「自分が競技を続けていけるのは兄にインスピレーションを受けたから」だと誇らしげに語る姿が印象的だったからだ。この日も、ゴールのすぐそばで見守っていた兄の姿がテレビに大きく映されていた。弟の快挙に喜び、抱き合う姿は人々に感動を与えた。

 オリンピックに参加した選手全員に物語がある。参加できなかった選手にもまたそれぞれの物語がある。その1ページに触れられる瞬間がオリンピックの魅力なのだ。カナダの歴史に残るあの瞬間に、あの場所に、自分がいたのかと思うと今でも思い出しただけでゾクゾクしてしまう。4年に一度しか刻まれない歴史の1ページに自分も脇役で出演したことをちょっぴり誇らしく思うのだ。そして『スポーツの祭典』に取り憑かれてしまうのである。

 ビロドー選手は翌日の記者会見で、「前の日まではただのモーグル選手だったのに、一夜明けるとヒーローになっていた」と笑っていた。これがスポーツの力だ。この瞬間を経験した子供たちは、次のビロドー選手を目指し、そうしてオリンピック精神は引き継がれていくのだろう。

 大会前、選手村予算問題、サイプレスの雪不足、貧困層救済グループの反オリンピックデモなど、さまざまな批判が噴き出した。それでも選手たちの活躍を目の当たりにすれば、こうしたことはひとまずは休戦状態で、とにかく応援しようと思ってしまう。招致から数えて約10年、この日のためだけに不便な思いも、不愉快な思いもたくさんしてきた。ようやくバンクーバーの出番がきたのだ。

 これからもさまざまなドラマが展開されるのだろう。その瞬間に一喜一憂しながら、もう二度とない自分の町のオリンピックを思う存分楽しもうと思う。町には、さまざまなイベントもあふれている。長い行列でたまたま前後になった人たちと話を弾ませ、横に座った人と違う色の旗を振りながら一緒になって応援する。違う国の人々とこの一瞬だけ同じ時空と感動を共有するという興奮のるつぼの中にしばらくはどっぷり漬かりたいと思っている。

 


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