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日本政府のスシポリス計画と海外のなんちゃって日本食

<記事要約>

2007/2/17 The Sydney Morning Herald(シドニーの主要日刊紙のひとつ。1831年創刊のオーストラリアで最も歴史のある新聞)より

ベチャとした刺身、気の抜けた酒、それからもっと悪いことにカリフォルニア・ロールを出されたレストラン客は、今やスシポリスを呼ぶことができる。

海外にある日本食レストランの認証計画の準備を日本が進めているのだ。松岡利勝農林水産大臣は、「わたしたちが今目にしているのは、日本料理を提供しているふりをして、実は韓国や中国、フィリピンの料理というレストラン。日本の食文化を守らなければならない」と言う。

日本では一般的に、寿司職人は少なくとも6年以上かけて基礎的な技能レベルを訓練する必要があると考えられている。

シドニー郊外にある日本食レストランの韓国人オーナーは、「この大掛かりな計画には偽善の要素がある。味がよければ、重要なのはそのことだけだ」と語る。


<解説>

「スシポリス」は、日本政府の計画に反発して、アメリカのマスコミが使った造語。制度は2007年度の予算請求で一旦ゼロ査定となったものの、大臣の復活折衝で名称を「海外日本食優良店調査・支援事業」に変更して、満額の2億7,600万円認められた経緯がある。主な目的は、「日本食レストランへの信頼度を高め、農林水産物の輸出促進を図る」ことだから、PR対象は日本人ではないわけだ。

「なんちゃって日本食」は世界各地に存在する。一方で、伝統的な和食だけで勝負しているいわゆる本格派の日本料理店は減っているのではないだろうか? 企業の接待費の減少とも関係があるのかもしれない。

日本食が浸透して裾野が広まった今、シドニーにある数百店の日本食レストランの中で、日本人だけをターゲットにしている店はごくわずか。オーナーは日本人ばかりでなく、オーストラリア人、韓国人、中国人、レバノン人、インド人……と多彩だ。レストラン選びでは、味はもちろんのこと、出席者の顔ぶれや懐具合も考慮すべきポイントになる。日本人として非の打ちどころのない高級店だって、食べる方に値打ちが分からなければ意味はない。

シドニーのレストラン業界はシビアだから、ターゲット客層の嗜好に合った店は繁盛するし、そうでない店は淘汰される。オーセンティック(正統派)だろうが、まがいものだろうが、結局のところ地元で受け入れられなければビジネスはやっていけない。

イタリア映画『星降る夜のリストランテ』には、東洋人がカルボナーラにケチャップをかけるシーンが登場する。

思えば、わたしが子どもの頃は、スパゲティといえばナポリタンかミートソースだったっけ。ナポリタンは横浜のホテルの総料理長の創作メニューで、進駐軍の持ち込んだケチャップとスパゲッティの軍用食をアレンジしたもの、という話はずっと後になって知った。イタリア人が料理にケチャップを使わないってことも。

創作料理や違った味付けを「邪道」と片付けるか、「クリエイティブ」と評価するか、判断は難しいけれど、カリフォルニア・ロールの登場をきっかけに、海外で寿司が受け入れられるようになったのは既成事実だと思う。土地の気候や風土、食材、庶民の好みや懐事情、時代の背景に合わせて、食は変化し発展を遂げていく。

日本人にはまったく不評ながらも、2006年度「ザガット・ロンドン・レストラン・ガイド」で人気レストラン1位に選ばれたイギリス発祥の某日本食レストランチェーンは、オーストラリアにも進出して13店舗展開し、世界10ヵ国の総店舗数は70を超える。日本人が好む店とは客層やメニューの異なる「なんちゃってジャパニーズ」に足を運ぶ地元客は、オーセンティックな日本食を望んでいるのだろうか?


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