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紙ジャケの次はアナログ・レコード復活!

■エルダー層をターゲットにアナログ・レコード復刻へ

「アナログレコードを買う層は、かつてはジャズファンが多かったのですが、今はロック世代に移っていると思います。アナログは針を落とすと初めから終わりまでストーリーを感じながら聴く感覚がありますし、音も圧倒的にいいという声をよく聞きます」 とは『週刊文春』3月8日号に掲載されたCDショップのバイヤー(仕入れ担当者)の話だ。 

僕自身も昨年、ある取材でレコード会社の上層部の方にお会いした際、これから団塊の世代が次々とリタイアして余暇を持つようになる。そこで<エルダー・マーケット>が活性化していく。そこに向けて、もう一度アナログ・レコードを聞いてもらうようなことを考えてみようかと思っている、というような話を伺ったことがある。

<エルダー・マーケット>は、マーケッティングの分野では、主に50代以上、とりわけ団塊世代の消費動向を指す言葉。 

ロックはその登場以来、常に若者層を最大のターゲットとしてきたが、時代を経てロックの“黄金期”を体験した層が中年から熟年と言われるような年齢に達し、その層がそうした音楽を愛好する、また(生活に余裕が出てきたためか)時間を置いて再び愛好し始めているところに、新たなマーケットの登場と認識されるようになってきた経緯がある。

そういう層がずっと馴染んできたのが、CDよりふた周り大きな、あの懐かしい30cm四方の紙製のジャケットである。当初はそのような大きさのジャケットの中に、CDが収められた変則的な商品「でかジャケ」というものも現われたが、大きな支持を得るところまではいかなかったようだ。

そしていよいよ、アナログLPの復刻が本格化しつつある。 


■アナログの現況を分析するための四つのカテゴリー

ただし、先の『文春』の記事は「わざわざ復刻盤を買わずとも、押入れにLPを死蔵している人も多いはず。新調したプレイヤーで、想い出の詰まったレコードに針を落としてみてはいかがだろうか」と締めくくられているが、これは「アナログLP」なら何でもいいという、ちょっと粗雑な議論のようにも見える。

今のアナログ状況を分析するには、それらを少なくとも下の四つのカテゴリーに分けて考える必要がある。

1. かつて日本国内で普通に流通していた、旧譜のアナログLP。

2. CDとほとんど同時に発売される新譜のアナログLP。

3. 洋楽のオリジナル・プレス盤(邦楽アーティストのリアルタイムで発売されたLPも
  一応このカテゴリーに含めることができる)。

4. 敢えて今、アナログLPの形で復刻された旧譜カタログのアナログLP


1.はエルダー層には懐かしい、日本でも80年代後半までは普通に売られていたLPレコード。中古レコード店などで購入することもまだまだ可能。

2.に関しては、あまり大きな話題になることは少ないが、一部のアーティストの新作アルバムは今でもアナログLPでリリースされている。

3.はその作品が最初にリリースされた形のもの。原則として中古品しか手に入らないが、60から70年代の有名なアルバムの中にはヴィンテージ品としてプレミア価格で取引されることが多い。

4.今年各社からリリースされそうなアナログ復刻盤はこのカテゴリーに含まれる。海外でもアナログ復刻は積極的に行なわれており、最新リマスターCDなどが発売と並行して、高音質を目的にした重量盤アナログLPが各社からリリースされているほか、アナログ復刻メインでやっているメーカーも存在する。


■オリジナル・プレス盤の価値が高い理由

注目したいのは 3.だ。あるコレクターと話していて面白いことを言われたことがある。 「同じアルバムを、リマスターCDや紙ジャケという形で何度も購入させられるんだったら、いっそのこと、その最初の形のオリジナルLPを持っていた方がいい」

なるほど確かにそうだ。もともとは同じ録音物が様々に「コピー」されて広く、長期にわたって流通してきたが、その「長期」の間には大元のマスター・テープが劣化したり(ひどい場合は消失したり)、質の悪いヴィニールを使って廉価盤で再リリースされたり、(CD時代になってからは)アナログの信号が安易な形でデジタル化されたり、また、ジャケットも、発売元が替わる等その時々の都合によってデザインが変更されたり、制作方法が変わってオリジナルの微妙な色合いが変わってしまったり…といった経緯を辿ってきており、必ずしも最新CDだから音もジャケットも最高の形に仕上がっているとは言えないものも少なくない。

それどころか、実はリマスターCDや紙ジャケ盤を制作する際に、メーカー・サイドが最も参考にしているのも、このオリジナル盤で、リマスターCDも「そのアルバムの一番最初の音」に近づけるために作られている面がある。 

もちろん、アナログLPには音質的な限界もあり、CDの方が音の器としては許容量が大きいはずだし、物理的には音質がかなり向上している作品は多いはずだ。

しかしながら、その許容量の大きさ故に「音」が変わってしまうこともあり得る。それは、アナログLPは、完成した録音テープの音(信号)をレコードの溝(という物理的な形)に置き換える「カッティング」という特殊な過程を経て製品化されるからでもある。

その時代にレコーディングされた音は、そのようなカッティングの過程で音が変化してしまうことをあらかじめ見越して制作されており、カッティングを経た最終的な仕上がりをアーティストやレコーディング・プロデューサーが確認していたケースは多い。

当然、ジャケットに関してもアーティストの目が行き届いていると考えていて良い。それだけに、オリジナルの形、オリジナルの音には作品としての「重み」があるのである。 

同じアナログLPでも、1.の場合は、残念ながらそのような「重み」には欠ける。

洋楽の場合は、海外から送られてくるマスター・テープが「オリジナル」より少し落ちるコピー・テープであることがほとんどであり、当然カッティングは日本側に任されていた。70年代半ばくらいまで、日本には「ロック」の音像を理解せず、ひたすら音が歪まないことだけを考えてカッティングされていたレコードも多いと聞く。ジャケットに関しても同様にアーティスト・サイドの目が行き届いてない分、オリジナル通りとはいかなかった。


■デジタル音楽普及の反動

一方、日本独自の形態であるレコードの「帯」のように、かつてのロック・キッズ=現在のエルダー層にノスタルジーを感じさせるアナログLPならではの要素は見逃せない。それに、日本の洋楽ロックの歴史を作ってきたのは、これらのアナログLPなのだ。 

そして、これからリリースが増えて行きそうなのが 4.である。2から3月にインペリアルから、Tレックスやピート・タウンゼンドらのかつての名盤12タイトルがアナログLPでリリースされるのを皮切りに、ユニバーサルミュージックも、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやエリック・クラプトンといったアーティストの60から70年代ロックの名盤に加え、ジャズなどの作品も含め、年内に100タイトルのアナログLPをリリースする予定だ。

価格が少々高めになってしまうのが残念だが、紙ジャケット制作で培われたノウハウもつぎ込まれて 1.や 3.の“テイスト”も導入されるなど、ちょっとした大人の贅沢を感じさせてくれる仕様を目指しているようだ。

後は海外メーカーのものと競争しながら、音質やカッティングへのこだわりに関する経験が積み重ねられていけば、ミニチュアであった紙ジャケに続く、日本発の高音質、実物大の精巧なレプリカとして定着していく可能性もある。 

音楽がインターネットなどを経由した配信で、形のない状態で売られ始めたこの21世紀になって、エルダー層を中心に再びアナログLPがブームになるとすれば、それは「コピー」を通して広く流通してきたポピュラー音楽の「もともとの形」を再確認するための、メーカー、ユーザーそれぞれによる原点回帰運動なのかもしれない。



【関連情報】

○フォーク&ニューミュージック音楽情報マガジン 風に吹かれて 2007/07/13
 「アナログ・レコードが静かなブーム。今こそレコードで聴き直したい。
  あの永遠の名盤が、LPレコードで続々と復活!!」
http://mysound.jp/folknewmusic/2007/07/000195.php


○ブログ愉快団 2006/09/01
 「アナログで聴くか、デジタルで聴くか─18年ぶりにLPレコード復刻─」
http://yukaidan.jp/archives/2006/09/18lp.php


○web Rooftop 「 THE ROOSTERS→Z DO the VINYL!!!('07年1月号)」
http://rooftop.seesaa.net/article/30861600.html

 

 


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