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今や世界経済浮沈の鍵を握る中国マネー

中国の外貨保有高が2006年に1兆ドルを超え、伸びはさらに加速して2010年には2兆ドルを突破するとの予測も出ています。数年前まではダントツ1位だった日本の保有高との差は拡大しています。国の金余りを背景に、中国国内では富裕層だけでなく、中間層まで巻き込んで短期で大きな利益を求める投機志向は高まるばかりです。

この目を見張るばかりの急速な経済成長によって、「世界の工場」と形容されてきた中国が世界の金融の中心にもなりつつあることを示したのが、先日の中国市場に端を発した「世界同時株安」でした。

今や国外からだけでなく、国内からも投機マネーが奔流のように金融市場に流入する中国抜きに世界の経済は語れなくなってしまいました。


▼中国マネーの源泉

それでは何をきっかけに中国経済はこれほどまでに発展したのでしょう。1950年代から70年代前半にかけての毛沢東時代の中国経済は極端に言うと「自給自足」を志向する自力更生路線でした。これを一変させたのが、毛沢東の死後間もなく断行された1978年の対外開放政策への転換です。

これは日本、米国、西欧の巨大な多国籍企業を中心に外国資本に対して大胆に門戸を開いた改革・開放路線と呼ばれています。

80年代半ばごろからこの改革は大きな実を結び始めます。それは当時の日本と米国との深刻な経済・貿易摩擦と密接に関係しています。日米間の貿易不均衡は、80年代に入ると自動車、家電、半導体・電子機器の米国への集中豪雨型の輸出により深刻化しました。一時は米国の貿易赤字の半分を対日赤字が占めるという異常な状態に至ったのです。

米国企業が日本とは対照的に、モノ作り、製造業への投資意欲を失い、サービス分野や金融部門に軸足を移していたことも大きな原因でした。しかし、「メイドインジャパン」の米市場での氾濫は米製造業の衰退に拍車を掛け、大量の失業者を生みました。これは対日感情の悪化を生み、日米両政府は円の対米ドル為替レートの大幅な引き上げに踏み切りました。

1985年のプラザ合意と呼ばれる先進国間の通貨・為替調整体制の構築で円の対ドルレートは1年間で1ドル=約240円から同120円前後にまで劇的に上昇しました。この円高は日本の対外輸出価格を倍増させたわけです。そこで日本企業は労賃の安い中国に、なだれを打って進出しました。米欧企業もこれに続き、中国が「世界の工場」へと変貌し、中国に世界のお金が集まり始めました。


▼世界経済支える中国

先進国の対中投資の爆発的進行で、1990年代に入ると、日本に代わって、米中貿易摩擦が取りざたされ始め、2006年には中国の対米貿易黒字は2000億ドル(24兆円相当)を突破しました。一方、貿易収支、財政収支などで構成する米国の経常収支赤字額は、8000億円という天文学的数字に達しました。

それでも米ドルは暴落せず、株価は堅調に推移しています。それは中国政府が日本政府などとともに、米財務省の発行する米国債を購入して大赤字の米国の資金繰りを支えているからです。中国の1兆ドルを超す外貨保有高はこのように異常な米国の借金体質を支える形で達成されたのです。

それではなぜ中国はここまで米国の借金に肩入れしているのでしょう。

それは日本と同様、巨大な米国市場の購買力が対米輸出を促進させ、奇跡的な高成長を実現させたたからです。米国の貿易赤字は世界のモノ、サービスを吸収することで発生しているわけですが、世界の総貿易額の2割をも占める米国の巨大輸入なくして、今後も世界の経済は立ち行かなくなっているのです。

中国は最近、国営の新投資企業設立計画を公表しました。米国だけでなく、遠くアフリカ、中南米諸国にまで巨額な黒字マネーで開発援助を拡大、石油などの資源確保に動き、また米欧の金融市場投資に拍車を掛けています。けれども、その舞台裏は非常に複雑です。紙幅が限られていますので、これはまた別の機会に論じることにしましょう。
 


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